posted by 渡月・トワヤ
at 00:26:25 │
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── そっちの様子はどうだ?
少し遠い、電話の向こうの声。
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「そっちの様子は、どうだ?」
そう訊ねられて初めて、空港から宿泊先までの間…さらには日本を出てからこっち、ほとんど何も目に入ってはいなかったと気付いた。
「んー…」
実は飛行機にも乗ったことがなかったボクは、内心めちゃくちゃ緊張していたんだと思う。
「…あたりまえだけど、寒い」
そんなだったからなにも思いつかず、出たのは身も蓋もない科白。だけれど恭一は「そうか」と言って少し笑い、ボクの身体を気遣ってくれる。
何か伝えたい気がして言葉を探すけれど、うまく言葉が紡げないのは、
まだ伝えちゃいけないからなのかもしれない。
一緒に居れば穏やかに感じられる言葉のない時間も、電話口ではやっぱりちょっと落ち着かない。
「明日も早いから、そろそろ休もうと思うんだが」
彼の言葉に、離れた距離を実感する。
日本では、おやすみの時間なんだね。
こっちは夕方の光が窓から満ちはじめるところだよ。
またね、と言って電話を切り、部屋へ戻って荷物をゴソゴソほどきはじめる。
自分が決めたことだから、泣き言を言うつもりはない。
気を紛らわすために、ちょい笑える漫画も持ってきたもん…!
…そういえば、恭一が言ってた焼き物って、どんななのだろうか。
観光で来てるわけじゃないから、名所とか特産品とかあまり調べてなくて、さっぱりわからない。
あっ。
空港とホテルのロビーに置いてあったリーフレット。
そういうのはすぐ持ち帰るクセがあり、今回もほぼ無意識で持ってきていたのを思い出したボクは鞄からそれを取り出して眺めてみる。
もし、帰る時に余裕があれば空港の免税店でも…
おぉ?空港はショパンのフルネームなのか…!
パンフを見ていて初めて気づく、そんな自分に苦笑い。
空港の免税店でも、帰りに見てみよう。
……覚えていたら、だけれど。
(なにぶん初の海外で、正直見た目以上にチキってんだよ…!)
posted by 渡月・トワヤ
at 16:26:15 │
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今朝から降り続いている雨は、午後になって雨脚が弱まった。
だけれど、変わらず空に立ち込める雨雲が陽光を遮り、景色からは色を奪っている。
街はまるで灰色の絵の具を溶かした水槽の中に沈められてしまったみたいだ。そのせいだろうか、街全体が息を潜めているように感じてしまう。
だけれど気温はもう、立春のころのような、凍てつく寒さはなくなっている。
それが証拠に、ボクはもうマフラーぐるぐる巻きもしてないし、コートも薄手のものに変えている。
恭一と並んで歩きながら、
「今日は暖かいね」「もうすぐ春がくるね」って笑いあう。
普段あまり表情が出ない彼も、ボクの前では、良く笑ってくれる。
それが嬉しくて、ボクの笑顔も増えていくし、
きっと恭一も、ボクが笑うと嬉しいんだと思う。
だからボクたちは、たいてい笑顔で過ごしてる。
たまに思うんだ。
どうしてボクらはこうして、一緒に居られるんだろうか、と。
大事にしたいと想っていたひとから、同じように想われれることって、すごいことだ。
(その言葉を口にするのは気恥ずかしいけれど)奇蹟だって、呼べることなんじゃないだろうか。
いつまでも、きみの笑顔を護りたい。
だから、ボクは。
posted by 渡月・トワヤ
at 07:45:14 │
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ポーランドへ渡る日が近づいて、脳みそがフル回転の毎日。
昨夜のボクは少し疲れてしまっていたみたいだ。
ことりと眠りに落ち、気がついたら朝だった。
朝。
目が覚めて支度を整え、いざ部屋を出ようとしたボクは、郵便受けに1通の封書が届いていたことに気づいた。
誰からかな。
何の気なしに封筒を裏返したボクは、思わず立ち止まって首を傾げた。
差出人は、一度だけ、恭一とボクとをGTへ連れ出してくれた、恭一の寮の先輩で。
そのときは世間話をした程度だったし「良い人だな」とは思ったもののそれ以降は会う機会もなく、結果として恭一を通しての顔見知りという間柄だ。もちろん、手紙をやりとりしたことなど、あるわけもない。
ボクは「うーん」と唸って、あて先をもう一度確認する。
…間違いなくボクの名前だ。
不思議に思いながらも、ガッコへいく道すがら、開封して中を確認する。
出てきたのは、招待状だった。
あまりの思いがけなさにボクは「ぇへっ!?」と大きな(しかも変な)声を上げていた。周囲に人が居なかったのが、不幸中の幸いである。
ホットチョコレートをご馳走してくださるとのことで、それだけでも嬉しいのだけれど、その場所が、レア!
普段なら、部外者は立ち入り禁止でしょ、って思っちゃう場所。しかし基本的にはボクが好きな場所だ。
テンションが上がらないほうが、不思議でしょ。
恭一は、先輩がボクに招待状を届けてくださったことを、知ってるだろうか。
今日、ガッコで聞いてみようかな。
それとも、こっそりお邪魔して、びっくりさせちゃおうかなぁ。
なんだか楽しくなってボクは、招待状を口元に当ててふふっと笑う。
ガッコから帰ったら、遊びに行かせてもらっちゃおうっと!
知らない人もきっとたくさん来てるだろうから緊張しちゃうかもだけど…それでも、楽しそうだって思う気持ちの方が断然強い。
ボクは、ガッコへの道を駆けだした。
吹き抜ける春の風のように。
posted by 渡月・トワヤ
at 23:49:19 │
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腕をくっつけるように、隣に座って。
ボクはきみに少し凭れるようにして、本を読んでる。
きみも違う本を読んでいる。
時折ボクが横顔を盗み見ていること、気付いてるかな。
一緒に居られたらそれだけでいい、と本当にそう思えるなんて、
きみに出逢うまでボクは、知らなかった。
あぁ、ずっとそうだった。
きみの穏やかな波が、ボクをすっかり寛がせてしまうんだ。
思いついたように交わす、少しの会話と、
それとは比べられないほどに、たくさんの笑顔。
それぞれ分け合えば、ボクはこんなにも満たされる。
きっときみも一緒だって、そう思っているよ。
posted by 渡月・トワヤ
at 00:43:13 │
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桃の花のその奥に広がる、一面の若草。
花が落ちてしまわないように、風はそっとやさしく撫でて、笑う。
運ぶ気配は、類稀なる 最上の暖かさ。