温い風が吹く屋上。
勉強の息抜きで少し夜風に当たりたいから付き合って。
そう言って、彼を屋上へ誘った。
うーんと身体全部を空に伸ばすと、固まっていた背骨がほぐれるみたい。
心ゆくまで伸びあがるとボクは、手すりまでタタタっと駆けた。
今日は月がのぼる時間も遅いから、
「晴れていれば星見には最適だったんだけどなぁ」
残念。
ボクは手すりを掴んだまま身体を前後に軽く揺らして苦笑いした。
「星を見る機会なら、これからきっと、いくらでもあるさ」
声の方に視線を移す。
ゆったりとボクの後ろから歩いてきて、隣に寄り添ってくれるひと。
闇に浮かぶその輪郭でさえ、愛しく想う。
「うん。それもそうだね」
ボクは晩夏の風の匂いを、胸いっぱいに吸い込んだ。
「さぁ、気分転換が済んだのなら、戻ろうぜ」
少しの間風に吹かれて後、ボクの頭にぽんと手を置いて、彼は言う。
手のひらの重みひとつ。それすらも、ボクにとっては幸福そのもの。
いただいた科白がすごぉーーくありがたぁーーーいことも、理解はしているけれどね。
ボクは現実に引き戻されたガッカリ感とともに大げさに溜息をつくと「はぁい」と気の抜けきった返事をした。
でも、逃げたって良いことなんかひとつもない。
無理やりでもいい。
前向きに考えてりゃなんとかなるし、なんとかできるものだってボクは信じてるから。
ボクは繋がれた手に引かれるまま屋上を後にする。
部屋に戻る前に食堂に寄って、コーヒーを作ってくことにした。
胃が悪くならないように、牛乳多めのカフェオレに。
その間、テーブルに頬杖をついて、彼はボクの所作を眺めていた。
「…そんなに見なくていいって!きっと何かが減っちまうから!」
見ても減るもんじゃなし、に対抗してみる。
でも、何が減るか、とは訊かないのが、お約束。(訊かれてもきっとスルーするけどな)
「うんうん」
判ってんだか判ってないんだか。
気前よく頷いているのに、相変わらず穏やかに微笑んでこっちを見てる。
その表情はすごく幸せそうで、だからボクはやっぱり嬉しく思うんだけれど、
「…だぁ、もう!」
赤くなった顔を見られるのもなんだか癪で、ボクは深く俯いて、使ったドリッパーやらスプーンやらを男前にガシガシ洗って片づける。
彼はそんなボクを見て、くすくすと笑っていた。
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