「ただいまー」
玄関を開け、恭一を促す。
「はぁい。いらっしゃい」
母は台所から出来て、上り框に膝をついて出迎える。
母は誰に対しても、いつもこうなのだ。
「…はじめまして。お邪魔します。」
まさかここで出迎えられるとは思わなかったのだろう、いささか恭一は驚いたようだ。
しかしすぐに礼儀正しく挨拶をする。
「さぁ、そこは寒いでしょう、早く入ってね」
母はにこにことスリッパを手で指し示し、恭一を中へと招き入れる。
ボクと彼が居間へ足を踏み入れると同時に、
「いらっしゃーい!」
先立って彼が来ることを聞いていた弟妹は、元気よく彼を出迎えた。ここでクラッカーが鳴っていれば、さながらパーティの主役登場場面みたいだ。
しかし初対面の者に対するはにかみと、抑えきれない好奇心が表情からは滲み出ていて、姉として少々恥ずかしい。
「…こんにちは。はじめまして」
彼らの勢いに気圧されつつも、年長者の余裕で切り返す恭一。さすがである。
「ってか、ボクへおかえりはないんか?!」
「…あーおかえりー」
「出かけてたんだ?」
二人とも、身内に対しては、なんともおざなりである反抗期。
夕食前。
居間のソファに並んで腰掛けて、両親と向かい合った。
父はなんだか、目のやり場に困るようで、少し居心地が悪そうではある。
「…んと、今、お付き合いしてる神谷恭一くん……で。父と母で…あっちに居るのがおとうt……」
「いや、そこまでは今はえぇ」
さらりとツッコんだ父も何から話すか、しばし逡巡し。
「…まあ、真面目そうな人で安心したよ。」
父は湯呑に手を伸ばし、一口お茶を啜った。ボクは隣に座る恭一をちらりと見る。緊張しているはずなのに、いつもと変わらない表情。
「いずれにしても、トワヤは、決めたら親がどうのこうの言ったところで、頑として譲らんけどな」
父は半ば諦めたように言い、恭一が少し表情を崩す。
対照的に、ボクは異議あり、と言わんばかりに唇を尖がらせた。
「…ただ、まぁ……君らはまだ高校生だ。節度ある付き合いをするように」
その言葉に、恭一がすっと、ひときわ背筋を伸ばして。
「……はい。」
はっきりとした声で明確に返事をする。
ボクの頬に、さっと朱が差して思わず俯いた。
「よし!じゃあ、とりあえず飯にしようか。母さん」
賑々しい夕飯も終わり、ボクらは鎌倉へ帰るために、父の運転する車で家を出た。
「神谷君は能力者、だったね」
車が発進してほどなく、父はそう切り出した。
ボクはシートにもたれ、平静を装って窓の外を流れる景色を見ていた。
「……はい」
シートに投げ出していたボクの手に、ふわりと恭一は手を重ねつつ、静かに返事をする。
その手のぬくもりは、ボクをどこまでも安心させる。
「もう聞いているかもしれないけれど、家は私とトワヤがそうだ。」
父が何を言わんとしているのか、まったく予測できなくて。
重ねられた手の下で己の手を握りしめた。
「…くどいことを言うつもりはない、が……トワヤを頼んだよ」
その言葉に、恭一はボクが握りしめた手を包み込むようにして、ぎゅっと握る。
ボクは車窓から運転席の父へと視線を移す。
「……もちろんです。全力で護ります。」
恭一は、きっぱりと言い切った。
誰かに、大事にされ、護られる、ということ。
自分は庇護されるだけの弱い存在のつもりはない。
自分だって、誰かを大事にし、護る存在で在りたいと思っている。
けれどやはり、恭一から大事にされていると感じられるのは、正直言ってたまらなく嬉しい。
前を向いたままの父の表情は窺い知れない。
ボクは視線を、父から隣に座る恭一に移し、彼はそれに微かに笑って応えてくれた。
父はもう一度だけ
「…頼んだぞ」
つぶやくようにそれだけ言うと、それ以上何も言わなかった。
ボクらももう何も言わず、車内は控えめなラジオの音だけが流れていた。
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