恭一の言葉通り、ほどなく到着した1台のバスに、列をなしていた人たちは黙々と乗り込んでいく。
皆、身体が芯から冷えていると思う。
バスの中はすでにじゅうぶんに暖房が効いており、ボクらとともに並んでいた人たちの安堵のため息と、遠慮がちな会話が聞こえはじめる。
座席の位置を確認していたら、恭一が頭上のラックへ荷物を上げてくれる。
小さく「ありがとう」と言って、シートに腰を下ろした。
車内は、普段乗る路線バスとも遠足で使うような観光バスともちょっと違っていて、縦3列の独立したシートだった。座席は一つずつが結構大きくてリクライニングもでき、毛布もちゃんとそろえてある。バスの中心あたりには、少し降りる階段があって、その先はトイレになっているようだ。
ほどなくして、街灯が照らす中、バスは動き出す。
そわそわきょろきょろ、と落ち着かない様子で車内を見回していたら、隣に座った恭一と目があう。
「……まったく。」
しょうがないなぁ、とでも言わんばかりに、くすくすと笑う彼。
ボクは、エヘヘと笑った。自分の頬が上気しているのを自覚する。
だって、こんなに嬉しいことってない。
明日のことを思えば、緊張で眠れるか、今から心配はあるけれど…
でも、ずっと隣に居てくれるから、大丈夫だよな。
いつしか後方へと流れる車窓の明かりは消えていた。
ギアチェンジの揺れもなくなり、ゴォォォ…という継ぎ目や揺れのない路面を拾うタイヤの音が続いていることから察すると、すでに高速道路に入ったのだろう。
車内の照明を消します、というアナウンスとともに電気は消され、社内を仄暗く照らすのは常夜灯と非常出口のグリーンの明かりのみ。時折、対抗車両や後続車のヘッドライトが照らしては消える。
ボクは椅子を軽くリクライニングして肩まで毛布をかぶると、恭一の方を向いた。
闇の中で、彼の輪郭がボクの方を向いていることだけは判る。
一晩中、こんなに傍にいられるなんて…今でもちょっと信じられない。
そう思うと、顔から火が出てしまいそうだ。
…暗くて、良かった。
どこかしら不安になりそうな心が、ボクの手を、彼へと伸ばす。
恭一は、ごく当たり前の動作で、指を絡めて優しく握ってくれた。
そしてそれは、まるでボクの望むとおりに、ボクの心を穏やかな暖かさで満たしてくれるのだ。
「…おやすみ、恭一」
「ああ、おやすみ。」
するり、と音もなく、されど名残惜しそうに、ほどかれる指。
ボクはその手を掻き抱くように、少し身体を曲げて目を閉じた。
眠れるかどうかは、まだわからない。
けれども明日、目が覚めたら。
ボクがまだ知らない、恭一の生まれた街の空が、頭上に広がっているんだね
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