ボクはその香りにつられて顔を上げ、きょろきょろとあたりを見回した。
5mほど先だろうか。民家の塀から、黄色い花をつけた枝が顔を覗かせているのを発見する。
「あれ、蝋梅かなぁ。良い匂いがする」
ボクは唐突にその花を指差して、隣の恭一に言った。
彼は「んー…どうだろう。良く判らないな」と呟いた。
ボクは「そっかー」と別段気にすることもなく、周囲を注意深く見渡す。
そうするとあちらこちらで、春の気配が訪れていることに気づいたのだ。
ユキヤナギも銀色のふさふさした毛を生やしているし、木蓮のつぼみも芽吹いている。
そういった春の使者たちは、ボクらが二人で共に過ごす季節がまたひとつ増えていくんだよって教えてくれているみたいで、ボクは嬉しくなった。
「確実に春が近づいてるんだねー」
ふふっと肩を揺らす。
「ああ、そうだね。今日は立春だからな」
恭一もふふっと笑って頷いた。
「あー、そうか。昨日節分だったもんねー…ん!?あっ!恵方巻き食いそびれたっ!」
海鮮ネタが贅沢に使われた巻寿司を狙ってたのに、ちょっとガッカリ。
「……まぁ、来年もあるさ」
恭一は苦笑しながら、ボクの頭をぽんぽんと撫でた。
「まぁねー…」
あ、そうだ!
「ね、ケーキ屋に寄ろう」
此処から一番近いケーキ屋はどこか。
ボクの(豊富とは言い切れないが)脳内データベースがぱぱぱっと検索を開始する。
これまた唐突な申し出に、しょうがないなぁ、と恭一は優しいため息をついた。
恵方巻きならぬ、恵方ロールを食って、今年はそれでいいということにしよう。
もちろん、ロール1本丸かぶりするわけじゃないけどな!
(あくまで雰囲気と気分が大事)
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