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話に夢中になりすぎていて、まったく気づかなかったんだ。
ふと恭一が思い出したように
「……トワヤ、時間が時間だけれど、大丈夫かい?」
言われて、時計など見ていなかったことに気づき、ケータイを開いてびっくりした。
「こんな時間!?眠いとか、そういうのは大丈夫なんだけど…」
口ごもる。
いくら、恭一の寮の規則がわりと緩かったとしても、だ。
彼が、朝まで恋人と二人で過ごしていた、と ── 実際は、話に夢中になっていただけだったとしても ── 他の寮生たちに知られては、後で彼が何を言われるかなんて、判ったものではない。
…だって、ボクら、思春期だもの。
こういう話題は皆大好きで。かならず背びれ胸びれ尾びれ…(?)とにかく色々ついて回って、厄介だ。
「うーむ。もうちょっと一緒に居たいけど…さすがに、ねぇ」
ボクは困って笑ってしまう。
「それじゃあ、家まで送ろう」
恭一は立ち上がった。ボクもつられて立ち上がり、彼の手を握った。
「外はきっと、寒いよ。でもこうすりゃ温かい」
「……ああ。温かいな」
ボクらは、にっこりと微笑み合って、部屋を出た。
やはり、外は寒かった。
冬の始まりではないか、と思うほど、風が冷たくて。
「寒いね」
ボクは半ば独り言のように呟いて、恭一の手をもう一度しっかりと握り直す。
「…時間も時間だし。こんな季節だからね」
恭一も、繋いだ手に力をこめる。そしてボクらは歩き出す。
「でも、星が綺麗」
空を見上げながらボクは歩く。
恭一が手を引いていてくれるから、躓く心配などないと、安心しきっているのだ。
「確か……」
恭一がふと思い出したように切り出した。
「この時間帯は、昔 たそかれ時……って呼ぶんだっけ。かはたれ時って言うんだっけ。……忘れたな」
切り出しておいて、オチがつかないことに、頭をかきつつ照れくさそうに笑う。
たそかれ時、というのなら、ボクも知っている。
いつ、なにで知ったのかはもう忘れてしまったけれど「黄昏(たそがれ)」という言葉に強く惹かれた際に、色々調べ、「黄昏(たそがれ)時」は元々「誰そ彼時」だったということ、夕暮れ時は、道のあちら側からやってくる人が誰かもわからないほど暗く「誰ぞ?」と問うたことが語源だということを知っていたのだ。
「…だから、この時間なら、かはたれ時、というんじゃないかな?」
「かはたれ時」 知らない言葉だったけれど、消去法で答えてみる。
「あぁ、そっちだったか」
恭一は苦笑い。
そこから話が膨らんで、昔の人たちが、闇に対して思っていたこと。
もっともっと、夜の闇が、漆黒の闇であったころのことや、逢魔時と呼ばれること。
あぁ、夜の闇は怖い。何が出るか判らない恐怖心が怖いと思わせるのだ。
自分で話題を振っておきながら、所謂怪談話がニガテだったことを思い出して、思わず恭一の腕にしがみつく。
「…えぇ?この間、その魑魅魍魎と戦ったじゃないか」
ボクらがボクらになったきっかけとも言える、先の戦争のことを彼は言っている。
「いいの、見えるヤツはいいの!見えてるから!」
すでに理由が、理由としては破綻している気がしないでもないけれど、ボクは見えないモンが怖いのだ。
だって、想像力に長けているから!
そんなことを二人で話しながら歩いた。
知らないことと、知っていること。
ふたりで持ち寄ってそっと広げれば、こんなにも穏やかで、冷たい風に吹かれているのに、なぜか暖かくて。
「…あ、着いちゃった」
見慣れた雑居ビルを見上げ、なんだか至極残念な気持ちが、言葉の端に滲んでいた。
繋いだ手を離すことは、まだできなくて。
「…そう、エントランスの紫陽花がね。とても見事なんだよ」
思いついたのは、季節感をガン無視した言葉。
「…だから、その……それを、一緒に眺めたいな」
その季節は、まだまだ先のこと。
恥ずかしくなって彼の目を直視できず、うつむいて呟いた。
「ああ。是非」
恭一は、きっと優しい目をして、微笑んでいるに違いない。
「とても楽しかった。ありがとう。……それじゃあ、気をつけて帰ってな」
「ああ。僕の方こそ楽しかったよ…ゆっくりお休み」
「…おやすみ」
ゆっくりと解ける指の隙間に夜風が入り込んで、ボクはひっそりと、ふたりで居ることの温かさを思い知る。