台風の影響で、ちょっとだけ風が強い雨の日。
別に飛ばされちゃうほどの風でもないとは思ったんだけど、
彼が「一緒に帰ろうぜ」と言ってくれたから、駅で待ち合わせた。
彼からのお誘いは、いつでも心が浮き立つのだ。
並んで歩くと傘を傾げても横に広がっちゃって他の人に迷惑がかかってしまう。
うーん。
ボクは(ちょっと恥ずかしかったけど思い切った)自分の傘をたたんでしまうと
「えい!」と彼の傘に飛び込み、腕にくっついた。
彼はちょっとだけ驚いたように目を瞠り、それから穏やかでやさしい微笑みをくれるのだ。
その笑顔はボクを心から寛がせる。
ボクは胸の内がくすぐったくて「えへへ」と笑った。
それで嬉しくなったボクは、先ほどの即興の鼻歌を歌ったというワケだ。
「それ、何の歌なんだ?」
雨に濡れないように、ボクの肩を抱き寄せながら彼は問う。
「…さぁ?」
ボクはにこっと笑って首をかしげた。
えっ?と軽く驚きながら「なんだそれ」と愉快そうな顔をする彼に
「今なんとなく歌っただけだからさ。二度と同じ歌は歌えないよ」
そうしてボクは、歌詞の意味をこっそりと彼にだけ打ち明けるのだ。
──今振り返れば。
あの春の出来事から始まったのは、自然の営み。
あの出来事は、いわば種蒔きだったのではないだろうか。
蒔かれた種は、土の中で眠りに落ち、
季節は流れ、梅雨の豊かな雨で潤され芽吹いた若葉。
それは夏のまばゆい光を受けてぐんぐん育ち、いつしかとても美しい花を咲かせたんだ。
きっともうすぐ訪れる秋には豊かな実が生るんだろう。
そしてその実は、また新たな花へと繋がっていく。
その自然の流れのなかで辿り着いた、今ボクがいるここはだから、ボクが居て然るべき場所なんだって思う。だって、ボクがこんなにも素直でいられる場所なんて、他の何処を探しても見つかりっこない。
ボクは花のように。
花が風に揺れるように、あるがままを受け止めよう。
ハチミツ色の陽の光をいっぱいにあびて、
あたたかな大地がしっかりと支え、育んでくれるよう。
だからボクはいつも、花のように笑っていられると思うんだ。
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