どこでも大して変わらないし同じじゃないかと思う気持ちと、だけれどボクが彼ならば…という仮定のもとに導かれる答え、そして、まだ言ってはいけないような気がするボクの本音。それらがぐるぐる頭の中で回る。
何を答える?どう答えればいい?
迷いつつ。
結局、自分の心に正直になることにした。
けれど、こういう時にいったいどんなカオをしたらいいのかわからなくて、ボクは少々憮然としていたと思う。
彼はそんなボクを、笑みを湛えた目で見つめ「たまに可愛いこと言うよなー」などと言っている。
ボクはもう、恥ずかしさで目の前がチカチカしていたし、眩暈さえ覚える始末。
「うっさい、こっち見ンなー!」
穴があったら入りたいとはこのことだ。
しかし、入るべき穴も見つけられないボクは、仕方なく机に突っ伏した。
そうして、頭上から降ってきた彼の言葉が、ボクの心にトドメを刺す。
──図星。
恥ずかしさを殺し、自分なりに勇気を振り絞った答えだったのだ。
しかしそれを一笑に付されたようで、ボクは怒りとも哀しみともつかない気持ちになった。
──ひとりで逆上せて、莫迦みたいだ。
すぅっと、頭からも頬からも、血の気が引いていく。
ボクはおもむろに顔を上げると、
「…だったら、ボクになど聞かず好きなとこを選べばいいだろう?」
心はふつふつと煮えている。人の気持ちをおちょくるな。一瞥をくれた視線はそれとは反対に自覚できるほど冷たく冷えていく。
自分の気持ちに居た堪れなくなって、ボクは顔を逸らす。眉間にはしわが寄っていた。
こんなこと、今までにない。
ボクの頭の冷静な部分が、一番驚いている。
それは、今までのボクからは考えられないことだったからだ。
ボクは(腐れ縁の友達が言うには「判りやすい」らしいけれど)、誰かに対して怒りの感情を露わにすることなど、ついぞなかった。
口が悪く語彙も少ないボクは、悪気が無くてもすぐにズケズケと物を言ってしまいがちだ。もし怒りにまかせて口を開けば、それこそどれだけ人を傷つけるか分かったものではない。現に痛い目にも遭っている。良くいえば正直者だが、単なるコドモなのだという自覚。だからこそ、怒りは抑えなければいけない。子供の癇癪ほど、みっともないものはないってことぐらいは、もう理解ってる。
……でも、変だ。解っているのに。
どうしてこう、彼に対して、両手両足を投げ出すかのように、素直に感情を発露してしまうのだろうか。
今こうして、彼の前で怒りオーラを揺らめかせている自分は、ただ拗ねているだけのコドモじゃないか。
その事実がますます自分を惨めにさせ、ボクを俯かせる。
バン!!
突然の大きな音に身体をびくっと震わせ、音のした方を振り返る。
「フンッ。好きな女性に意見を求めて何が悪い!」
彼は(なんだか知らないけれど)胸を張る。
…はぁ?!何を…
「好っ…何ドサクサに紛れてしれっと言っちゃってんだ。つか夜中だろ、デカい音出すなよな!」
思いがけない言葉に、違う意味でボクの頭に血がまたのぼる。俯くことも忘れ、頬に朱が差した。
なんてボクは単純なのだろうか。
たった一言、たった一言なのだ。
ただそれだけで、身の内にふつふつと膨れていた嫌な感情は急速にしおれていった。
「だから……」
彼はもう一度、小声でボクに囁いた。
「…アレ、違うか?」
そうして、きょとんとした表情でとぼけてみせる。
拗ねていた自分がとたんに情けなくなる。と同時に、そんなボクに気づかないフリを、ともすれば抱えこんでいた嫌な気持ちを吹き飛ばすかのようにしてくれた彼の優しさと包容力に気づく。
いつだって、あの時だってそうだった。
それが、意識してのことかそうでないかは、ボクが彼じゃないから判らないけれど、彼はいつもそうやってボクにたまらない安心感を与えてくれているんだ。
ボクが素直になってしまう理由は、おそらくそれだ。
「…違う、いや違わないけど…いや違ってほしくないというか、そうじゃなくて、なんていうか……。えぇと、あれ。なんの話をしてたのだっけ?」
なんだかどうでもよくなって、頬を手でこすりバツが悪そうに苦笑いするボクの頭をなでながら、
「トワヤが素直じゃないって話」
彼は無遠慮に言ってのける。顔には優しい笑みを浮かべたまま。
ボクは悔しかった。
彼のてのひらで良いように転がされているみたいだったから。
しかしそれが、頭に載せられた大きな手と共に、一向に悪い気がしないから、正直困っている。
ボクはふっと息を吐いて、肩の力を抜いた。
あなたには、敵いっこないってことか…
ボクはおとなしく頭をなでられながら
「ボクはいつだって、素直だと思うけどね?」
そうは言っても結局、やっぱりちょっと憮然としてしまうのだった。
もういい。
こうなったら、あなたの前でだけは、子供のままでいよう。
たくさんたくさん、笑って泣いて、たとえプリプリ怒っても、またこうして笑えるように。
あなたには、素直なボクを見ていてほしいから。
PR