いきなり名指しされテンパったボクは、もうすでに梅雨真っ只中であることを承知していながら、苦し紛れに
「な、なに言っちゃってんの!それ、ボクの所為じゃないよ。風薫る季節って言うじゃんか!」
と口走る。
実際にボクが何かしたという自覚はなく、そう言われて正直なところ面食らったし、なんだかわかんないけれど、ボクのおかげだなんて、そんな…
気付くと耳まで熱い。
「薫風は先月の時候の挨拶だぜ」
ふっと微笑って指摘することは尤もで、ボクは言い返す言葉を失ってしまった。
ちょっと悔しい。ちきしょう。ぐうの音も出ないとはこのことか。
重ねて言うが、ボクのおかげだなんてことは、ない。
一緒に行ったプールでは、ジェットウィンドも浄化サイクロンも吹かせていない。あえて言うなら今吹かせてるのは炎風、熱さこそ感じてもさわやかさとは程遠いと思うんだ。
うまく言葉にできなくて先輩を見つめても、当の本人は笑っててなんだか楽しそうだし、その笑顔を見てたら、何を言っても、意味がない…いや、敵いっこない気がしてきた。
まぁ、いいか。
ありがとう、と言ってくれてるのだし、ボクも どういたしまして と笑うことにする。
でも、変なの。
こんなに毎日雨が降り、たとえ雨が降っていなくても、絞ればポタポタと雫が垂れてきそうなほど空気は湿り気を帯びていて、さわやかさもへったくれもないのに。
相変わらず微笑んでボクを見つめる先輩を見つめ返し、ボクは傾げる。
……悪い気はしないから余計に、いったいどんな顔をしたらいいのか、判らなくなってちょっと困ってしまって変顔になる。
世の中には、わかんないことの方が多い。
一番近いはずの自分の心ですら、そうだもの。
考えたってしょうがないことは、いっそ考えないに限るって思い至り、今はちょっとややこしいことを考えないで、感じたままを受け止めようと決めた。
折りよくプールへ誘ってくれ、それをきっかけにするように何かにつけてボクを構ってくれる先輩のおかげで、ボクは楽しいと感じる日が増えた。
そう、笑って過ごす日々が多くなったと思う。
”幸せだから笑うのではない。笑えるから幸せなのだ。” という言葉を噛み締める日々。
だから、先輩には感謝してやまない。
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