そしてそれから。
ショルダーバッグを肩から掛けたまま、ボクは恭一のもとへ走った。
「──恭一!ただいま…!」
彼の目の前で急停止。息を弾ませながら彼の顔を見つめて、にっと笑う…つもりだった。
だけれど、長旅の疲れや心労。
彼の空色の瞳によって一瞬でそれらはほどかれ、瞳が潤む。
笑った顔のまま、涙がひとすじ。
ボクはぎゅっと目を閉じてから「えぃやっ!」とその腕の中に飛び込んだ。
"ちゃんと、己の足で歩いて帰ってきたなら、きつく抱き締めて、そしておかえりって、言って。"
それは、旅の途中でボクが恭一におねだりしたことだった。
クラスメイトの前ですら二人で一緒に居るところを見られるのが苦手なくらい恥ずかしがり屋のボクが、突然抱き着いてくるなど。
「…っとと。」
恭一は面食らい、それでもボクの身体に優しく腕を回して
「……早速か」と苦笑い。
「ダメか?」と抱き締められたまま見上げると、
「…だめ、だなんて言わないさ」と、ふわりと微笑み、
「………おかえり、トワヤ」
恭一はそっと、ボクの頭を撫でてくれた。
言いたいことが、たくさんある気がする。
けれど、言わなくていいことも、きっとたくさんあるのかもしれない。
心のなかで渦巻く言葉は、何ひとつ掴めなくて、するりと手をかわして逃げて行ってしまうから。
だから、代わりに。
「ね、恭一。もっかい、ぎゅーって。力いっぱいぎゅーって、して!」
今はただ、この最上の安らぎに包まれていたい。
── あぁ、本当に、ボクは帰ってきたんだね。
恭一の腕の中、ボクの在るべき場所へ。
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