posted by 渡月・トワヤ
at 23:35:50 │
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ポーランドへの1週間にわたる遠征。
フェンリル討伐。
中には討ち損じたフェンリルもあったけれど…ボクらの作戦でも然り、誰一人欠けることなく日本へ戻ってくることができたのだ。ミッションは成功だ、と言っていい結果ではないだろうか。
ボクは到着早々に、他の作戦に加わっていた結社の仲間や友だちの安否を確認する。
人ごみの中でも、やっぱり友達のことはすぐわかるものだ。
ボクはフルるんと手を取り合って、互いの無事と、再会を喜び合う。
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そしてそれから。
ショルダーバッグを肩から掛けたまま、ボクは恭一のもとへ走った。
「──恭一!ただいま…!」
彼の目の前で急停止。息を弾ませながら彼の顔を見つめて、にっと笑う…つもりだった。
だけれど、長旅の疲れや心労。
彼の空色の瞳によって一瞬でそれらはほどかれ、瞳が潤む。
笑った顔のまま、涙がひとすじ。
ボクはぎゅっと目を閉じてから「えぃやっ!」とその腕の中に飛び込んだ。
"ちゃんと、己の足で歩いて帰ってきたなら、きつく抱き締めて、そしておかえりって、言って。"
それは、旅の途中でボクが恭一におねだりしたことだった。
クラスメイトの前ですら二人で一緒に居るところを見られるのが苦手なくらい恥ずかしがり屋のボクが、突然抱き着いてくるなど。
「…っとと。」
恭一は面食らい、それでもボクの身体に優しく腕を回して
「……早速か」と苦笑い。
「ダメか?」と抱き締められたまま見上げると、
「…だめ、だなんて言わないさ」と、ふわりと微笑み、
「………おかえり、トワヤ」
恭一はそっと、ボクの頭を撫でてくれた。
言いたいことが、たくさんある気がする。
けれど、言わなくていいことも、きっとたくさんあるのかもしれない。
心のなかで渦巻く言葉は、何ひとつ掴めなくて、するりと手をかわして逃げて行ってしまうから。
だから、代わりに。
「ね、恭一。もっかい、ぎゅーって。力いっぱいぎゅーって、して!」
今はただ、この最上の安らぎに包まれていたい。
── あぁ、本当に、ボクは帰ってきたんだね。
恭一の腕の中、ボクの在るべき場所へ。
posted by 渡月・トワヤ
at 00:02:32 │
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旅程も終盤に差し掛かった。
昨日の深夜(現地時間)。
ボクが眠っている間に届いていたハルカからのメールには、『今日は春がやってきたように暖かかった』と綴られていた。
彼女の日本語、日常会話には困らないレベルのようだけれど、書く方はてんでダメだって言っていた。漢字にかなりてこずっているらしい。なるほど、今回のメールも「あたかかかった」とひらがなで書いてあった。「た」が少なく「か」が多いのできっと変な変換ばかり出て苦労したんだろうな、と彼女の悪戦苦闘ぶりが目に浮かぶ。必死さが少しかわいく思えて、くすっと笑いがこぼれた。
……しかし、日本はもう暖かいのかぁ。
それを思うと、今の自分の体感しているこの寒さは、遠く離れているんだという実感を呼び起こす。
ますます心許なくなってしまいそうだ・・・
それでも(渡航初体験による)浮き足立ちもおさまって、落ち着きを取り戻しつつあり、周囲の風景を見る余裕もでてきた。
せっかく世界遺産にきたのだから、少しは見ておきたいし。
ヨーロッパ最古、原初の森というだけあって、どの樹木も幹が太く、空へまっすぐにぐんと伸びている。白に覆われた景色。森特有の空気はどこか神々しく、わたる風が針葉樹の木々の葉をざわつかせるたび、何が起きても不思議ではないような感覚に襲われる。
しかし、あの幹は太いなぁ…全周何メートルぐらいあるんだろう?
写メっておいて、皆に見せたいなぁ…
自分のケータイを取り出してためしに1枚。しかし、比較対象もなにもなく木の幹がどーんと写っているそれでは、面白みも凄さも、なにも感じられない。撮った本人がそう思うぐらいだ、日本でこれを見せられて、果たして誰に何が伝わるというのか?
ボクは諦めてケータイを閉じ、カバンの底に仕舞った。
小休憩。
ボクは、すでに腰を下ろして水を飲んでいた仲間の一人へと歩み寄った。
「…ちょっと、話しても平気?」
ボクの声に顔をあげたのは、同じ班の1コ上の先輩。
彼は、かまわないぜと笑って自分の横へ促してくれたので、ボクは遠慮なく腰をおろした。
この旅の間じゅう眠りが浅くなっていたボクはちょっと心が弱くなっているみたいな気がしていた。
他の人は、どうなのかな。
普段なら、あまりむやみに他人に相談事など持ちかけないのだけれど…
気になったボクは、思い切って(こっそりと)訊いてみることにしたんだ。
「ん~。そうだなぁ。そりゃ、俺だって考えることはあるけれど──」
先輩は空を見上げ、言葉を選びながら丁寧に答えてくれた。
「…そうかー」
ボクは彼の言に、コクコクと頷く。
なんだか、先輩とは考えていることが似ている気がする。
且つ先輩は、ボクの気持ちの、その半歩先を歩いているみたいだ。
あるいは、誰もが通る道。
だからボクは「それで良いんだ。大丈夫だよ」と背中を押されたような気持ちになって。
「そうだよな…」
それきり、ボクらは口を噤む。
視線の先の空。低く垂れ込めていた雲が途切れ、
幾筋もの金色の光の帯が、大地へ降り注ぐ。
再び、移動を開始する知らせの声が聞こえた。
「思い切って話してみて、良かった。どうもありがとう」
ボクは立ち上がって、へこりとお辞儀をする。
顔を再び上げたとき、ボクの表情からは、もう迷いは消えていたと思う。
posted by 渡月・トワヤ
at 14:23:11 │
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この旅の間は眠りが浅く、うつらうつらと夢を繰り返し見ている。
普段はほとんど、夢など見ないというのに。
しかし今朝。
ボクは幸福な気分で目が覚めた。
ちっくしょー!もうちょっと寝てたかった!
せっかく恭一が、夢の中にまで逢いに来てくれたのに……
あぁぁ、ボクのバカ野郎ぉ!!
こういう時だけなぜパッチリと目が覚めるんだろうか。
うぁぁん、勿体無いー!
posted by 渡月・トワヤ
at 08:09:57 │
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帰ったら遠征中の授業のノート貸してって言うの、忘れてたーッ!
…ま、いいか。
恭一なら、誰が見る見ないに関係なく、丁寧に取っているだろうしな。
それじゃ、おやすみなさい(現地時間0:00)
posted by 渡月・トワヤ
at 22:52:20 │
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ザク、ザクと雪を踏みしめる足音。
それから、時折遠くから聞こえるのは、名も知らぬ鳥の鳴き声。
30人以上の道程。
なのに、風の音までがヤケに大きく聞こえる、ある意味不気味な静けさがボクらを包んでいる。
躓かないようにと視線を足元へ落としていたら、そのまま思考が悪い方へ悪い方へと向かっていった。先の不透明さ、これから行われることへの緊張状態が、ボクを気弱にさせているのは明白で。
ああ、まずいな…と思った瞬間、カンちゃんの声が耳に蘇った。
「顔をあげろ、前を向け。ってね」
ボクははっとして、顔を上げる。
いつだったろうか。
なんでそんな話題になったのかすら思い出せないけれど、彼と座右の銘の話をしていた時のことだ。
あの時ボクは彼の言葉に
「それ、良いねー。前向きー!ってカンジ」
と笑った。彼も「どうせなら、前向きな方がいいかなと思って」と少し笑い、つい後ろ向きになってしまいがちな自分を鼓舞するためなのだと言っていたっけ。
仲良くなった切欠ももはや思い出せないほど長い付き合いだけれど、一見クールなくせに実際はアツい(と思う。だってあんまり見せてくんないから)彼を、ボクは何かと頼りにするようになっていた。
自分にもし兄ちゃんが居たらこんなカンジかもな、という類の。
ボクは内にある不安を振り払うようにぶんぶんと頭を振ると、前方を行く案内人の背中へ視線を移した。
他人が聞いたら「覚悟が足りない」って呆れられちゃうのだろうか。
「どうせなら、前向きな方がいい」
彼の言葉同様、いつ、どんな時でも、ボクは自分の心に明るい光を灯していたいと思う。
何か心を晴れさせることを見つけ、笑顔で居たい、と
できるだけ、心を軽やかに保っていたい、と願う。
ほら、空はこんなにも青く美しいのだ。
出発前に、自分ができると思ったことは全部やった。後悔はない。
後は、仲間と自分とを信じるだけだ。
胸を張れ。
目線はあげたまま、ボクは乾いた冷たい風に晒され引き攣れる頬を引き上げて、笑顔を作った。
もうすぐ決戦の地。
生きることへの強烈な願望は、絶対に手放してやるもんか。
希望という名の灯火は決して絶やさぬように。
──何が何でも、生きてやる。