自室で勉強をしていた。
時間が空いていた先輩が勉強をみてくれることになったからというのもあり、普段より真面目な面持ち(当社比1.5倍)でテキストに向かっていたボク。
ふー。
一つ長文問題を解き終わり、ボクは顔を上げた。
「真剣で、可愛い表情だったなぁ」
いつだったか彼は、ボクと一緒で自分が良いと思うことはすぐに口にしてしまう性質だって言っていた。
だから今回も、なんの気負いもなく、思ったままを口にしたんだろう…だろうけど!
「か、かか、かわ…!?」
飲んでたカフェオレを吹きそうになり、唐突すぎて、ボクは赤面。
「あれ?顔が赤いぞ。夏風邪でもひいたのか?熱を計ろうか?」
そういうことじゃないんだけど!?
わざとボケたことを言ってるのか、本気なのか、区別もつかない。
かわいいと言われたことは嬉しいんだけど、そういう時の嬉しさって、ボクは照れくさくてまっすぐに表情に出てこない。「嬉しい、ありがとう」と素直に言えたらどんなにいいだろう。どうしてボクは、こういうときだけ、素直になれないんだろう。
自分に対する納得ができなくて説明などできるワケもない。
ボクは早い段階で抵抗するのを諦めた。
「んー。風邪はひいてないけれど、一応念のために計ってみるよ。心配してくれてありがと」
体温計はどこだっけな。
「ちょっと体温計を──」
探してくるよ。そう言おうとして顔を上げた、その刹那。
ボクの前髪を払いあげ抑えた大きな手。
とつ、と額に硬くも柔らかくもないものがやさしく当たる感触。
ボクの視界いっぱいに影がかかり、ピントがズレて視界がボヤける。
ふ、と息がかかるほど近く、彼の顔。
「──ん。確かに熱はないようだな」
少し顔を離すと、彼は苦笑いした。
あまりに唐突すぎて、何が起きたか理解するまでの数秒間、ボクは固まってしまっていた。
「…な……な、ななななななにするんだ、急にッ!」
驚いて自分の額に手を当て、ボクは椅子に座ったまま上半身だけで後退った。
心臓は今までにないほど鼓動を速くし、ぎゅっとわしづかみにされたように胸が締め付けられる。
「何って…熱を計ったんだけど?」
小首を傾げ、きょとんとしながら彼。どうしてボクがこんなに動揺するのか、わからないんだろうか?
エアコンは効いているはずなのに、体中がかーっと熱を持つ。
離れたとはいえ、この距離で彼と見つめ合ったままいては、複雑な甘い切なさと熱に浮かされてボクは卒倒してしまいそうだ。
「…そんなことしたら、平熱じゃいられなくなるっつーの」
ボクは言い捨てるようにつぶやいて彼から目を逸らし、俯いた。
鼓動は落ち着く気配をいまだ見せない。
「……うん。俺も」
小さく聞こえた声に、ちらりと視線だけを寄越した。
彼は少しだけ視線を伏せて顔を上気させている。心なしか汗まで噴き出しているみたい。
ボクはボクで、胸はまだきゅんきゅんしているまま。
気の利いたことをひとつも言えず、押し黙ってしまう。
沈黙が気まずくて、ボクは問題集を開いたけれど、目を通す問題は、思考を上滑りしていくだけ。
むずかしい、むずかしい。
ねぇ、ボクらって、いったいなんなんだろう?
その問いの方が、この問題集のどの問題よりむずかしい気がしちまうよ。
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