posted by 渡月・トワヤ
at 16:22:49 │
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201号室のベッド。
怪我もすっかり良くなっていたボクは(貧乏性ゆえ)動き回りたくてしょうがなかったけれど、彼がお見舞いに来てくれたのが嬉しくて、ごろごろとベッドに寝転がったまま話をしていた。
「心の兄貴の弟だからさ、『心の兄弟よー』って言ったんだけどなぁ」
言葉足らずが祟って。
そのせいで「にーちゃん」と呼ばれちまったと、大げさに肩を竦めてみせる。確かにオトコマエだって言われることはたまにあるけれど、これでもれっきとした女子なんだ。
彼は、ボクの話にくすくすと笑いながら
「ゆっくり休めよ。な、
トワヤ兄さん」
なんて言う始末。明らかに面白がってる・・・。
「エイプリルフールはとっくに終わったっつーの!」
ボクはがばっと跳ね起きて、ツッコミ一閃。
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「あー、はいはい。そう興奮しないの」
傷口が開くぞ、と彼はボクの両肩に手を回してそっと横たわらせる。生命賛歌のおかげで傷口もきれいに塞がっているけれど……まぁ、いいか。と素直に甘えることにする。
彼はベッド脇に腰を下ろし、大きくて温かい手のひらで、ボクの頭をそっと撫でた。
そのまま手のひらを滑らせて頬に添えると深い呼吸を一度。そのまましばらくボクを見つめる。
刹那、その瞳の奥で揺れた色に、ボクは僅かに目を瞠った。
もしかしたら、ボクが思っているよりも、ずっと。
そしてそれは、ボクの想いと同じなのかもしれなくて。
そう思い至ると、申し訳なさ半分、嬉しい気持ち半分。
いや…不謹慎なのは、わかってるけれど、やっぱり、ちょっと嬉しいのが勝ってるかも。
「今日はずっと傍にいるからな」
柔らかく、陽だまりのように微笑んだ彼。
そこに込められた想いを、ひとつもとりこぼすことなどないように、ボクは彼をじぃっと見つめた。
……ありがとう。
「うん。今日はもう、だいちの傍でおとなしくしてるよ」
だから、だいじょうぶだよ。
ふわっと微笑んで、空いた方の彼の手を取り、指を絡めた。
繋いだ手も、心も。
なんて、あったかいんだろう。
まるで、陽だまりでそよと吹く新緑の風と一緒にお昼寝してるみたい。
彼が言葉にしなかった、言葉を超えた想いを。
ボクは本当にちゃんと、理解ってあげられているだろうかと考える。
自分の心は自分にしかわからないように、
相手の心は相手のものだから、
解ったつもりで実際は違っていることも多いけれど、
それでもやっぱり、一番大切な人のことぐらいは、ちゃんといつも理解っていてあげたいなぁと思うんだ。
posted by 渡月・トワヤ
at 23:14:24 │
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結社の団長が交代した。
「結社の団長は在校生のみ」という決まりに基づいた交代で、新団長は心の兄と(勝手に)慕っている先輩の弟さんらしいということもあり、さっそくボクも挨拶に。
そしたら「よろしくな、にーちゃん」と言われてしまった!
…。
ボクの入団試験の時にも、なんだか「凛々しい」という理由でとある先輩から男だと間違われた前科もあり、それを逆手にとって今年のエイプリルフールで「実はボクは男だったんだ」とカミングアウトしたところだったが、あくまでそれはネタだっ!
「こらっ!にーちゃんってなんだよ!エイプリールフールはとっくに終わったっつーの!」
カーッと一喝。
そこへ、とある先輩が
「それはトワヤが自分で『心の"兄"弟よー』って言ったからじゃないのか」
とツッコミ。
ボクはゆっくり瞬いて、振り返った。
心の兄の弟さんだから…と思ったんだが、まぁぶっちゃけあんまり深く考えずに「心の兄弟よー!」とジャイ●ンよろしく言い放ったのが原因て。
兄は兄でもボクではなく、にーさんって意味だったのだが!
そんな説明もできない、後の祭り。
あぁぁ日本語ってムズカシイー!
posted by 渡月・トワヤ
at 12:33:42 │
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関ヶ原といえば、西暦1600年に天下分け目の戦いが行われた古戦場。
それから400年以上もの時を経て、彼の地は今、再び戦場になった。
緒戦も緒戦。
彼と合流してすぐなのに、ボクは妖狐の軍勢の前に力尽きた。
──もっと一緒に戦いたかったなァ──・・・
ドクドク、と脈打つような痛みに誘われ遠ざかる意識の淵でそんなことを思っていたのは、ボクの目に彼の背中が映っていたからかもしれない。
その後、ボクが意識を取り戻したのは、琵琶湖にほど近い場所に設営された寮の出張所、簡易ベッドの上だった。
生命賛歌のおかげで、ボクは一命を取り留めた。痛みは間断なく襲ってくるけれど、その痛みはすなわち自分が生きているという確固たる証拠。
けれど生命賛歌がなければ、いまごろ……。その先に続く言葉を頭から追い払う。背筋を冷たいものが走った。
徐々に焦点があう視界に、心配そうにのぞきこむ彼の顔が映った。
あぁ、だいちは無事だったのだな。
ボクはまるで条件反射のようにふっと微笑った。その瞬間、彼は反対にくしゃりと顔をゆがめる。それがまるで泣いてしまいそうに見えたのは、ボクの思い過ごしだろうか?
彼はそろそろとボクを引き寄せると、その腕で柔らかく抱きしめて。
「…守れなくてゴメンな」
と耳元、小さな声で言った。
…そんなこと、気にしなくていいのになぁ。
ボクは彼の想いが嬉しくて、ふぅと息を吐き目を細めた。
ゆっくりと身体を離して再びボクをそっと横たわらせてくれた彼の頬に手を伸ばすと、途端に脳天を突き抜けるような激痛が身体じゅうを支配する。ぐるぐる巻きの包帯の白がやけに目に眩しくて、ボクは顔を顰めた。
それでも。
かまわず彼の頬に手を添えて。
「なんてカオしてんのさ。このケガは別にだいちのせいじゃないんだから、謝ンないでよ」
どう考えたって、ボクが重傷を負ったのは自身の未熟さゆえだ。彼がそのことで自分を責める必要は一切ない。
彼がボクを「守りたい」と想ってくれていて、事実、ボクは彼の傍にいるときだけは、心から安心していられる。だから、そう想ってくれていることはとても嬉しい。
けれども、それとこれとは別問題だ。
ボクは、彼に守られるだけの存在ではいたくなかった。
その背に庇われるのではなく、彼と手を携えて、隣を歩みたいのだ。彼を支えるだけの毅さがほしいのだ。
ボクが不甲斐ないばかりに心配ばかりかけて。そんな顔をさせてしまって、ゴメン。
もっとちゃんとできればよかったね。
なのに、「ゴメン」と謝ることですら、先を越されてしまって。
あなたには本当に敵わないなぁ。
ボクは彼の目を見て、今度はしっかりと微笑んだ。
本当に謝る必要はどこにもないよ。
こうして傍に居てくれる。それだけでちゃんと「守られている」と感じられる。ボクにとってはなによりそれが大事なこと。
だから、ゴメンの代わりに。
「ありがとう。愛してるよ、だいち」
傍に居てくれて、ありがとう。
ボクはもう一度ふっと笑って小さく呟いた。
今回の戦争では、こんなボクにもまだやれることは残ってる。
束の間の休息のために目を閉じたボクの耳に届いた、彼の「愛してる」という言葉。
そっと頭を撫でてくれた手のひらの温かさと彼の心とが、ボクの痛みを間遠にしてくれたように思える。
そしてボクはこの上ない安らぎを感じながら、すぅっと眠りに落ちた。
posted by 渡月・トワヤ
at 15:13:30 │
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先月終わりの、数年ごとにしか見られないらしい、木星・金星・月の天体コラボ。
「一緒に見たかったな」
という彼の言葉に、ボクは心のなかで頷いて。
ならば、と。
「今度、一緒に星見に行く?」
ボクは言った。
風の強い土曜日の、白銀寮201号室。
ボクの提案に、彼はふむ、と一瞬の間を置いて、ぱっと顔を輝かせた。
「いいね、それ!」
彼の大きくてよく通る声と笑顔は、ボクにとびきりの安心感をくれる。ボクは彼の笑顔に答えるように破顔したものの、
「けど、星のことはあまり詳しくないから」
教えてくれるか?と傾げた彼の言葉に、頬をひきつらせる。
教える、と言っても。
ボクだって、有名どころの一等星ぐらいならなんとなく判るけど、それはあくまで「判る」程度だ。そも、判っている(と思っている)星が本当にそうだという自信はどこにもない。
いいよ、と頷くにはあまりに自分の知識は薄っぺらくて。
「ボクもあんまり詳しくないから、あんまり期待しないでな」
苦笑いして、彼がコーヒーの入ったマグに手を伸ばした瞬間、さりげなく壁の書棚から一冊の大きな本を取り出した。
星・星座の本。
雑誌を見るように何気なく、ぱらぱらっとめくり、春の星座のページを探した。
全天の星空の写真が大きく掲載されている。
そしてめぼしい一等星や星座、春の大三角形のこと。
おとめ座のスピカは有名だ。ボクだって知ってる。
へぇ、星占いのアレとは、違うんだなぁ。
だいちの星座(しし座)も春の星座だ。
そういえば流星群って見れたりしないのかなぁ。
好奇心のまま、毎年日本で観測される流星群が掲載されているページを開いた。
…お、しし座流星群は聞いたことがあるぞ…って、えー?11月って、なんで?しし座は春の星座じゃないのか!?しょうがないなぁ…あ、でも4月下旬はこと座流星群が見れるのか。
下旬っていっても…今年はいつが極大なんだろう?
パームトップをすぐさま起動し、こと座流星群について、ググったり、メモしたり。
調べること自体が楽しい、という知識欲に半ば乗っ取られ、隣に座る彼がコーヒーを啜った後ずっとこちらを眺めていることなど気づきもしないボクは、目を輝かせたり、ちょっとニヤっとしたりして百面相だったと思う。
なけなしの理性は風の前の塵に同じ。いわば野生の状態。
「とわって、知ったかぶりしたりカッコつけたりしないよなぁ」
へ?
耳に飛び込んできた自分の名前に、天空を駆け抜ける風のようになっていたボクは呼び戻され思わずマヌケな声を出してしまった。
(そして、彼をちょっとほったらかしにしたことにも気づくが、これは言わないでおこうと思った。)
まぁ、確かに。
カッコつけてもどうしようもないところだしな。
「いや、だって、知らないモンは知らないし」
知らないことは、これから知ればいいだけのことだと思うから。
顔を上げたボクは、柔らかく微笑んでいる彼と目が合う。
「そういう自然体なところがとわの良いところだな」
そして、まるで小さい子に「いい子いい子」とするように、その大きな手のひらでボクの頭を何度もなでた。
──え、えぇ?!
ボクは目を白黒させ、瞬間湯沸かし器のように、頬はおろか、耳まで真っ赤に染まるのを自覚した。
見た目の所為か、はたまた育ってきた環境の(ホケホケしてる母親のおかげかなぜか「しっかり者の長女」で通っていた)所為か。ボクは子ども扱いされることに慣れていない。
誰かの頭を撫でてやることは何度かあっても自身が撫でられるという行為は、あまり縁がなくて、正直なところを言えば、内心かなり狼狽えていた。いったい、どんなカオをしていいのやら。
けれど不思議と感じたのは、頑なだった心がふっと溶けてしまうような安堵感で。
ボクは、視界がじわっと潤んだ。
そして、ボクは悟る。子供扱いされることによって生じた動揺は、自分が彼にとって「守るべきもの」として慈しまれているという実感にすり変わったのだと。
彼の傍に居るようになってから今までに、もう何度もボクに訪れてきた実感のひとつ。
嬉しくて、でも、心がこんなふうに溶けてしまうときは、照れくさくてどうしようもなくなる。
そうして素直になれないボクは決まってちょっとズレたことを口走ってしまうのだ。
「……星の名前とかより二人で見ることの方が大事じゃないかと思うっ」
星座の名前を調べるために本を広げた自分の行為を、真っ向から否定してしまった。
──あーあ、相変わらず残念だな、ボクは。
そして、ふ、と小さく苦笑う。
実際、星の名前を知ったからと言って、その星の輝きは変わらないけれど。
その瞬きを指さしながら二人で空を見上げたら、その星の名前と共にその瞬きも「二人の幸せな想い出」のひとつとして、胸に刻まれるような気がするのだ。
だからボクはその想い出となる未来のために今日、星の名を知ろうと思った。
ただ、それだけのこと。
posted by 渡月・トワヤ
at 17:11:56 │
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新しい通学路。
強い風が、びゅうと吹いて
蕾がほころびはじめた、桜の枝を揺らす。
空を渡る風。ちぎれる雲。
夜道を照らす月明かり。
風にゆれる花。
風景に心動かされるたび、
この瞬間を一緒に見て分かち合えたらいいのに、と思わずにはいられない。
いつかの星空を
違う場所でそれぞれ眺めていたことを後日知った彼は、
「一緒に見たかったな」
と少し寂しそうに笑った。
──ここに、あなたがいたらいいのに。
あの日、離れた場所で互いが同じようにそう想いあっていたのなら、離れていたことにも意味があるのではないか、と。
いつだって、ボクの心の中にはあなたが居るように、
あなたの心にも、ボクを住まわせてもらっているなら、
これほど嬉しいことはなくて。
隣にいてくれるのが、そんなふうに想いあえるあなたで良かったって、思うんだ。