痛み止めのせいか、はたまた麻酔のためか。
いずれにしても、意識が、なんだかふわふわしている。そのくせ、我慢できないほどではないにしても、身体のあちこちで、鼓動に合わせるように鈍い痛みが、ひっきりなしに波打っているかのよう。
目が覚めてしまうと、もうどうやっても眠る気になれなくて、ボクは重たい身体を起こす。
枕もとのテーブルにおいてある時計は、深夜2時をさしていた。
病院で、深夜2時で。
…ゴーストで慣れてるはずだけど、やっぱそういうのが苦手なボクにとってはサイテーなシチュエーションだ。
今日一日、いろんなことがありすぎて、脳みそが興奮状態なのだろう。
目を瞑ると閃光が奔り、轟音が鼓膜を震わせ続けている。
…あの時。
その光景は、思い出すだけでも、冷たい何かが背筋を伝う。
***
ボクらが向かった戦場は、凄惨を極めた。
多勢に無勢。
どんなにボクらが結束したところで、あの軍勢を6人で制圧することなど ──。
誰もが脳裏に思い描いたコトバ。しかしそれを口に出すことなど許されるはずもない。ボクらは割り振られた役割を全うするだけのために、今此の地に居るのだから。
気を失っていたのは、果たして何分ぐらいだったのだろうか。
自身の身体にのしかかる重さがふっと軽くなってボクは意識を取り戻し、ぶんぶんと頭を振る。何とか上体だけ起こしあたりを見渡しながら、さっきの光景を思い起こす。
こうして無事ということは、生命賛歌が発動しているということ、か。
たしかボクは妖狐に尾獣穿で、吹っ飛ばされて……。
しかし、周囲ではもう担架で次々と、倒れている仲間たちが運ばれはじめていた。
「あなたは、無事、ですね」立ち上がったボクを一瞥した救護班が、恭一を担架へ横たえながら声をかけてきた。まだ目の前の出来事に思考が追いつかない。半ば呆然としているボクへ「ご武運を」一言告げて、恭一を運び始める。
…あ。
「恭一!…もう下がってろ・・・出てきたりすんなよ!!」
かすれた声で叫ぶのが精一杯だった。届いたかどうかも知らない。
そうだ。吹き飛ばされた時にボクは本当は、もうダメだ、と思ったんだ。
これが、"運命の糸"と呼ばれるものなのだろうか。
ボクが飛ばされて転がった先には、恭一が倒れていた。
痛みに耐えるように身体を丸めたまま転がっていると、山津波のような地響きがして。
「……トワ、ヤ…うご、くな……」
切れ切れの呼吸のその隙間でボクの名を呼び這いながら、恭一はボクへと覆いかぶさる。
ボクが状況を把握するその前に、彼は少ない残りの力を振り絞って、何かから庇ってくれたのだった。
そう、理解するのと、意識が飛ぶのと。
ほぼ同時だった。
ボクは、戦況建て直しのための陣営に戻り、そこで先の戦闘の一部始終を思い出していた。
彼は身を呈してボクを護ってくれたのだ。それが原因で……。
自分の無力さが悔しくて滲む視界。ボクは歯を食いしばった。
握り締めた拳は、わなわなと震える。
落ち着け、落ち着け、落ち着け。
冷静な判断のみが、彼の想いに報いることができるのだ。
やり場のない気持ちは白い吐息となって吐き出され、空へと上り風にかき消されるのを見る。
***
今感じる痛みも苦しみも、生きていればこそだ。
そして、ボクの命は、彼につなぎとめられたと言ったっていいと思っている。
静寂に包まれたままの白い部屋。
身体に負担のないほど軽い、しかし暖かい布団。
やわらかすぎる枕。
眠れる気などしなかったけれど、ひとまず目を閉じることにする。
きっと次にまぶたを開けば、世界はまぶしい陽の光に彩られていることだろう。
痛みが消え、また走れるようになったなら。
ボクは迷わず彼の元に一番に駆けていこう。
そして、とびっきりの笑顔を見せたい。
それに応えてくれる彼の笑顔を、また見たい。
「二人とも、生きて帰ろう。」
その約束を守れて、本当に良かった。
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