今日、ボクは学校帰りに図書館に行き、閉館ぎりぎりまで自習していた。その後ふと思い立ち書店に足を伸ばしていたせいで、こんな時間になってしまった。街灯が足元に長い影を落とす。どこかの家からは夕餉の香り。
寮の近辺は閑静で、すれ違う人もほとんどない。1年前に住んでいた場所とはかなり違うけれど、今は入寮して本当に良かったと思っている。
友達が増えたことも嬉しかったし、(もちろん、彼に出逢えたことが一番の僥倖だ)それ以上にいざ受験生になってみると、それまでの「普通」がそうではなくなっていることに気づいたのだ。
静かな環境は(優等生的に言えば)勉強するには集中できるうってつけの場所だ。そしてなにより、一人暮らしのときは当然、自分のことは自分で面倒を見ないといけなかったのだもの。風邪ですら、うかうかとひいていられない。
ラクな方へ逃げることは簡単だけれど、家訓が染みついちまってるボクにはコンビニ飯とか魅力を感じないワケで、そうなると自炊にかける時間って、結構大事。
そんなことをぼんやりと考えるとはなしに考えながら歩いていたとき。
「……とわ~」
ボクの名を呼ぶ声にはっと顔を上げ、振り返る。ここでそんな風にボクを呼んでくれる相手は一人しかいない。
ボクの胸はきゅっと掴まれたようにとくんと跳ね、表情がふわりと緩んだ。
「今帰りか?」
ボクに追いついた彼にそう尋ねられ、ボクは「うん」と頷く。自然につながれる指先。ボクらは並んで歩き出した。
「元気、出たみたいだな」
彼が嬉しそうに笑んで言う。
「うん、充電完了!だいちのおかげだよ」
ボクは、何度言っても足りない「ありがとう」の言葉の代わりに、彼ににっこり笑ってそう答えた。
「そうか、それなら良かった。じゃあこれからは、またしっかり受験勉強だな」
ボクらの間で半ば挨拶と化した単語。この一年のキーワード。
うん。
そうくると思ったよ。
ボクはふふん、と勝ち誇って笑い、
「今日はもう図書館でも勉強してきたんだぜぃ」
つながれていない方の手で、ピースサインをして見せる。
彼は「へぇ」と少し感心したように片方の眉を心持ち上げてボクを見下ろすと、
「ああ、それでこんな時間に一人で歩いてたんだな?」
そう言ってボクの頭をその大きな手で撫でてくれた。
「腹、減ったなぁ。早く帰ろうぜ」
「うん、そうだな。ボクもお腹すいた~」
つなぐ指を握りなおす。互いが同じだけのちからをこめて。
こういうとき。
ボクらをつないでいるのは、この指先だけじゃないって、
ボクは強く感じるんだ。
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