:::::::::::::::::::
部屋の鍵を開けると、締め切っていた部屋は少々暑く感じる。
季節は確実に秋へとうつろっていて、大気は乾き風がさらりと心地良い涼しさで、
淡く高い空、そこに浮かぶ細い雲を眺めながらの帰宅路はとても快適だった。
だからなお一層のこと、この部屋の空気は不快に感じるのかもしれない。
とるものとりあえず、鍵と鞄と手紙とを置きながら窓へ向かい、一気に開け放った。
風が、ひゅっと部屋へ舞い込む。
同時に、街の喧騒も遠く聞こえてきた。
ボクはほっと息を吐き出すと薄いカーテンだけ閉め直し、
部屋着へ着替えてから、さっきの封書を手に取った。
ぴりぴりっと糊を剥すと、中からもう1通、封書が出てきて。
住所は実家のそれで、差出人の名は中学校時代のトモダチからだった。
ボクはもう中学校の頃にはすっかり周囲から浮いていたし、それが日常だったから気にも留めてなかったけれど。
その子のことを知ったのは、ちょうど今時分の放課後の図書室だったっけ。
====
「渡月さん…?」
遠慮がちに近づいてそう声をかけてきた彼女のことも、誰かさっぱり判らなかった。
「そうやけど。キミ誰?」
読んでいた本がちょうど佳境に入ったところで水を差されたのと、
ボクと一緒の所を誰かに見られたら、面倒くさいことになるのとで、
ボクは鬱陶しそうに彼女に視線を寄越し返事をした。
「私、同じクラスなのになぁ」
苦笑して頬を指で軽く掻いた彼女をもう一度見上げる。
そういえば、この子。
体育の時に二人組でストレッチをする時なんかに、たまに相手をしてくれた子だった気もするけれど。
どうでも良かったからいちいち覚えちゃいない。
「あぁ、そうやったっけ…そんで、何か用?」
放課後の図書室なんて、よほどの物好きでもないと来ないから、ボクの格好の居場所で。
他に人が居ることなんて稀だったから誰かに見られたら…なんてことも、まぁあんまり意味のない心配ではあったんだけれど、さっさと会話を切り上げたかったんだ。
彼女はボクのつんけんした態度に負けなかった。
「渡月さん、本が好きやろう?私も好きなほ。
…そんでね、良かったら本の貸し合いっこしない?」
ボクは耳を疑った。寝耳に水とはこういうことか。
本当にびっくりしてしまって、言葉を失う。
「渡月さんて、皆が言うような人じゃないと思っちょるんやけどねー」
彼女はちょっと赤くなって、悪戯っぽく笑った。
ボクは「何言ってんの」と言い捨て、逃げるように家へ帰った。
次の日からの教室での彼女は今までどおりだったから、ボクは狐にでもつままれたような気になっていた。
でもやっぱり彼女のことが気になって、目で追う。
こうして眺めていて気づいたこと。
確かに彼女は他のクラスメイトと少しだけ違っていた。
ボクらの年頃は特に「一緒」だということに安心を求めるもの。
だのに彼女は人と違っても全く意に介した様子はなく、かといって浮いてしまわない絶妙な距離を保っていた。
彼女はいわゆる、オトナだったのかもしれない。
その後も彼女は懲りることなく、折に触れては放課後の図書室でボクにアタックを繰り返してきた。
結局、2ヶ月後ぐらいに、ボクは根負けした。
それからは、たまに図書室で落ち合い、本の貸し借りをするようになり、
ボクがあまり人前で話したがらないのを慮ってくれ(たのだと信じたい)
手紙を交換したいと言いだし、メールでも良いというボクに
「ちゃんと切手を貼ったのがいい」と押しきって、
態々ポスト経由で文通するようになった。
「こんなに情熱的な私がオトコやったら、トワちゃん世界一の幸せ者やろうねー!」
彼女が悪戯っぽく書いてた手紙が、やけに印象的で
ボクは時折思いだして、笑ってしまうのだった。
======
開いた手紙。
文面はこう始まっていた。
「トワちゃん、元気にしちょる?
一人暮らしなんて、ちょっとうらやましいなぁ。
あっ、この前、お母さんに聞いたよ。そっちで、友だちができたんだって?
ホントに良かったね!
私は○○高校に無事入って、文芸部に入部したんよ…」
お互いウッカリしてて、こっちの住所を聞いて&教えてなかったことも、
「それでも通じ合ってる!」と笑い飛ばしている。
久しぶりの手紙、変わらない彼女の文面。
そよ、と吹き込んだ風の柔らかさが、彼女の人柄とダブる。
返事を書こう。
ここでの暮らしのこと、たくさんの友だちに恵まれていること。
キミが居たから、今のボクが在るんだって。
たくさんのありがとうを込めて。
…ま、そんなこっ恥ずかしいこと、書いたりしないけどな!
PR