posted by 渡月・トワヤ
at 22:07:06 │
EDIT
近づいている台風の影響か、空には雲が立ち込める。
吹き抜ける風には時折小さな雨粒が混じり、おかげで少しだけ涼しい夜。
ボクは屋上に上がった。
手には、アイスティの入ったグラス二つ。
話したいことがあった。
彼だけに、聞いてほしいことがあった。
でもこんな話。
談話室では憚られ、かといって、彼の部屋に立ち入るのもこちらの部屋に呼ぶのも気が引けてしまい、ボクは彼を屋上に呼んだ。
こんな天気の日にあえて屋上に来る物好きは(ボク以外)居ないだろう、と踏んだのもある。
ある程度の話し声は、風がかき消してくれるだろうとも思って。
グラスをひとつ手渡せば
「ハードなシチュエーションだな」
鬣のような髪の毛を靡かせて、彼は笑った。
「雨が降ってないから、まだ余裕だろ」
自身の頬にかかる髪の毛を払いのけながら、ボクも笑う。
グラスを揺らせば溶けかかった氷が、カラカラン、と涼しげな音を立てる。
いつの間にかグラスには、びっしりと水滴がついていて。
自分の心のうちにあることを、誰かに話すことになろうとは思っていなかったから、ぎこちない話し方だったけれど。
薄くなってく紅茶で喉を潤しながらぽつりぽつりと話すことを、余すことなく受け止めてくれて嬉しかった。
風が一段と強く吹きはじめる。
「そろそろ、戻ろうか?」
自然に繋いでくれた手。
ボクもごく当たり前に握り返した。
「……」
耳元で小さくささやいてくれた言葉は嬉しくて。
風に持って行かれてしまわないよう、すぐに胸に仕舞うとボクは笑って頷いた。
ありがとう。
今、わかったことがあるよ。
ボクが気にしていることは、なんと小さなことだったのだろうかって。
もっと大事なことがあるんだね。
それを忘れてしまわないように。
あなたとならば、ボクはきっとずっと、こうして本当の笑顔でいられる。
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