posted by 渡月・トワヤ
at 12:30:50 │
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「ああ、腹減ったぁ!早く弁当食おうよー」
昼休みを告げるチャイムが鳴るやいなや、ボクは恭一の席まで飛んでいった。
彼の机の上に自分の弁当が入った袋を置くと、ちょうど学食へ行くというクラスメイトが居たので、その子から椅子を拝借し、ガタガタと恭一の机に寄せるとさっさと座って弁当の包みを広げはじめる。
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「……此処でいいのかい?」
恭一はそんなボクの様子に、戸惑いを隠せないでいる。
「…うん」
ボクは小さく頷いて「だって、さすがに寒いやろう?」
ここ数日は特に、朝晩の冷え込みを引きずって、日中も気温が上がらないのは本当だ。
だけれど、それだけの理由で、彼が納得してくれないことも、ボクは知ってる。
彼が注意深く、ボクの表情を見つめたままでいるのが、何よりの証拠だ。
今まで、昼休みはもっぱら屋上で過ごしていた。
それがこのボクの(理由が不明な)恥ずかしがりの性格を慮った上でのことだったのだから、そのボクがクラスメイトの前で彼にくっつくようなことをするなど、彼が心配するのは無理からぬことだと、わかっている。
ボクは、深呼吸をひとつし
「だって、恭一のこと好きやし…それを隠す必要とか、ないなって思って」
昼休みの喧騒に乗じ、彼にだけ聞こえるくらいの小さな声でつぶやいた。
やっぱり、顔は赤くなっちゃうけれども、もうこればっかりはしょうがない。
「……うん、ありがとう。トワヤが良いなら、それで良いよ」
そして恭一は同じくらい小さい声で「…僕も好きだよ」と言って、はにかんだ。
…心なしかその笑顔には、嬉しさが滲んでいるように、思えて。
影響を受けやすい、といえばそれまでのこと。
昨夜読んだ本の内容にボクははっとさせられたのだ。
彼を想う気持ちにうそはないから、まっすぐ背筋を伸ばし、自信を持っていいことなんだって。
気づくのに、こんなに時間がかかっちまった。
けれどきっときみは、許してくれるんだろう。
いつも傍で、ボクの思うままにさせてくれ、ボクが回り道をしても気長に待っていてくれて、本当にありがとう。
posted by 渡月・トワヤ
at 16:09:17 │
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とん、と触れた合図で繋ぐ手。
ちらっと交わる視線、自然とこぼれる笑み。
昨夜、意を決して飛び込んだナイトメアビーストの迎撃戦の選抜メンバーからもれたことを告げる帰り道。
「そうか……」
残念だったね、と慰めてくれる恭一も、すでに他の依頼を受けていたから、今回は立候補しなかったそうだ。
「僕らの思いを背負ってくれる彼らのサポートに徹しよう」
一般人がボクらのとばっちりを受けて傷つくのは、絶対に許されないことだもんね。
カラカラ…と乾いた音をたてながら一枚の枯れ葉が、風に流されてボクらを追い越していった。
あれよあれよという間に、冬が来る。
夕闇迫る時間は日ごとに早まり、街路樹も葉をひらひらと散らせ、徐々にその枝を露わにして。
ボクは今日、この秋の初マフラー。
ぐるぐる巻きにしたマフラーに鼻まですっぽり埋めるようにすると、ほわんとしてぬくぬく。
冷たい風もへっちゃらなのだ。
そんなボクを見て恭一は
「なんだか亀みたいだよ」と笑う。
時折吹く風が、まだ梢に残る赤や茶色の葉をカサカサと揺らす。
その音を見上げるボクの目に、薄青の空と赤い葉のコントラストが切り絵のように鮮やかに焼きついた。
「きれいだね」「……ああ」
ボクの言葉につられて見上げた彼も頷いた。
こういう時、ボクはことさら
ああ、このひとのこと、どうしようもなく好きだ、って、想うんだ。
posted by 渡月・トワヤ
at 00:42:11 │
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正直言って、怖い。
下手を打てば、すぐ傍には死が控えているようで。
だけれど、ボクは能力者に生まれた。
このチカラは、誰かのために生かしなさい、と神さまが与えてくれたのだろう。
今が、その時…なのか。
逡巡を続けるボクの手を握って、恭一は励ましてくれる。
その穏やかさが、ありがたかった。
繋がれたこの手に、力が少しこめられる。
そうだね。ボクは一人じゃない。
仲間も一緒なんだ。
やれることを、ただ全うしよう。
posted by 渡月・トワヤ
at 14:52:28 │
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穏やかに晴れた午後。
風はもう、冬のそれみたいにつめたいけれど、柔らかな陽射しの中、手をつないで歩けば、やっぱりとても暖かだ。
今日はいつまでも、こうして二人でゆっくりと歩いていたい気分。
恭一から
「どこか行きたいところはない?」と尋ねられても、
二人で歩いていればそれだけでわりと満足してしまっていたから、
「んー…」とお茶を濁すように鼻で唸って、ヘラヘラ彼を見る。
ボクのその様子に恭一は、しょうがないなあってやさしく微笑いつつ、当て所のない散歩にどこまでも付き合ってくれるんだ。
でも。
まだ傷は痛むかな。
それでなくても、恭一ってば、我慢しちゃいそうな性質だし…
あんまり連れまわすのも良くないか。
「よし、決めた!」
ボクはひらめいて、ちょうど目に留まったケーキショップのカフェコーナーを指差した。
「今日は恭一の快気祝い!おごっちゃるけぇ、あそこ行こ!」
言いながらすでにそちらへ向かって歩き出すボク。
自然、引っ張られる格好の恭一は、些か遠慮する様子を見せる。
「大丈夫、大丈夫。予算は二人で1,000円だから!それ以上は自腹なー♪」
ボクはふふっと笑う。
恭一もそれならば、と納得してくれたらしい。
……まぁ結局は、予算もなにも。
割り勘になっちゃったんだけどね。
posted by 渡月・トワヤ
at 16:35:09 │
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今日は寄り道もそこそこにして早めに部屋へ帰ると、コーヒーを沸かして机に向かった。
普段なら、ここまで優等生なことはしないのだけれど、
今日ばかりは重要なミッションを抱えているのだ。
ボクはかばんから、1冊のバインダーノートを取り出した。
前回のテストが間近に迫ったある日、ようやく、ああ来年は受験なのだ、と気づき、勉強に本腰を入れることにしたボクは、授業で使っていたノートを見返して愕然とした。
メモと呼んでも差し支えないほどの(時折ミミズが這ったような)走り書きの羅列。
センセの板書をそのまま書き写した(らしい)これでは、あまりにひどすぎるし、いったい何のことを言いたいのか、書いた本人にすら、さっぱりわからないときている。これではあんまりだ。
そこで一念発起。
ボクは清書用のノートを準備し、授業の記憶が鮮明なうちに、清書することにしたのだ。
この清書作業、ハマると案外楽しいもので、重要項目ごとにマーカーで色分けしたり、ワンポイントや疑問点に簡単なイラストを添えてみたりした。
そうやって楽しみつつ纏め上げたノートは、前回のテスト時に大いに役立ち、(自分の過去の成績と比べて、だけど)目覚しい点数アップを記録した。
まさに快挙!やればできる子!!
それで味をしめたボクは、今でもノートまとめを欠かさない。
しかし、今日は自分のためではなく、大怪我を負った恭一から預かったノートへの書き写し作業。
他人のノートなどなかなか見る機会には恵まれないから、なんだか緊張してしまう。
けれど、恭一のノートを開いたボクは、少し目を見張って、それから顔を綻ばせた。
ああ、やっぱりね、と嬉しくなったのだ。
……性格、出てんなぁ。
何事もキッチリしていないと落ち着かない彼らしい、整ったノートがそこにはあって。
…でも、待てよ?
ボクはノートのことを頼まれたとき、彼のかばんからこれを取り出したぞ。ってことは、授業の段階ですでにこの完成度なワケ?!
ボクはため息を漏らしつつも素直に「すごいなぁ」と彼を尊敬してしまった。
これだけまとめられるってことは、授業の内容をきちんと理解しているってことだもの。
うん、ボクも負けてらんないや。
(でもボクは、授業のときにそこまで理解できるはずもないので、ノートまとめで盛り返す!)
彼がこのノートを見返すとき、できるだけ違和感を覚えないようにと、彼のノートの取り方と見比べながら、しばらくのあいだ書き写し作業に没頭した。
それはそうと。
今日ほど、幼いころから習字教室に通わされていて良かった、と思ったことはないかもしれない。