「……というワケで、今日は図書館へ行こうと思いまーす」
ボクは繋いだ手をきゅっと握って、恭一に笑いかけた。
彼は「ん」と頷いて、笑い返してくれる。
いつも恭一はボクのワガママを笑って受け入れてくれる。
だからボクは、それが当たり前になってしまわないように、いつだって「ありがとう」って気持ちをちゃんと伝えたいと思う。
平日の夕方の図書館は、人もまばらだ。
ボクらは、図書館に入るのとほぼ同時に繋いでいた手を解く。視線を交わして静かに微笑いあうと、各々の気になる書棚へと向かった。
こういう時、特別言葉が要らないという事実に、胸が温かくなるのを感じる。
ボクらが共に過ごしてきた時間は、ボクらだけの空気を形作っているんだなぁ…って実感するんだ。
最近色々と本を読み漁っているボクは、今日も今日とて、小説の棚をぐるぐると見て回る。
気に入りの作家はやはりいて、その人を中心に探すけれど、時々は、なんとなくタイトルに惹かれたり、背表紙の雰囲気が良かったりするものを手にとって、最初の4~5ページを読んでみる。
文体とか、雰囲気とか、そういうのを感じ取って、読み続けられるかそうでないかの判断をする。
今回のは、ちょっと無理っぽいな。
今のボクの気持ちとは、そぐわない。
ボクは本を閉じて棚へそっと戻した。
それから、小説は諦めて美術関係の棚へ向かう。画集なんかを開くのも好きだからだ。
ミュシャの画集を手にとると手近な椅子へ座って、ぱらりとめくる。
潔い線、風に舞い流れるような長い髪の毛のうねり。
明確でありながら、緻密で繊細。
ボクは見入る。
ふっと顔を上げると、ちょうど正面の棚の向こう、恭一が見えた。
彼は彼で、活字を追っているようだ。
ボクはいたずらっ子みたいに、画集から顔を覗かせるようにして、彼の真剣な面持ちを盗み見る。
彼の姿を見るだけで、
ボクの心は、こんなにも満たされて、
そして、なぜだか涙が溢れそうになってしまうんだ。
その溢れそうな雫を、ひとは、しあわせと呼ぶのかもしれない。
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