posted by 渡月・トワヤ
at 14:55:38 │
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今日は曇り空なのにとても暖かい。こういうのを花曇りと言うのだっけ。
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三寒四温を繰り返し、季節はゆっくりと確実に春へと流れていく。
春と言えば、一般的には桜だろうか。
でもボクにとっては、それに先んじて咲くモクレンこそが、春の花。白い花が次々と蕾を綻ばせているさまはまるで、空へと羽ばたかんとする白い小鳥のようで、心が浮く。
ここ数日は、日中とても暖かく、4月になった帳尻を合わせるようにすっかり春になってしまった。うーん、コートの裏地は外した方がいいか。朝晩冷え込むから、ちょっと保留かな。衣替え…春物を出すのもそろそろか…また今度でもいいか?と、少しぐるぐる、床をごろごろ。
春休みの今日、ボクは部屋の窓を開け放ち、文字通り床にごろごろ寝転がって先日図書館で借りた本を読んでいた。
時折、部屋へ吹き込んでくるそよ風がレースのカーテンをふわりと揺らす。それからルームフレグランス代わりに焚いた香の残り香の手を引いてボクの鼻腔をくすぐっていく。
風に乗る花の香りは、春の悦びそのもの。
こういうときに読む本はやっぱり、心がほわっと暖かくなるようなものが良いな。
ボクは借りてきた本を閉じて、本棚に並ぶ本のうちで1冊の絵本に手を伸ばした。
世界的に有名な、うさぎの絵本。
しかし、絵本だと侮るなかれ。
絵の美しさは半端ない(だから絵を見ているだけでも正直良い)し、少しばかりウィットに富んでいて、思わず「くす」っと笑ってしまう。
廃れないもの、時代を超えて愛されるものには、やはりそれなりの理由があるんだろう。
また、風がふわりと花の香りを連れてきた。
ボクはがばっと起き上がって、床にペタリと座った。
首を伸ばし、薄日射す窓の外に視線を移す。
…あ、散歩に行きたいかも。
そうだ。あとで恭一を誘って、散歩に行こうっと!
posted by 渡月・トワヤ
at 11:59:00 │
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最善を尽くす。
後悔の入る余地なんかないぐらいに、やってやると決めた。
腹を括ったなら、休んでいる時間はない。
ボクは顔を上げ、口角を上げた。
希望は明るいところに生まれ、育つものなんだ。
絶望などに傾けるような耳は持っていない。
そう、ボクの耳は、都合よくできているから。
離れた場所で共に戦うことを決めたボクらをつなぐのは、信頼という名の固い絆。
きみのその想いに支えられているから、ボクは。
posted by 渡月・トワヤ
at 00:00:07 │
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なんてことだろう…
運命予報士でさえ、視ることのできなかった、これが現実というのか。
戦争で疲弊しきった頭はじんと痺れたようで、
一人では、ろくな判断ができない気がしていた。
その頭に直接響くようなあの声にも不快感しか残らない。
「トワヤさん!」
最後までボク同様無事だったまいおが駆けてきた。
「…ああ」
あいまいに笑い、
「とんでもないことに、なっちまったなぁ…」
言うと同時に、そのまま頬が引きつった。うまく笑えない。
「俺はゴーストと戦うよ!」
傷ついた仲間の分までやるって決めたから。
そう言い放ったまいおの言葉に、ボクは顔をあげた…だけれど、「ボクも」という言葉は、喉に痞えて出てこない。
ボクの脳裏には、怪我を負ってしまった恭一の姿だけが何度も浮かんでいた。
生命賛歌のない状態での戦闘。あのときの気持ちが蘇る。
まだ生々しい記憶。
脳みそがざらざらする。
…情けないけれど、死ぬのは怖い。
遺して逝くなど、したくない。
「………たい」
抑えきれなくてこぼれた小さな声。
「…だったら、そうすればいいと思うよ」
穏やかに笑って、まいおが言った。あの小さな声は届いてしまっていたらしい。
ボクは、はっとして……
「わー!なんでボクは、まいおに告ってんだ?!」
耳まで真っ赤になる。
「今のなし、オフレコで…!」
慌てふためくボクに、彼はくすっと笑って返事をせず
「それじゃあ俺は、情報をまとめて皆にお知らせするよ!」
と言い、笑って駆けていった。
…本当に、頼りになる団長(代理)さんだ。
結局、「そうすればいいよ」って言われたことは、実現叶わぬことを知るけれど
そうするためにどうすればいいのか、
少しだけ冷静になった頭で考える。
どっちみちやるしかない。
やらない選択肢もあるけれど、絶対後悔するのは火を見るより明らかだ。
共に生きるために、生き延びるために
あきらめてなんか、やるもんか。
…ボクたちを、なめんなよ。
posted by 渡月・トワヤ
at 15:52:31 │
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ヴャウォヴィエジャの森、ふたたび。
恭一までもが、倒れてしまった。
何度経験しても、膝の力が抜けてしまいそうになる。
…けれど、こういう時こそ、顔をあげてしっかりと前を見据えたい。
ちゃんと、生きて帰ってきてくれてるんだ。
それだけで、充分じゃないか。
ボクは給水所を少し離れたところで、ポケットに忍ばせた、アトマイザーを取り出した。
心がくじけそうになったら、使おうと思っていた。
1プッシュだけを、身に纏う。
すぅっと、心の背筋が伸びる。
その花の香りは気高く、美しい。
posted by 渡月・トワヤ
at 12:00:49 │
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ヴャウォヴィエジャの森。
閃光が走り、雷鳴がとどろく。
雪が舞い、突風が吹きぬける。
業火は夜空を紅く染め、未だ春遠い白き世界を照らした。
── 人狼の咆哮、生徒たちの鬨の声。
救護所に運ばれる担架の中、一瞬見かけた姿に見覚えのある気がして、ボクは駆けていた。
見間違いだったら、いい。
それは祈りにも似た気持ち。
怪我を負った者・手当をする者。
その人波をかきわけたどりついたベッド。
果たして、およそ1ヶ月前に、この場所で共に戦ったばかりの仲間が横たわる。
あの時、不安に駆られたボクを叱咤激励してくれた人。
いつでもボクの少し前を歩いているようで、すっと伸びたその背に信頼を覚えた相手。
此処に運ばれたということは即ち、生命賛歌に救われたということ。
胸が上下しているのが見て取れる。ボクはひとまず安堵しながら、遠慮がちに話しかけた。
「…二度目の森なのに、感傷に浸ってる間もないよなァ」
声が震えないよう、腹から出したボクの声に、彼は閉じていた目を薄く開き
「……よう、トワヤ」
口の片側だけを少しあげて笑う。
笑える元気はあるってことか?
けれど相手の身体の痛みは如何ほどなのだろう。少なからず近しい感情を抱く相手だ。きっともしボクが彼の立場なら……強がる。だから。
「…ったく。卒業して鈍っちゃったんじゃないのー」
ボクは動揺を悟られまい、と軽口を叩き、視線を外す。
圭にーさんは、笑うようにふっと息を小さく吐き出して
「…まぁ、そこは可愛い後輩に活躍の場を…な?」
目を閉じた。
ボクは唇をきゅっと噛む。
まだ己の足で立てるボクにできることは、圭にーさんの言うとおり、戦うこと。
「……なーんて、冗談。さっさと寝て治せよ!んじゃ、ボクはまた行ってくるぜ!」
一息で言いきってくるりと踵を返し、救護所を後にした。
コマンダーから、向かうべき場所への指示が飛ぶ。
次の場所までは、もう少し。
隣を歩く恭一とつないだ手に力を込める。
もうすぐ、この手を離すときがくるけれど、ボクの心はいつだって、きみの隣に居る。それは、きっと、きみの心も、同じはず。
ちらりと視線を合わせ、微かに目を細めた。
前方に小さく、敵勢力の群れ。
「さあ、行こうか……」
「よし、行こう!」
するりと解かれる指。
ボクは前へと駆け出しながら、魔方陣を空に描きその力を享ける。
前へ、とにかく前へ進め。