昼ご飯を終えて、ボクは図書館へ向かった。
お気に入りの青い空が広がる蝙蝠傘を広げ、レインブーツを履いて。
民家の軒先にも、公園にも、至るところで紫陽花は咲いており、ともすれば灰色に染まってしまう街を彩ってくれる。その色彩は、雨上がりの虹にも、どこかしら似て。
雨のカーテンが周囲から音らしい音を奪う。
時折通り過ぎる車の、ザザーっと水たまりの水を跳ね上げるのや、屋根や地面に、また街路樹の葉に落ちる大小の雨だれ、傘に撥ねる雨音はパラパラと小気味よく、ボクの耳には、まるで雨の協奏曲が届いてくるみたいだ。
その静けさに、ぼんやりと思い出す、先日のこと。
そこまで深い意味などなかったのだと思う。
なんとなく交わしていた会話が途切れたその一瞬に、ふと「風が冷たくなってきたなぁ」なんて言うような調子で発せられた言葉。
その目に見えた事象を ──まぁ風は目に見えないけれども── そのまま受け止めて口にしただけのような言葉はまっすぐだったから、この胸に突き刺さるにはこれ以上ないほどで。
ボクは思わず眉根を寄せ、そして、その苦さを気取られないように、そっと顔を背けた。
今更、痛さを感じている自分にも戸惑ったけれど、その言葉が、本当に何の感慨も持たずに「ただ、それだけのことだよ」と(まぁ、相手からしてみたら本当にそれだけのことなんだろうけど)言っているみたいで。
「あぁ、やはり…そうなんだよなぁ…」と、目の前の霧を吹き飛ばされたように感じ、それによって今まで自分がずっと霧の中にいたのだということに気づいて驚いてしまった。
もう、とっくに振り払っていたと思っていたのに。
そしてその言葉は、言外に「ほら、もう前を向いてもだいじょうぶだろう?」とでも言うようだった。
まるで、強くて優しい手がボクの顎をくっと持ち上げてくれたかのように感じられた。
促されるように視線を上げれば、嘘みたいに眩しい光があふれていて、なにより暖かかった。
はっと気づくと、あまりにぼんやりと歩きすぎていたせいで、うっかり図書館を通り過ぎそうになっていた。
「おぉぉ」と慌てて引き返し、誰が見てるワケでもないのに、頭を掻いてエヘヘと笑って誤魔化しながらエントランスで傘をたたんだ。
本当に、もうこれで。
きっかけを与えてくれたあのひとに、
いつかちゃんと、ありがとうと言えたらいいなぁ。
きっと、ありがとうって言っても、頭の上に「?」を浮かべてきょとんとしてそうだけれど。
その表情を思い浮かべると、ボクは少しおかしく感じられて、くすくすと笑った。
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