まぁ、受験生の身で予定がどうのと言うのがそもそもの間違いだと言われると身も蓋もないのだけれど。
「やっぱりね、メリハリって大事だと思うわけよ!」
声を大にしつつも、入っていない予定についてはどうしようもないし、いまさら何か、たとえば図書館に行くというのもあんまりなので、ボクは諦めて自室で机に向かい、問題集を解いている。
大きなマグカップには湯気を立てているカフェオレがたっぷりと。
くゆらせる香の煙は時折ゆらりと揺れ、柑橘の香りを部屋に漂わせている。
ふと、視線を床に落としたボクは、あぁ、と独りごちる。
夏には思いもしなかったこと。
冬は夕暮れが早くって学校から帰ってくるころには部屋はもう真っ暗だけれど、こんな午後には太陽の光は長く、部屋の奥まで届くのだということさえ忘れていた。
ぽてりと床に座っているはちみつ色の陽だまりに目をこらすと、淡い虹がその周辺にいくつも散っていることに気づく。窓辺に吊るしたサンキャッチャーが投げてよこす光が、キラリとボクの目を射た。
夏にはパキッとした虹を作ったサンキャッチャー。
対して、今そこから生まれるのはあまりにも淡すぎて、ともすれば見落としてしまいそうな虹。
だけど、だからこそボクは、この季節のお陽様こそがサンキャッチャーには相応しいんじゃないかなぁと思えた。
すぐには気づけないほどの儚さだからこそ。
床に落ちていた丸い虹の粒を見つけたときボクは、空に架かる虹を見つけたときとおんなじように、こころがほわっとした幸福に包まれた感覚を覚えたから。
夕食まではまだまだあるけれど、今日予定していた勉強の分をそれまでには済ませると決める。『間違わないようゆっくりと確実に』をモットーに。
よし、集中、集中。
少し冷めたカフェオレを一口すするとボクは再び机に向き直り、問題をひとつずつクリアしていく。その分だけゴールに近づいているんだって確信できるから、もう少しだけ、ボクはがんばれるよ。
いつの間にか燃え尽きた香。
けれど、部屋にはすっきりとした柑橘の香りがうっすらと漂い続けた。
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