それでも(渡航初体験による)浮き足立ちもおさまって、落ち着きを取り戻しつつあり、周囲の風景を見る余裕もでてきた。
せっかく世界遺産にきたのだから、少しは見ておきたいし。
ヨーロッパ最古、原初の森というだけあって、どの樹木も幹が太く、空へまっすぐにぐんと伸びている。白に覆われた景色。森特有の空気はどこか神々しく、わたる風が針葉樹の木々の葉をざわつかせるたび、何が起きても不思議ではないような感覚に襲われる。
しかし、あの幹は太いなぁ…全周何メートルぐらいあるんだろう?
写メっておいて、皆に見せたいなぁ…
自分のケータイを取り出してためしに1枚。しかし、比較対象もなにもなく木の幹がどーんと写っているそれでは、面白みも凄さも、なにも感じられない。撮った本人がそう思うぐらいだ、日本でこれを見せられて、果たして誰に何が伝わるというのか?
ボクは諦めてケータイを閉じ、カバンの底に仕舞った。
小休憩。
ボクは、すでに腰を下ろして水を飲んでいた仲間の一人へと歩み寄った。
「…ちょっと、話しても平気?」
ボクの声に顔をあげたのは、同じ班の1コ上の先輩。
彼は、かまわないぜと笑って自分の横へ促してくれたので、ボクは遠慮なく腰をおろした。
この旅の間じゅう眠りが浅くなっていたボクはちょっと心が弱くなっているみたいな気がしていた。
他の人は、どうなのかな。
普段なら、あまりむやみに他人に相談事など持ちかけないのだけれど…
気になったボクは、思い切って(こっそりと)訊いてみることにしたんだ。
「ん~。そうだなぁ。そりゃ、俺だって考えることはあるけれど──」
先輩は空を見上げ、言葉を選びながら丁寧に答えてくれた。
「…そうかー」
ボクは彼の言に、コクコクと頷く。
なんだか、先輩とは考えていることが似ている気がする。
且つ先輩は、ボクの気持ちの、その半歩先を歩いているみたいだ。
あるいは、誰もが通る道。
だからボクは「それで良いんだ。大丈夫だよ」と背中を押されたような気持ちになって。
「そうだよな…」
それきり、ボクらは口を噤む。
視線の先の空。低く垂れ込めていた雲が途切れ、
幾筋もの金色の光の帯が、大地へ降り注ぐ。
再び、移動を開始する知らせの声が聞こえた。
「思い切って話してみて、良かった。どうもありがとう」
ボクは立ち上がって、へこりとお辞儀をする。
顔を再び上げたとき、ボクの表情からは、もう迷いは消えていたと思う。
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