何度目かの呼び出し音の後。
──はい、もしもし。
いつも電話に出るときは、1オクターブ上がる母の声。
変わらないなぁ…まぁ、当たり前か。
「あ、ボクだけど」
──ああ、トワ?
「母さん、ブッブー減点1。詐欺に引っかかるよ?」
ボクは、母の無防備さに苦笑いしつつ、ダメ出しする。
──平気よ、だってナンバーディスプレイだもの。
…あ、さいですか。
──で、冬休みは帰ってくるの?またバイトが忙しくて帰らないって言うの?
ぼんやりしてんだか、鋭いんだか、この人だけは未だに良く判らない。
「ああ、そうだった。そのことで電話したんやった……今年は帰るよ」
──何日くらいになりそうなの?
「んと…それなんだけど…多分31日になるんじゃないかと……」
──31日って……おせちの数の子の皮むき、間に合わないじゃない。
そ こ か よ !!
「いやあの…ちょっと寄るトコがあって……」
──お友だちのおうち?
厳密に言えば違うけど、ややこしくなりそうなのでとりあえず割愛。
しかし鋭い。
「…うん、まぁそんなとこ。で、年明けて3日に今度はその…えぇと…・・・・・ ・ ・ 」
やっぱ恥ずかしくて小声になってしまったけれど、母は耳聡く聞き取った。
──まぁ……おおおおお父さん!!トワが……きゃあぁ、あのトワに※▼●×☆◆●☆※♪
きゃあきゃあと年甲斐もなく俄然盛り上がる母。
…あの、電話中なんだけどー…ってボクの声は聞こえるワケもなく。
まあ、喜んでくれる気持ちは、わからないでもないんだ。
弟や妹は昔からしょっちゅう家へ友だちを連れてきていたけれど、ボクに関して言えば、ほぼ初めてのこと。ましてや、それは、ただの友だちではないのだから。
ボクは耳まで赤くなっていることを、自覚する。
結局、興奮し収拾がつかなくなった母は、父へとバトンタッチした模様。
(むしろ、父が代われと言ったみたい)
電話線の向こうでは、弟と妹を巻き込みながら「何を作って、おもてなししたら良いかしら」なんて
張り切っている様子が聞こえてくる。
と、耳に、受話器を受け取った父が吐き出す、大きなため息が届く。
ボクは自然、背筋が伸びる。
父はボクに、元気かと訊ねるやいなや声のトーンを落とし、彼は能力者なのかと、ボクにだけ判るように問うた。
ボクは「うん」と肯定し、父は「そうか」とだけ、呟く。
──自分で決めたんなら、どうせ俺が「許さん」って言ったところで、オマエはテコでも動かんのだろう
「…そりゃまぁ、ね。でも決めるとか大袈裟やろ、付き合ってるってだけなほい…
ただ、やっぱけじめくらいはつけとかんといけんかなぁ、って」
離れて暮らしてる分、たくさんの心配をかけていると思う。
特に父さんは、ボクの学園生活がすなわち何と隣り合わせなのかを、知っているのだ。
だからこそ真正面から向き合って、ちゃんと伝えておかなければ、と思う。
だけれどやっぱり、そういうふうに思ってるうちの半分も、上手に言葉にはできなかったけれど。
「それに、頑固なのは父さんに似たんだよ」
ボクはへへへっと笑い、その日にはお気に入りの店で、ケーキを買っておいてほしいと強請っておくことも忘れなかった。
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