着信音で家族からの電話だということは判ったので、ノートに視線を落としたままで電話に出る。
「はい、もしもし?」
── あー、もしもし、姉ちゃん?俺
「……」
── 姉ちゃん、聞こえちょるー?
通話終了ボタン、ポチっとな。
ボクは再び、ノートを写し取る作業に戻った。
再度ケータイがボクを呼ぶ。
── 姉ちゃん!酷くね?何で切るほ?!
ボクは勉強の手を休め、背伸びをしながら
「オレオレ詐欺かと思ったんやもん」
ボクはけたけたと笑う。
電話をかけてきたのは、弟だった。
可愛さ余ってなんとやら、ついついおちょくってしまう。
電話の向こうでは、彼が盛大なため息をついているのが聞こえた。
── ディスプレイに名前出るやろう?
「出るけど見てねぇし。"俺"じゃなくて名前言うのが常識やんか。で、何の用なん?」
彼は、ボクが銀誓館に編入してからもわりとまめに連絡をくれていたので、今回の電話もさほど珍しいことではない。
── あのさー実はさー…
ところが、普段より奥歯に物が詰まったような物言いをする。
「言いにくいことなら、また今度にしてくれん?これでもボク、忙しいんやけど」
まだ写しきれていないノートを一瞥し、シャーペンをカチカチとノックしては出てきた芯をぎゅっと押し込むことを繰り返した。
すると、彼は少し声を潜めて
── この前、俺、変なヤツに遭っちゃって。そんで俺もなんか変で。
変なヤツ?
手の動きが止まる。
「そりゃ、アンタが大概変なのは、知ってるケドさ」
ボクはくすくす笑った。
── なっ…ひでェな。いや、まぁでも、そういうんじゃなくて……
── ………
彼が遭遇した変なヤツと、彼に起こった変化のあらましを聞き、ボクの表情から笑みが消える。
そして、すぐに父さんにだけ話せ、と言い電話を切った。
ボクは大きくため息をつく。
ボクに一番に打ち明けてくれたことは、彼にとって不幸中の幸いだったと言えるだろう。
しかしまさか…
でも、ありえないことではない。
この能力が血に因るものなのかどうかボクは知らないけれど、実際、父からボクへと、能力は繋がったのだ。弟や妹にだって、その可能性がないとは言い切れない。
それにしても……
無事でいてくれて、よかった。
ボクは内心、ほっとする。
あとは、もう大丈夫だろう。きっと、父がうまくやってくれる。
アイツもこのガッコに来るのかなぁ…来るんだろうなぁ。
「……ああ、面倒くせぇな」
ボクは口の中で悪態をつく。反して口元は少し緩んでしまうのだけれど。
気を取り直してカフェオレを一口啜り、ボクは再び、目前のノートと向き合うのだった。
(背後より)
と言うわけで、弟が編入しました。
近々このブログも「渡月・トワヤの隠れ家」から「渡月家の秘密基地」に拡張工事がなされるかもしれません(?
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