posted by 渡月・トワヤ
at 19:30:35 │
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ボクは陽が暮れるのを待って、寮の屋上に上がった。
あまり長居をするつもりはなかったけれど雪が舞ってもおかしくはない寒い日だったから、防寒対策はバッチリと。
陽がとっぷりと沈んで、あたりが闇に包まれるころ。
西の中空に大きく輝くジュピター。
そして視線を少し下げると、木星よりはいくぶん控えめに、されど充分な存在感を放つビーナス。
さらに視線を地平へ下ろす過程にきれいな三日月が浮かんでいる。
あぁ、まるで月のお皿に星の滴が落ちていく一場面を切り取った幻想的な絵を見ているみたいだ。
その三つの輝きをただ眺めていただけなのに、
ボクの中に、とくとくと何かが流れ込むような、あるいは、背中をそっとさすってもらっているような感覚になり、きゅっと縮こまっていた心がなんとなく緩む気がした。
そういえば……
タロットカードの「星」は希望を表すのだっけ。
西の空を見ているうちに、なんとなくそういうことを思い出して、なるほどな、と納得したボクがいる。
自分の胸をあったかく満たすもの。
それに気づいて、ボクはふっと表情を綻ばせた。
吹き抜ける風は未だ冷たく、鼻の頭がツンと冷たい。
それでもやはり、今日のこの西の夜空は、間違いなくボクを暖かい気持ちにさせたんだよ。
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posted by 渡月・トワヤ
at 23:26:52 │
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「あまりに凛々しくて──」
そんな言い訳とともにボクは(また)男子に間違えられた。
最近はめっきり減ったけれど、以前はしょっちゅう男子に間違えられていたボクだ。
だから、ショックなんて全然受けてなかったしむしろ懐かしさすら感じていて。
実際ちっとも気にしてなかったから「いいよ、いいよー」なんつって笑って済ませるつもりだったんだけど、土下座までされちゃって内心焦っていた。
でも、あんなふうに殴ってくれって頼まれてるのに遠慮しすぎるっていうのも逆に失礼かなーって。(←
背筋をしゃんと伸ばし、一本筋の通った女性のことを「凛としている」って言うもんな。
明るく、強く、たくましく。
そんな人になりたいから「凛々しい」って言われることは、自分の理想の姿に少しでも近づいているような気がして嬉しいんだよね。
だって、男でも女でも、カッコイイほうがいいじゃん。
posted by 渡月・トワヤ
at 23:06:36 │
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まったりぼんやりと過ごせることでは自室に次ぐ場所、ゆきあかりの電灯が灯る部屋にボクは居た。
昼間の小春日和はどこへやら、夜になって冷え込んできたので、猫たちと一緒にコタツでぬくぬくしているのだ。
図書館で借りてきた本を数冊お持ち込みし、篭城の構え。
もちろんみかんは必須だ。
ボクが入団したころと比べるとここもすっかり静かになっちまったけれど、その分本を読むにはうってつけの場所といえる。ひざの上に乗ってくる猫は(重いけれど)あったかいし、なんと言ってもコタツなのだ、疲れればそのままごろんと転寝モードになれるのがいい。
最近ハマっているのは、とあるライトノベル。外伝含め20巻は下らないというシリーズだ。今はその5巻目に突入している。
今までも何度かライトノベルと括られるものを手にとってみたことはあるけれど、誤字脱字が目立っていたり言葉遣いがおかしかったり、そも文章力が拙かったりと散々で、その分類の本に対しては半ば諦めモードのボクだった。しかし今読んでいるこのシリーズは、ラノベだからこそさくっと読める気楽さが逆に良かったようで、ツッコミたいところはまぁあるものの、苦痛を感じるほどのこともなく読み続けている。
主人公が良家のお姫様なのに努力家でオトコマエなところも悪くないし、もうすでに完結しているシリーズなので安心して先へ進めるということも手伝って、図書館で次々と借りてきては読んでいるというワケだ。
黙々とページを繰り活字を追っていたけれど、襖がすっと開いた気配にボクは顔を上げた。
襖から顔だけを覗かせているのはここの団長だった。彼は春だろうが夏だろうが秋だろうが冬だろうが、まぁつまるところ1年中マフラーを巻いている。ちなみに暑くはないらしい。ボクは暑がりだから、ちょっとだけ彼がうらやましかったりもするんだけれど。
「トワヤ、聞いてよ」
うう寒い…と背を丸めていた彼はこたつに入りながら、なんだかヤケに嬉しそうにそう切り出した。
ボクは読みかけのページに栞を挟んで脇に置き「ん、なんだい?」と首を傾げる。みかんの入ったかごをすっと彼の前に押し出したそのとき。
「現代文81、古文・・・・・・」
彼が滔々と喋りだした内容に、ボクは目を白黒させた。現代文や古文それにそれぞれ数字が続いているから、どうやら先に行われた学年末考査の結果らしい。けれど、びっくりしたのが先に立ったのもあってボクはただ「ふん、ふん」と頷くことにのみ終始する始末。まぁ、人のテストの点数を覚えている必要はないのだけれど。
報告し終わった彼は最後に
「なんかすごかったよ!」と満面笑顔で締めくくった。
そうか、すごかったのかぁ…嬉しそうな彼につられてボクは目を細め、初めて「ああ、そういうことか」と合点が行く。
目の前で笑う彼と、約一年前のボクが重なったからだ。
ボクが在学中、特に高校三年生になってからは、恋人をはじめとして、いろんな先輩が勉強を見てくれていた。そのおかげでテストの回を重ねるごとに、返却されるボクの答案用紙には丸が増える。結果として成績は上がり、無事に希望する大学への入学も果たすことができたのだ。
良い点数が取れるたびに「ありがとう!」って笑うボクに「トワヤのがんばりの賜物だよ」と勉強を見てくれた先輩は口をそろえて言ってくれた。でもやっぱり、それはぜんぶ、先輩たちのおかげだってボクは思ってる。
だからボクは、卒業したら恩返しも兼ねて後輩の勉強を見てあげるんだって決めていたんだ。
今回の学年末考査は、ボクが卒業した後で行われたテストだ。
テスト前に「そこに座れ♪」と言って、このコタツで見てあげた勉強。だから彼はボクの、一番弟子ともいえる(?)。
あの時「僕のできなさ加減に呆れたりしないでね…」と勉強を始める前からなんだか懺悔よろしく、しおしおと正座していた彼だったけれど、なんだ、やっぱりやれば出来る子だったってことだよね!
彼の嬉しそうな様子を見ているだけで、ボクもじゅうぶん嬉しかった。
もしかしたら自分が良い点を取れたとき以上の嬉しさかも……。ふと一瞬、そんな考えが浮かんで、しかしすぐに消えた。そのときのボクが(その当時はまだただの先輩だった)恋人に見せたはしゃぎようは、きっと相当なものだったろう・・・。ボクは考えていることがすぐに顔や態度にでる。殊に、嬉しいとか楽しいとか、そういう喜びごとに関しては纏う風の色さえ──見る人が見れば、花が飛んでいるように見えるかもしれない──違っているのだろう。
それを考えれば、団長の喜び方は、まだ可愛げがある。
嬉しそうに笑う団長を見て思う。
ボクも少しは恩返しできたかなぁ。
posted by 渡月・トワヤ
at 14:01:38 │
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空へまっすぐ伸ばす枝に、白い花が咲いている。
今年は少し開花が遅いらしく、今が見ごろを迎えていた。
心なしか、遠く見える桜の枝も赤みを帯びてきたみたいに見える。
視線を落とせば、今はなんの作物も植わっていない畑の隅っこに黄色や白や紫のクロッカスが咲いていた。
春の足音は、そこかしこに。
うららかな陽射しが揺れる、晴れた日の午後。
寮の周辺を散策に出かけたボクは、この昼間の時間帯にすれ違う家族連れの多さに少し首を傾げ、あぁ、と納得する。そういえば、今日は春分の日だった。
今月頭に卒業し、進路も無事に決まっているボクは今、けっこうお気楽に日々を過ごしている。そりゃあ、来月からは大学生で、そのための準備は進めているけれど、高校を卒業した今のボクにとっては毎日が休日みたいなものだったから、曜日に縛られることもなければ、カレンダーの今日の日付が赤でも黒でも、別段構わないでいられるのだった。
歩く速度で、陽光がちらっとボクを射て。
ボクは目を細め、天を仰ぐ。
白い花が綻ぶ枝ごしに見た空は青く、高く。
かすかに風に乗って届くのは、清々しく甘い花の香り。
──ああ、春がくる。
ボクは深呼吸ひとつして、自分の胸に去来する想いを一つ一つ確かめた。
だいじょうぶ。
その結論を後押しするように、小さく微笑みながら「うん」と小さく頷いて。
そうして春の陽射しのなか、大きく腕を振ってボクはまた歩き出すのだ。
posted by 渡月・トワヤ
at 19:41:38 │
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「隣のとなりの県か。通うのは大変そうだよな…」
心配そうな彼の言葉に、ボクはきょとんとする。
…(公共交通機関発展途上の)地元に比べたら、こっちは天国なんだけどなぁ。
ボクは、電車に乗るのが好きだ。先に断わっておくがボクは別に「鉄子」ではない。
話はボクが生まれ育った町から始まる。
その町(市)は公共交通機関が路線バスしかない。まぁそれでも、ボクの実家があるあたりはバスは10分置きぐらいには運行している市街地だったけれど、最寄の鉄道駅は自宅付近のバス停からバスで20分かかる。しかもJRのみ。
中学生レベルの移動では、基本徒歩orチャリ。少し遠出するならバスか家族の運転する車でという選択肢。いずれにしても電車とは縁遠く育ってしまった。
事故さえなければダイヤ通りに運行するというその安心感たるや!
鎌倉に住まうようになってから、まず情緒あふれる江ノ電にときめいた。それから私鉄の路線の多さにも感動した。
高校生だという自覚はあるから、利用しているときも何の気なしの顔をしてはいるけれど、内心はいつだって、電車に乗るたびにワクワクソワソワしている。実は今だってそうだ。(…)
通うのが大変ったって、2時間ぐらいのもんだろ?
7時ぐらいに出れば間に合うんじゃないのかなぁ…
今だって朝6時前には起きる生活をしているから、苦にはならないはず。
なにより、やりたいことをやれるようになるための勉強に通うのだ。力も入るというもの。
ボクはこの4月から通う学校の最寄駅を調べるため、入学案内の資料をぱらぱらっとめくり、そして。
…?
感じる違和感。
「ね、ボク。埼玉って言ったよな?」
隣に座っていた彼にそう訊ねる。彼はボクの言葉に少し首を傾げたものの、こくこくと頷いた。
──うーん。
ボクはずるずる、とベッドに預けていた背を滑らせてるように床に仰向いて、資料で顔をこっそり隠した。
穴があったら入りたい・・・。
うわぁぁ、なんでボクは埼玉って言ったんだろうか?
自分で自分がアメージング。
案内資料の学校所在地は、千葉県××市となっていたからだ。
何時の間に移転した・・・んなワケないよな。
まぁ、東京の向こう側だもんなー。千葉でも隣のとなりの県に違いない。だからきっと間違っちゃったんだ。
(なんとなく、言い訳をしている。春から大学生なのに、本当に大丈夫か?この子(汗)