posted by 渡月・トワヤ
at 21:54:42 │
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せせらぎは静かで途切れず、ともすれば雨の音にも似ていた。
小さな波が月の光を受けて白く立つのを見遣り、それからボクは傍らのひとに視線を移した。
「たまには息抜きも必要だろ」
そんなセリフと一緒に、先輩はボクを、川原へ連れ出してくれたんだ。
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月明かりは、細かい作業の手元に充分とは言えない明るさだけれど、それをものともしない確かな指運び。少しずつ出来上がっていく花にボクは目を細めた。
「案外と、器用なんだな」
ボクは川音に紛れるぐらいの小さな声で彼に話しかけ、くすくすと肩を揺らす。いつも大きな声で、明るくてまっすぐな性格。ともすれば豪快。そんな普段の彼からは想像しづらい今の姿。だからこそ、ボクは……
「ん?まぁな」
近づきすぎて直視できなかったけれど、彼が笑む気配だけを感じ取る。今はそれで充分だと思った。
彼が作ろうと決めた花は、彼の好きな花、紫陽花。
その偶然にボクは少し驚いた。
紫陽花はボクの好きな花でもあったから ── まぁ、ボクはほかにも好きな花がたくさんあるのだけれど ── 自分が好きだと思うものを同じように好きだと言ってもらえると、やっぱり嬉しくて。
紫陽花は、ハリのある大きな若緑色の葉に雨粒が滑るのを見るのも楽しいし、その葉に蝸牛が乗っかっているのも可愛くていい。
「心変わり」だなんて花言葉をつけられても、雨の中で咲くさまはなんだか虹のようでもあり、安心感と淡い希望とを与えてくれるように感じるから。
彼が手を動かしたまま語るのは、他愛もない世間話みたいなものかもしれない。
だけれどボクは、こうして話を聞かせてもらえるだけで嬉しかったから、終始にっこりと笑み、相槌を打っている。
ボクは…といえば、彼に聞いてもらえるほどの過去など持ち合わせていない。覚えていないという方が正しいのか。いずれにしても、ネタがない。
思案した挙句、今日という日が二人で振り返ることができる素敵な想い出になればいいと思い至って。
……だけれど、その願いを口にすることはできなかった。
ボクは意気地なしだ。
自分が情けなくて、しょうがなく笑ってしまう。
けれど、彼はそんなボクの笑みに気づくと、やさしい眼差しと微笑みで応えてくれるのだ。
気づいているんだか、気づいていないんだか本当に良く解らないけれど、
時折、ボクに見せてくれる彼の気持ちはあまりにもまっすぐで、そのたびにボクは驚いてしまう。
そんなことを言ってしまっていいのかな…
今のボクは、彼の言葉を信じることができない。
信じてしまうのが怖くって、心のどこかがブレーキをかけているみたいだ。
最初の、ほんの小さな一歩すら、踏み出すことができないでいる。
もし彼の言葉を、素直に受け止められたなら、ボクは幸せになれるのだろうか…。
けれどやはり、彼のまっすぐさが、ボクを救ってくれているのも、動かしがたい事実で。
空は深い藍。
月の青白い光。
黒の水面。
渡る風はどこまでも透明で碧く。
その瞳は、おひさまのいろ。
あなたのおかげで、
世界にはこんなに彩があふれていたんだと、
思い出せたんだよ。
…ねぇ、いつか。
いつかボクも、あなたのように自分の気持ちにまた、まっすぐになれるだろうか。
その時は、どうぞ、あなたが隣に居てくれますように。
今は手のひらに包んだ八重咲きの白い花だけが、ボクの本当のきもちを知っている。
posted by 渡月・トワヤ
at 16:54:01 │
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今日は、あいにくの曇り空。
七夕だけれど、この分だと天の川はおろか、星ひとつ見えやしないだろう。
毎年この日は、天気が悪いように思う。
織女と牽牛の、年に一度の逢瀬の日。
雲の上はいつだって晴れているから、二人の再会に、なんら支障はないはずで。
逢えなかった一年という時間を、丁寧になぞり、
想いを、重ねているんだろうか。
だとすれば、この重く立ち込めた雲。
誰にも邪魔されず、静かな二人だけの時間を過ごせるようにという、天の采配。
あるいは、雨。
再びの別れを惜しむ、二人の想いが降らせる涙。
かも、しれない。
なーんて、ロマンティックなことを考えてみる。
こんなこと言ってたら、またゼンに
「渡月さんって、案外乙女ですよね」
って、(妙に嬉しそうに)言われるんだろうな…
帰り道、商店街に飾られた竹。
「ご自由にどうぞ」
という言葉が添えられて、色とりどりの短冊が置かれている。
なんとなく目に留まったから。
ボクはひょいと一枚を取り上げると、一言書いて紙縒りで括りつけた。
ささのは さらさら
鼻歌歌って、
星に願いを。
posted by 渡月・トワヤ
at 12:45:45 │
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カラッと晴れた水曜日。
まるで、季節が逆めぐりしたように、さわやかな風が吹いている。
学食で昼飯を食べ終わり、ボクは屋上で風に吹かれていた。
陽射しが強いのは、7月だから当然で。
木陰にいれば、今日ほど快適で過ごしやすい風はないだろうな。
ボクは、頬撫でる風に、微笑む。
本当に不思議だと思う。
説明などできないのは、理屈じゃないから。
でも、言わなくていい。言う必要もない。
声に出せば、言葉は全部、空へと昇ってふわふわ浮かぶだけだって、昨日読んだ本に書いてあった。ファンタジーなお話だったけれど、なるほどな、とも思う。
だから、しっかりと、心に留め置いて。
この身から離さないように。
見失ってしまわないように。
誰が気づかなくても、知らなくてもいい。
ボクが、ちゃんと理解っているから、だいじょうぶだよ。
そう思えるから、ボクはいつか、言葉の代りに、
あなたに、とびきりの笑顔を渡せたらいいなと思う。
そのときがくるまで、
やるべきことも、いっぱいあって
ただ、じぃっとそのときを待てばいいってワケじゃないことも、解ってる。
目を逸らさずに、自分と向き合うこと。
こころは、一朝一夕に元通りに膨らむものじゃないから。
ゆっくりと焦らずに、大事に温めていきたい。
同じ気持ちで居てくれて、嬉しかった。
本当に、本当に、ありがとう。
posted by 渡月・トワヤ
at 01:30:08 │
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「トワヤはどこがいいと思う?」
難しい質問を投げつけられたボクは「んー…」と唸ったまま口を閉ざした。
この曖昧な関係ではどう答えるのがべストなのか、さっぱりわからなくて。
…ボクが彼なら、何を思ってそう尋ねるだろう?
どこでも大して変わらないし同じじゃないかと思う気持ちと、だけれどボクが彼ならば…という仮定のもとに導かれる答え、そして、まだ言ってはいけないような気がするボクの本音。それらがぐるぐる頭の中で回る。
何を答える?どう答えればいい?
迷いつつ。
結局、自分の心に正直になることにした。
けれど、こういう時にいったいどんなカオをしたらいいのかわからなくて、ボクは少々憮然としていたと思う。
彼はそんなボクを、笑みを湛えた目で見つめ「たまに可愛いこと言うよなー」などと言っている。
ボクはもう、恥ずかしさで目の前がチカチカしていたし、眩暈さえ覚える始末。
「うっさい、こっち見ンなー!」
穴があったら入りたいとはこのことだ。
しかし、入るべき穴も見つけられないボクは、仕方なく机に突っ伏した。
そうして、頭上から降ってきた彼の言葉が、ボクの心にトドメを刺す。
──図星。
恥ずかしさを殺し、自分なりに勇気を振り絞った答えだったのだ。
しかしそれを一笑に付されたようで、ボクは怒りとも哀しみともつかない気持ちになった。
──ひとりで逆上せて、莫迦みたいだ。
すぅっと、頭からも頬からも、血の気が引いていく。
ボクはおもむろに顔を上げると、
「…だったら、ボクになど聞かず好きなとこを選べばいいだろう?」
心はふつふつと煮えている。人の気持ちをおちょくるな。一瞥をくれた視線はそれとは反対に自覚できるほど冷たく冷えていく。
自分の気持ちに居た堪れなくなって、ボクは顔を逸らす。眉間にはしわが寄っていた。
こんなこと、今までにない。
ボクの頭の冷静な部分が、一番驚いている。
それは、今までのボクからは考えられないことだったからだ。
ボクは(腐れ縁の友達が言うには「判りやすい」らしいけれど)、誰かに対して怒りの感情を露わにすることなど、ついぞなかった。
口が悪く語彙も少ないボクは、悪気が無くてもすぐにズケズケと物を言ってしまいがちだ。もし怒りにまかせて口を開けば、それこそどれだけ人を傷つけるか分かったものではない。現に痛い目にも遭っている。良くいえば正直者だが、単なるコドモなのだという自覚。だからこそ、怒りは抑えなければいけない。子供の癇癪ほど、みっともないものはないってことぐらいは、もう理解ってる。
……でも、変だ。解っているのに。
どうしてこう、彼に対して、両手両足を投げ出すかのように、素直に感情を発露してしまうのだろうか。
今こうして、彼の前で怒りオーラを揺らめかせている自分は、ただ拗ねているだけのコドモじゃないか。
その事実がますます自分を惨めにさせ、ボクを俯かせる。
バン!!
突然の大きな音に身体をびくっと震わせ、音のした方を振り返る。
「フンッ。好きな女性に意見を求めて何が悪い!」
彼は(なんだか知らないけれど)胸を張る。
…はぁ?!何を…
「好っ…何ドサクサに紛れてしれっと言っちゃってんだ。つか夜中だろ、デカい音出すなよな!」
思いがけない言葉に、違う意味でボクの頭に血がまたのぼる。俯くことも忘れ、頬に朱が差した。
なんてボクは単純なのだろうか。
たった一言、たった一言なのだ。
ただそれだけで、身の内にふつふつと膨れていた嫌な感情は急速にしおれていった。
「だから……」
彼はもう一度、小声でボクに囁いた。
「…アレ、違うか?」
そうして、きょとんとした表情でとぼけてみせる。
拗ねていた自分がとたんに情けなくなる。と同時に、そんなボクに気づかないフリを、ともすれば抱えこんでいた嫌な気持ちを吹き飛ばすかのようにしてくれた彼の優しさと包容力に気づく。
いつだって、あの時だってそうだった。
それが、意識してのことかそうでないかは、ボクが彼じゃないから判らないけれど、彼はいつもそうやってボクにたまらない安心感を与えてくれているんだ。
ボクが素直になってしまう理由は、おそらくそれだ。
「…違う、いや違わないけど…いや違ってほしくないというか、そうじゃなくて、なんていうか……。えぇと、あれ。なんの話をしてたのだっけ?」
なんだかどうでもよくなって、頬を手でこすりバツが悪そうに苦笑いするボクの頭をなでながら、
「トワヤが素直じゃないって話」
彼は無遠慮に言ってのける。顔には優しい笑みを浮かべたまま。
ボクは悔しかった。
彼のてのひらで良いように転がされているみたいだったから。
しかしそれが、頭に載せられた大きな手と共に、一向に悪い気がしないから、正直困っている。
ボクはふっと息を吐いて、肩の力を抜いた。
あなたには、敵いっこないってことか…
ボクはおとなしく頭をなでられながら
「ボクはいつだって、素直だと思うけどね?」
そうは言っても結局、やっぱりちょっと憮然としてしまうのだった。
もういい。
こうなったら、あなたの前でだけは、子供のままでいよう。
たくさんたくさん、笑って泣いて、たとえプリプリ怒っても、またこうして笑えるように。
あなたには、素直なボクを見ていてほしいから。
posted by 渡月・トワヤ
at 16:21:21 │
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禁欲生活(=受験勉強)の息抜きにと、先輩がおでかけに誘ってくれた。
月の輝く夜の川辺で、花にまつわる昔語り。
不思議だね。
どうして楽しい時間は、すぐに過ぎ去っちゃうんだろう。
どうしてこんなに、胸がきゅっとするんだろう。