posted by 渡月・トワヤ
at 12:07:36 │
EDIT
問題を1問解き終わってボクがカップに手を伸ばすのを待ち、
「…コーヒー、ウマいよ。プロを目指してもいいんじゃないか?」
ボクが淹れたコーヒーを啜ってにっこりと笑いながら彼はそう言った。
今日は、彼が勉強を見てくれているのだ。
PR
「ん~…」
プロ、かぁ。
そうしてボクの記憶に甦ったのは、銀誓館にやってきてすぐ、高1のころに少しだけ在籍した喫茶店(結社)。入団してほどなく学祭があって、ご多分に漏れず、そこでも喫茶店の模擬店をやったこと。
ボクはたしかあの時(ウェイトレスのコスプレは断固として拒否し)バリスタの衣装に嬉々として身を包んで、コーヒーのサービングをしたっけ。
たしかにあれは楽しかった。
だから、そういうのに憧れがないと言ったらウソになるけれど。
「コーヒーは、自分と大事な人のために淹れるので充分、かな」
今は、まだそれでいい。
ボクは将来、本に携わる仕事がしたい。
図書館の司書になるのが一番の目標で、だからその資格取得のために大学へ進学したい。
もし、それが叶わないのであれば、書店の店員。
本に囲まれた仕事は、なんて素敵なのだろうか。
でも、彼のことばで、ボクが描く未来の映像に少し違う色が混じりはじめた。
本に囲まれて。
コーヒーのいい香り。
自分の好きな本を集めて、小さな図書館みたいなカフェ。
白い外壁、テラスに張り出した青とグリーン、白のストライプの庇。
テーブルは2セット、カウンターも4席ぐらいあればいい。
カップボードに並ぶカップが不揃いなのは、お客さんごとのイメージに、ボクがお似合いのをチョイスしたいから。
大きく開いた窓と向かうようにキッチン。
ドアとは反対側の壁には腰までの高さの書架が誂えてあって、きれいな装丁の本は特別にディスプレイしたり。レビューポップを書いてもいいなぁ。
メニューは片手で食べられるような、ホットサンドや、クッキー、スコーンとか。小さいころころっとしたパンを焼くのもいいかもしれない。
本を読みながら(読まなくてもいいけれど)のんびりとした時間が過ごせるように、音楽はごく小さい音で、緩やかなもの。
あ、そうだ。
お客さんが1冊持ってきてくれたら、代わりに気になった本を1冊持って帰ってもいいという仕組みとかって、面白いかも。
「また、いつでもいいから持ってきてね」
なんてボクはカウンターの内側でお客さんに笑いかけたり、本の好きなお客さんと顔なじみになれば、オススメを話し合ったり。
それは、むくむくと真夏の入道雲のように、ボクの頭の中にあふれるイメージ。
きらきらとサンキャッチャーが虹を作るように、光に満ちて明るくて。
うわぁ、それっていいなぁ。素敵だなぁ。
「…おい。カオが緩んでるぜ」
彼はそう言いながら、ボクの頬をツンとつついて忍び笑う。
ボクははっと我に返った。
おっといけない、勉強中だった!
キリっと顔を引き締めるけれど、時すでに遅し。彼はくすくす笑いを続けている。
ボクが「そんなに笑わなくてもいいだろ」と、唇を尖らせねめつけたところで、彼が意に介す様子はない。
まぁ、それは付き合う前から変わらない、要するに"いつもと同じ"ってことなんだけれど。
ボクがムッと膨れているカオですら、ハイハイといなし、楽しんでいるようなフシがある。
あぁ、これだから。
ボクは、あなたには敵わない。
でも、その気持ちは、あのころ感じていた悔しさとは違くて、あの日、変化したことのひとつだ。
「勉強やるときは、集中しような」
ぽん、と頭に載せられた大きなてのひらに、胸がきゅっと締めつけられる。
ボクは、その甘い痛みを包み込むように、ゆっくりと瞬きをした。
ともすれば子ども扱い。
だけれど、それはいつだって傍で守ってくれているという安心感に繋がって、だからボクは彼の前でだけは、いつだって素直でいられる。
「…うん」
ボクは、 すん と肩を落として頷いた。
ちょっと頬が熱いのは、彼がそのてのひらの温かさだけで、ボクの心をすきってきもちでいっぱいにしてしまうからだ。
ボクは自分を落ち着かせるようにカフェオレを一口啜ると、また問題集を解きはじめた。
ツクツクボウシの鳴き声が遠く聞こえてくる。
もう、夏も終わりだね。
posted by 渡月・トワヤ
at 23:59:58 │
EDIT
「ぎゃっ!?」
ボクは小さな叫び声を上げた。
たぶんね、毎日の受験勉強で、睡眠不足だったんだよ。
今、ボクは運動不足解消のために北関東セメント工場にいて、ブーメランをガンガン投げている。
風に乗るように空を切って滑走するブーメランが描く弧を眺めていると、スカっとするんだよね。
何度かゴーストとも遭遇しながら、工場内を奥へ奥へと歩いていくと、また新たなゴーストが出現した。
「よし、行くぜ!」
イニシアティブの高さを生かしてボクは、内なる魔力を高めるために前方に魔方陣を描く…つもりが
「科戸の風が清めて──!」
何を、今ボクは何を呼ぼうとしている!?
「えっ?」
「ちょ!?」
「…!?」
自分で自分の科白を理解するより早く、ボクはサイクロンを巻き起こしていたのだった。
暴風が収まると、ボク以外の仲間は、そわそわ…なんだか落ち着かず、妙な空気が流れる。
「…まさかココでサイ・・・・」
いち早くツッコミを入れそうだった仲間の口を「どわっ!」と身体を張って塞いだ。
皆の言いたいことは解ってる、うん。
だからさ、先に目の前のゴースト、やっちまおうぜー!
(※ゴーストをほったらかして、漫才をやってはいけないと思います、ハイ。すみません)
posted by 渡月・トワヤ
at 23:10:59 │
EDIT
重く垂れこめた雲のせいで、気温が下がらないまま熱帯夜。
今年も残暑は厳しいようだ。
温い風が吹く屋上。
勉強の息抜きで少し夜風に当たりたいから付き合って。
そう言って、彼を屋上へ誘った。
うーんと身体全部を空に伸ばすと、固まっていた背骨がほぐれるみたい。
心ゆくまで伸びあがるとボクは、手すりまでタタタっと駆けた。
今日は月がのぼる時間も遅いから、
「晴れていれば星見には最適だったんだけどなぁ」
残念。
ボクは手すりを掴んだまま身体を前後に軽く揺らして苦笑いした。
「星を見る機会なら、これからきっと、いくらでもあるさ」
声の方に視線を移す。
ゆったりとボクの後ろから歩いてきて、隣に寄り添ってくれるひと。
闇に浮かぶその輪郭でさえ、愛しく想う。
「うん。それもそうだね」
ボクは晩夏の風の匂いを、胸いっぱいに吸い込んだ。
「さぁ、気分転換が済んだのなら、戻ろうぜ」
少しの間風に吹かれて後、ボクの頭にぽんと手を置いて、彼は言う。
手のひらの重みひとつ。それすらも、ボクにとっては幸福そのもの。
いただいた科白がすごぉーーくありがたぁーーーいことも、理解はしているけれどね。
ボクは現実に引き戻されたガッカリ感とともに大げさに溜息をつくと「はぁい」と気の抜けきった返事をした。
でも、逃げたって良いことなんかひとつもない。
無理やりでもいい。
前向きに考えてりゃなんとかなるし、なんとかできるものだってボクは信じてるから。
ボクは繋がれた手に引かれるまま屋上を後にする。
部屋に戻る前に食堂に寄って、コーヒーを作ってくことにした。
胃が悪くならないように、牛乳多めのカフェオレに。
その間、テーブルに頬杖をついて、彼はボクの所作を眺めていた。
「…そんなに見なくていいって!きっと何かが減っちまうから!」
見ても減るもんじゃなし、に対抗してみる。
でも、何が減るか、とは訊かないのが、お約束。(訊かれてもきっとスルーするけどな)
「うんうん」
判ってんだか判ってないんだか。
気前よく頷いているのに、相変わらず穏やかに微笑んでこっちを見てる。
その表情はすごく幸せそうで、だからボクはやっぱり嬉しく思うんだけれど、
「…だぁ、もう!」
赤くなった顔を見られるのもなんだか癪で、ボクは深く俯いて、使ったドリッパーやらスプーンやらを男前にガシガシ洗って片づける。
彼はそんなボクを見て、くすくすと笑っていた。
posted by 渡月・トワヤ
at 00:30:06 │
EDIT
雨の音が、まだ続く。
オルゴールつきのプラネタリュームのスイッチをオンにして、部屋の電気を暗くしたら、布団に横たわって。
腕の中にはやわらかな想い。
それじゃあ、おやすみ。
きっと明日もまた、気持ちいい風が吹くはずだよ。
posted by 渡月・トワヤ
at 15:38:02 │
EDIT
朝から降ったり止んだりしている雨で、どこかしっとりした一日。
静かに流れるアンビエントは、雨にそぼ濡れる鎮守の森に囲われた寺院を思わせるような閑かさを湛えたもので、今日の雰囲気にぴったりだ。
何処に出かける気にもなれなくてボクは、自室にこもって問題集とにらめっこしていた。
うむー。
どれぐらい問題をにらみつけていたのか。
なんだか眉間のあたりが強張っている。
背中をうーんと伸ばして大きく息を吐き出して。
ふと目に留まる、花と碧いグラス。
そのグラスは、青から緑のグラデーションに小さな気泡が浮かんでいるもの。
去年の修学旅行で沖縄に行った際に、ボクが制作体験した琉球硝子製のグラスだ。
ただのミネラルウォーターだってなんだかおいしくなるような気が(するのは、美ら海のグラデーションに似せた大好きな色合いの所為かなぁ、なんて半分自画自賛で思ってたりなんか)して愛用していたのだけれど、今年の夏はこの子に別の役割ができたのだ。
ゆるりと手を伸ばして触れると、菫色の小さなはなびらが揺れる。
造花の紫陽花。
雨の日の色にも似たこのグラスは、その子のための特等席に決めたのだ。
切り花が苦手なボクは一輪挿しや花瓶の類を持っていなくて、だからこの花を貰った時、どう飾ればいいのか、少し迷っていた。
自分が「交換しよう」と申し出ていたのに・・・後先考えなさすぎだっていうのは、まぁ別の話。
紫陽花、雨、紫、青、水の色…水……
想いをつないだ先には、答えを知っていたかのように碧色のグラスが待っていて、ボクは膝を打つ。
「そうか。ボクはこの紫陽花のために、あのグラスを作ったのかもしれない」
なんちゃってね。
とりあえず、グラスにそのまま花を挿してみたけれど、少しぐらぐらとして覚束なくて。
ボクはちょっと考えた。
花が咲く水辺を思わせる、さわやかな甘さが漂うコーンタイプのインセンスを何個かと、グラスと同系色のビー玉とを混ぜてグラスに軽く詰め、そこに花を挿した。
これでぐらぐらしなくなったし、挿す角度にもニュアンスをつけられるようになった。
うむ、満足っちゃ(思わず出るお国ことば)
実際、机につけば時折仄かに漂う水の気配が心地よかった。
今日みたいに夏の熱を冷ますような雨の日は特に、空気中の雨粒までもがその気配をより濃密にする感じがして、目を閉じると、花が咲き誇る池のほとりに居るかのような気分にさせてくれる。受験勉強で思うように海やプールに行けなかった鬱憤が紛れるような気もして、少しだけ気分的にラクになる。
机に片頬をつけたまま、ボクは紫陽花を見上げた。
この花に託された想いを、静かに想う。
願えば。
強く願えば、本当に叶うんだね。
もちろんそれは、ただ願えば目の前に「はい」と差し出してもらえるような甘ったれたものじゃないことぐらい、ボクは知ってるけれど。
庇に当たる雨音が耳に戻ってきた。さっきより、雨が強くなったみたい。
ボクはコーヒーを淹れるために立ち上がった。
ゴールは遠いけど、きっと到達できるはずだから、もう少しだけ頑張ろうと思う。
きっと最後まで、ボクは頑張れる。
近くで応援してくれる人もいる。その応援には、応えたい。
強く強く心に刻む、これもひとつの願いごと。