物理的に離れていたって、メールも出来るし、電話だってかけられる。
それはわかっているけれど。
「…昔は物を思わざりけり、かぁ」
「…ん?」
ボクの独り言。なんでもないよとへへへと笑う。
時計を確認。乗ろうと思う電車までは少し時間がある。
「そうだ。折角だし、買い物に行こうよ」
キャリーバッグをコインロッカーに預けて身軽になったボクは、恭一の手を引き地下鉄乗り場へと歩き出した。
地元に居る時にも、この街の名は良く聞いていた。
実際、実家で見ていたテレビの殆どは海峡を越えての電波だったから、この街の知識だけは豊富にあって、行ってみたい場所は多かったりするのだ。
………
楽しい時間は、どうしてここまで速く流れていくんだろう。
あっと言う間に、電車の時間になってしまった。
改札の前で、ぐずぐずと繋いだ手を解けず
「…それじゃあ、また」
「うん」
何度か、同じせりふを繰り返すボクに、恭一は飽くことなく、けれどちょっとくすくす笑いながら付き合ってくれている。
「ほら…もう時間だぞ」
「…判ってるって…ちくしょう。えぇい!」
ボクは意を決して、唇をとがらせて手をほどいた。
また、すぐに逢えるよね。
それに、逢えない時間も、ボクらは二人の時間を共有しているんだよね。
心の中で自分に言い聞かせながらボクは改札をぬけて振り返り、恭一に精いっぱいの笑顔で手を振った。
「良いお年を!」
流れる車窓は、夕暮れの空を映す。
ボクはほおづえをついてその風景を眺め、この3日に起こった出来事を順繰りに思い出す。
すごく緊張してたのは本当だけれど、恭一がずっととなりに居て、両親の前だろうとなんだろうと、手を握ってくれていたから、大丈夫だって、思えた。
そして、堂々と家族に「付き合っている彼女だ」と紹介してもらえたこと、
ボクらのことを認めてもらえたこと。
こんなボクでも……そう言うと恭一はきっと怒るんだろうけれど、やっぱり、こんな髪の毛の色をした女の子が息子の彼女だとすんなり受けいれる大人が一体どれだけ居るのかと、たとえ恭一が「大丈夫だ」と言ってくれたところで不安な気持ちはぬぐえなかったから、本当に嬉しくて。
そしてなによりも、ただ認めてもらえただけでなく、お母さんはボクをとても気に入ってくださったみたいだし…彼の妹の美弥ちゃんも、なんとなく、ボクを慕ってくれている気がした。
恭一はお父さん似なんだなぁ…顔はともかくとして、仕草や雰囲気がそっくりだった。
もっともっと大人になったら、恭一もお父さんみたくなるんだろうか。
やさしくて、おだやかで、あたたかい。
…たしかにあの家族が、恭一そのものなのだ。
嬉しくて、夕焼けがにじんでしまいそうだ。
ボクは注意深く、周囲に悟られないように、窓へと向き直り、しゅんと鼻をすすった。
――ボクが感じたこの喜びを、きみにも感じてもらえたらいいな。
PR