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あれは、ボクが小学校に上がったころだったろうか。
幼馴染の家から自宅までは勾配の急な坂道だったけれど、子供の足でも1分もかからない距離だった。
ボクは一人でその道を下っていたから、多分その子の家から自宅へ帰る途中だったのだろう。
ボクの実家は高台の団地にある。
海そのものは見えずとも周囲に遮るものがない所為で、海からの風がいつも渡ってくる。
海から吹きつけるその強い風は、その坂道を駆け上って空に還るのだ。
この歳になっても、ちょっとヒールのある靴なんて履いて下れば、前に倒れてしまうような心持ちになる程の坂道。
小さい頃のボクにとって此処は、一種の難関だった。
一度こけてしまえば、後は一気にコロコロっと転がってしまいそうに思えて、いつも慎重にならざるを得ない。
その日も身体全体で風を受けながら、一歩一歩と下っていた。
「あれ?」
熱せられたアスファルトが冷やされたあの匂いが鼻先に届くのと、
背後から、パラパラっと地面を打つ音が聞こえてくるのがほぼ同時だった。
振り返ったボクの目に映ったのは、
その手をボクへと伸ばしながら、アスファルトを濡らし始めた雨の端。
「ぅわ、わ、わぁぁー!」
と転がるようにしてヘアピンカーブへ続く坂道を駆け抜け、自宅へと飛び込んだ。
結局そのカーブによって(一瞬でも)雨雲に向かう形になっちゃったから、濡れてしまったんだけれど。
下校時になっても、やはり雨は降り続いていた。
雨の日はいつも、この雨に追われた幼いあの日の自分を思いだして、可笑しくなる。
今日も雨。
ボクは傘に隠れるようにして、一人笑った。
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