昨日の夕刻、実家に帰ったボクは、夕食の片付けのために台所へ立った際に、恭一の実家に2日ほど泊まり、両親に会ってきたと、母にだけ話した。もちろん、誤解されるようなことは、一切ないと…公明正大誓えるけれども、あえてそれを言えば、逆に不自然な気がしたので、なんだか事務的な報告になってしまう。
母は、他の家族には、泊まったことは言わずにおいてね、と言う。
まぁ、弟もぼちぼち反抗期らしく、そういうことはデリケートな問題になってくるのかもしれなくて。
「それから、お父さんにも私から話しておくから」
ボクよりよほど父との付き合いが長い母だから。
ボクはただ、小さく「うん」と頷いて、母に従う。
あけましておめでとう、とお年玉をもらい、お節やお雑煮をひとしきりつついた後、お茶を飲みながら面白くもないお正月の特別番組をぼんやりと家族で見ていると、
「ひさしぶりに家族が揃ったのだし、みんなで三社参りに行こう」
と父が切り出し、ボクら一家はそれにならった。
おみくじの結果は、推して知るべし。
まぁ、こういうのは当たるも八卦当たらぬも八卦と言うではないか。
境内で売られていた甘酒を父に買ってもらい、それで暖をとったボクら一家は、その神社を後にした。
どうやら昨夜ボクらが眠った後、母から父へ、ボクが恭一の実家に”立ち寄った”ことがやんわりと伝えられたらしい。
神社から帰って弟や妹が自室へ引っこみ、母は台所で夕飯の支度を始めたころ、父が読みかけの新聞から目を上げずに何気なく(もしくは何気なさを装って)「母さんから聞いたんだが……彼のご両親に会って来たんか?」と問うてきた。
ボクはちょっとだけドキっとして父を振り返る。
見るとはなしに点いたままになっていたテレビの音がなぜだか急に騒々しく感じ、煩わしくなる。ボクはリモコンで電源を切ると「…うん」と頷いて父へ向き直った。
恭一が能力者だと言うことは、帰郷を伝える電話で言っておいたから、今更ではあるけれど。
「……ちゃんと挨拶しときたい、と思って。
ご両親とも、ボクのこと、気に入ってくださったと思う」
そうか…と、何か言いたげではあるけれどそれ以上の言葉を発さずしばらく沈黙が続く。
ボクは思い切って付け加えることにした。
「それから……あちらのお母さんもその、能力者なのだって」
"能力者"という単語に、やはり父は反応した。さっきまでは新聞から目も上げなかったくせに、その時初めてボクを見、そして、ひときわ低い声で、そうか…とだけ呟いた。
「まぁ…どちみち、その…神谷君、だったか。明日来るんだろう?」
父の表情から、その心の内を読むことはかなわなかった。
しかし、名前も、明日来ることも、すでに承知か…!
母の根回しの良さに感謝しつつ、「ん」と頷いた。なんだか気恥ずかしくて、父の顔が良く見れない。
そして、なんとなく、だけれど。
父は明日、彼とボクと3人になりたいんじゃないかと思った。多少、居心地が悪かったとしても、それはいつか誰通もが通る道なのかもしれないし、やはり、あちらのお母さんと同様、能力者の先輩として、ボクらに言いたいこともあるんじゃないか、って思って。
「それでね、その足で一緒に夜行バスであっちへ帰ろうと思っちょるそ。やけぇ……荷物もあるし車で送ってってもらえん?」
にへへっと笑って父を見ると、「…まったく、しょうがないな」とでも言いたげに、父は大げさにため息をつく。
どうやら、ボクのこういうちゃっかりしたトコは、母さんに似ちゃったみたいだ。
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