posted by 渡月・トワヤ
at 16:33:22 │
EDIT
空はくすんだ青、いわゆる花曇り。
ハナミズキが咲き誇り、モッコウバラの香りが風に乗って届く午後。
図書館からの帰り道。
ボクは、散歩を兼ねてふらふらとそぞろ歩く。
さえぎるものなどなにもなく、思考はまとまっては、そしてすぐに風にはらりとほどけていく。
ぼんやりと、それでも思考に没頭していたボクは最初、まるで気づいていなかった。
さらさらと吹く風に乗り、
やさしくて、
どこかしら懐かしく感じる音が、この耳に届いていたことに。
風に溶け込んだそれはアンビエント。
散歩のワンシーンに流れるBGMのようだと思う。
だけれど、そんなものはドラマの中だけのことだ。
BGMなどあるわけがないのだけれど、
しかしそれは、花の香りをまとった風と共に、間違いなくボクの耳へと届いたのだ。
その音に誘われるまま足を向ければ、
音はいつしか声になり、歌となった。
そして行き着いた先には、濃い桃色の山桜がはらはらと散る、
見慣れない御屋敷が建っていて。
足を
踏み入れていいのか、躊躇う。
下手すりゃ不法侵入だものな。
それでも。
その歌声に、抗うことができなかった。
ざり、と砂を踏んだ音に
歌声はふと、途切れ
ボクは
小さく、あっ、と声を零す。
歌声の主は、ゆっくりとこちらへ向き、
そして、ふわりと笑んだ。
ボクは、歌の邪魔をしたことと
誘われるままにここまで来てしまったことに
少々の照れくささを感じながら
「散歩の途中で、道に迷ってしまったかな。
なんだか心地よい歌が聞こえてきたので──」
なんとなく、思ったままを口にする。
そうして、えへへ、と頭を掻いた。
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