ボクは今、駅前のファストフード店に居る。
参考書を広げ、仕事を終えて帰ってくる彼を待っているのは、先日の一件で
「今度から晴れた日は、寮まで一緒に帰ってあげるからな」
と彼が申し出てくれたからに他ならない。
彼がそう言ったときボクは、
彼が仕事を終えるのは陽が落ちるころ、その時間ならばもう暑さで朦朧とすることもないんじゃないか?と思った。
それになんだか妙に彼が(堪えてるんだろうけど)ニヤニヤしているのもちょっと悔しくて。
でも、明らかにボクへ寄越してくれる視線には愛情が満ちているように感じられたし、そも、一緒に帰るという提案だって、ボクを大切に想ってくれているからなんだろうなっていうのも理解る。
……だから、内心嬉しかったりもしたけれど、それ以上に気恥ずかしくてボクは素直になれず、「う゛ー」と唸って彼を一瞥した。
乙女心は難しいのだ!(開き直り)
結局、彼の申し出をありがとう、と受け入れることにした決定打は、
「手を繋いで」
って言葉だったりする。うーん、弱いなぁ。自分。
そういえば、こうして、誰かとちゃんと待ち合わせるのは、初めての経験かもしれない。
特に、好きな人を待つなんて・・・。
そう思うと、ちょっと照れくさくて、ますます落ち着かない。
何度となく時計を見たり、参考書をパラパラめくったり、手帳を広げてペンでぐるぐる意味不明な線を描いて、また閉じて。
顔を上げてきょろきょろしたり、コーヒーをちびちび啜ってみたり、とだいぶ挙動不審になりながら、彼に逢えるそのときをそわそわと、待った。
薄く紫がかった藍色の空。
頬を撫でる、生暖かい風。
しっかりと繋がれた手。
どちらからともなくゆっくりした歩調になって、いつもの道。
そのすべてが、ボクを安心感で満たしていく。
今日あったこと。
もうすぐ夏休みが終わること、その先に待っている前期末考査。
そんな他愛のない話をし、なんとなくえへへと笑うボクに、彼は「やれやれ」とでも言わんばかり。
大げさに肩を落としながら、ふぅ とため息をつき
「えへへじゃないだろ」と言う。
…怒られちゃった。
ちょっとしょんぼりして、しおらしく「うん」と項垂れる。
でも。
こうして握ってくれている手は、大きくて温かく、そして際限なくやさしいまま。
「でも!こうして手ェ繋いで帰れるのが、嬉しいんだもん!」
素直にこういうことを言うのってやっぱり照れちゃうけれど、思わず口を突いて出たのは、伝えたかったから。
彼は、ボクの言葉に少し目を瞠り、それからぷぃと前を向いて
「・・・早く帰って夕ご飯を食べようぜ」
そう言い、ボクを半ば引っ張るように歩き出す。
でも、ぎゅっと握りなおしてくれた手が、彼の気持ちをちゃんと伝えてくれているように感じられて、胸の中がじんわりと暖かくなる。
「そだね。早く帰ろうー!」
欠けはじめたばかりの月はまだ明るく、柔らかい光に照らされて並んだ足元の長い影に目を落とす。
もう少しこのままふたりで居たくって、彼に引っ張られつつもボクは足を速めることをしなかった。
きっとお月さまにはお見通し。
でも月は何も言わずにボクらをやさしく照らしてる。しあわせの帰り道。
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