「パイヴァー!トワヤー!」
信号待ちの交差点でボクを呼ぶ声がする。
声のする方へ視線を向けると(「パイヴァー!」という挨拶を使う知り合いは一人しか心当たりがないから、見るまでもないが)横断歩道の向こう側で、大声を張り上げ、両手をぶんぶん振っているハルカがいた。
彼女は天真爛漫という言葉が良く似合う。
「笑うことが大好きだ」といつか話していたように覚えている。
その言葉に違わず、本当にいつも笑っているような気がするし、
いやそもそも、感情表現が豊かなのだろうか。
表情がコロコロ変わって、見ていて面白い(本人には言えないけれど)
髪の毛の色と相まって太陽みたいだなーと思うことがある。
だからだろうか。
彼女の周りは、いつも温かい。
今は、お互い逢魔時を抜けてしまったから、ちょっとばかり疎遠になっていたけれど。
…元気そうだ。
:::::::::::::::::::
そのうち信号が青に変わった。
ハルカは、タタタッと一目散に駆けてきて
「トワヤ!元気ダったか?」
とボクを見上げて、あの頃と同じようににっこりと笑った。
「あぁ、おかげさまでね。ハルカはどうだい?…って、訊くまでもないな」
と、にっと笑ってみせる。
「ナンだよー、訊いてくれても良いじゃないカー!」
ぷぅ、と脹れるハルカの頭をぽんぽんと撫でてやりながら、
「だって、どう見ても元気そうじゃないか!」
とけらけら笑った。
彼女は父親がフィンランド人、母親が日本人で、フィンランド生まれだそうだ。
ボクからしたら、フィンランドなんて地球の裏側で、フィヨルド?("フィ"という言葉で脳内で勝手に繋がったが、後で調べるとこれはノルウェーにあるものらしい)、ともかくムーミンの祖国ってぐらいのしょぼい知識しかないんだけど。
彼女は母親の影響だろう、日本語は不自由なく扱う。
なんで女の子らしい喋り方を教えなかったんだろうか…と、
(まぁ、ボクが言えたギリではないが)彼女の母親像がまったく見えてこないが。
これから時間があるか?というハルカの言葉に頷いて、ボクらは手近なコーヒーショップへ入ることにした。
「アノな!話したいコトが、タくさんあるんだー♪」
ハルカはテーブルにつくと、コーヒーに口をつけることもせずに、セキを切ったように話し出す。
聞けば、逢魔時を出る少し前に住む場所を探していた時、故郷に良く似た冷たい空気を感じ、フラフラっとその場所を訪れたそうだ。
夏でも冷気漂うその場所は銀誓館学園の生徒が集う下宿だったそうだが
「デもな、雪女専用の下宿ダったんだ」
普通の人がそこで過ごせば、凍死する恐れもあるとか…どんだけ寒いんだ!?
ハルカは、大げさに肩を落としてみせる。
あれ?
「でもハルカ、雪女のバイトしてなかったか?」
一緒にゴーストタウンへ潜った際に、雪をそこかしこにまき散らかし、
雪だるまアーマーを纏っていたことを思いだしてそう訊ねると
「本業が雪女じゃないとダメだって」
ふむ。
どう慰めるか、思案を巡らせようとした瞬間に
「ソレでな!団長サンに手紙書いたんだ!」
おぉぅ。積極的だな…
ほほぅ、と頷いて先を促すと
「バイトと本業をチェンジしたら、入居デキるのかー?ってネ!」
そういうテがあったのか。
ちょっと反則っぽい気がしないでもないけれど、強引なトコはハルカらしいなとも思えて、くすくす笑った。
結局、ハルカは昨日ジョブチェンジをし、その足で下宿に入居届を出しに行ったそうだ。
「住む場所が決まったヨー。トワヤも遊びに来てナ!」
そう屈託なく笑うのは別に良いけどさ…
「さっきの話じゃ、普通の人間は凍死するって…!」
いくら冬が好きでも、凍死だけは勘弁だ!
PR