シルクロードを中心に東へと進路を取っていた作戦「ジハード」は、カンボジアで危機に直面していた。その報せを受けた銀誓館は精鋭部隊を結成し、現地へと向かわせる手はずを整えている。
当然、寮でもその話題でもちきりだった。
皆との雑談の中で、彼もその作戦のひとつに参加するのだと話しているのを耳にしたボクは、今年初めの自身のポーランド遠征、それからボクらが付き合いだしたばかりのころに起こった出来事とをかわるがわる思い出していた。
なんとなく複雑な気持ちになりつつも談笑する皆にまぎれるように笑っていたボクだけれど、思っていることが顔にすぐ出てしまうところはどうしようもないみたいだ。
ちらりと彼がボクに視線をよこし、ボクらは目が合った。
彼が淹れてくれた紅茶の入ったマグを手に、ボクらは並んで彼のベッドに腰掛ける。
手を温めるようにカップを両手で包んで持ち、立ち上る湯気にふぅと息を吹きかけた。ボクは猫舌だから。
「まぁ、だいちなら完膚なきまでにぶっ潰してくるんだろうけど…」
彼のほうを見ずに、ボクはカップの中に視線を落としたまま、
「無茶だけはしないでな。その……頑張ってきて。応援、してるからさ」
カップの中の紅茶に映っていたのは、ちょっとぎこちなく笑うボクの顔だった。
こんな顔してたら、何を考えてるのかなんて、だいちにはすぐにバレてしまうんだろうな。
そんなことを考えていて、ボクは視線を上げられなかった。
「あー……」
ため息のような一言をこぼした彼は紅茶を一口啜ると、
「また心配をかけてしまうけど、できるだけその心配が小さく済むように頑張ってくるよ」
ゆったりと微笑み、カップを持っていないほうの手で、ボクの頭をくしゃっと撫でた。
──なぁんだ。
顔を見られてなくても、バレバレってことか。
核心に触れていなくても見透かされちゃうのは、隠した意味がないってことで、ちょっと恥ずかしかったり悔しかったりもするけれど。
彼の吐き出したため息と少しの間。
それが教えてくれるのは、彼がボクとおんなじようにあの時の出来事を考えているのだろうということ。
こういうとき、ボクらは言葉以上の何かでちゃぁんとつながっているんだなって、実感する。そしてそれが、ボクは単純に嬉しい。
「うん、ありがと」
同じことを思っていても、彼はいつだってボクの半歩先を行って振り返り、ボクに手を差し伸べる。
ボクの心が竦んで立ち止まってしまわないように、その力強くて優しい手をボクの心に添えてくれるみたいに。
そこまで思い至ると、ああやっぱり彼には敵わないなぁなんて思ってしまう。それはボクにとっては決して悪い感情ではないから、半分だけニヤついて、そして半分困ったような変な表情になってしまうのだった。
彼はそんなボクを見てくつくつと笑っている。
そうだね。きっと大丈夫だ。
「だいちが帰ってくるまで、たくさん本を読んで、美味い飯食って待ってることにするよ!」
ボクはにっこりと笑って彼を見つめて言った。
彼が帰ってきたとき、「おかえり!」って笑って出迎えられるように、美味い飯をたくさん食って元気でいなくちゃ。
「おぅ。美味い飯は俺も食うぞ!」
彼も笑った。あぁ、ボクの大好きなだいちの笑顔!
そうだね、一緒に食べよう。
美味いご飯を一緒に食べたら、もっと美味くなるに決まってる。
それは、ボクが保証するから。
だからこれからも、ボクはあなたと一緒にご飯を食べたいなぁって、思うんだ。
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