ボクらはいつものように手を繋いで、寮までの道を歩く。
沈む陽とともに気温はぐっと下がり、風は冷たくなる。自然、ボクらはどちらからともなく寄り添いあい、足元の蒼い影はひとつになった。
空には、星がちらちらとまたたきはじめる。
「…まぁ、メリハリつけて勉強頑張れよ」
秋になり、ボクが物思いに耽ることが増えるのを見透かしたように彼は言った。
「ん。勉強は、頑張ってるよ?」
知らず知らずに、ボクは少し唇をとがらせていた。
もともと勉強することは嫌いではない。
昨日まで解らなかった問題が今日はなぜかするりと解けたりすると軽く達成感も味わえるし、授業でとったノートを、自分で整理しながらカラーペンなどを使って清書する習慣はぶっちゃけ楽しくさえある。
長続きのコツは楽しむことだって、何かの本にも書いてあったしな。
けれど、走り続けてれば疲れるときだってあるのだ。
彼から「勉強がんばれ」と言われたときのボクの反応は、そのときのコンディションで二つに分かれる。
「うん、頑張るよ」とにっこり笑って頷ける日と、
「解ってるってば」と今日のように、反抗期よろしく唇をとがらせる日と。
ん、待てよ?
ボクは、いつの間にか自分が(自制はしつつも)他の誰にも見せない素直さで彼に接していたことに気づいてはっとする。
そして、こんな風に素直になれるのは、間違いなく彼のおかげだとも思っている。
いつだって、彼は言動一致だった。付き合う前から正面きって、どんなボクでも受け止めると言い、事実そうしてきてくれた。いろいろなことで臆病だったボクも、彼の包容力に直面しその大きさに幾度となく助けられて、彼にだけは心を許せるようになったんだと思う。
そうしたことのひとつひとつが、ボクらが目指す「ふたりのかたち」に近づいている証。ボクは心がほわっとぬくもるのを感じた。
さてしかし、今のボクは「頑張っているよ」と言いながら、不機嫌な顔をしている。
それは、受験勉強を頑張らないといけないことも、今が一番の頑張りどころだということもちゃんと自覚していながら、自分がどれだけ頑張っていると思っていても、所詮は自己満足の域を出ず、他に比べたらちっとも足りていないのではないかといった、不安と焦りとを毎日感じて足掻いていたからだった。
痛いトコを突かれると、人間、不機嫌になるとは良く言ったものだ。
気づけばボクは、ぶすーっとほおをふくらませ眉根を寄せていた。
彼はボクが拗ねようが何をしようがまったく動じず、空いたほうの手でボクの頭をぽむぽむと撫でて、やさしく微笑ってみせる。
こういうときの彼の飄々とした態度は、解っているうえですっとぼけているのか、解っていないのか、一見ハッキリしないのだ。以前のボクは、彼のそうした反応は、それ以上の深入りを拒否しているように感じられて、悲しくなっていたものだ。
けれど今は、悲しくなったりなどしない。
彼がそうしているのは、一線を画すどころか、彼がボクに寄り添い支えてくれているからに他ならないと気づいたからだ。
二人で過ごしてきた時間はまだまだ短いものだけれど、振り返れば二人で少しずつ集めてきたたからもので埋めつくされ、きらきらと輝いている。
今回も多分にもれず。
「勉強頑張れ」という彼のコトバとは裏腹に「ホラ、肩の力を抜いていけよ」と、頭をなでてくれた彼の手が伝えてくれている。
言われるまで気づいていなかった、力みすぎで強張っていた肩が彼によってすとんと落とされた感じだ。
ボクは、彼を見上げる。
「本当にありがとう。もうひと踏ん張りだから、頑張るね」
そうしてボクは、にっこり笑った。
ボクのひょっとこ顔、
今日はこれにて、おしまい。
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