真剣な顔を可愛いと言われ照れて顔が赤くなってしまったボクに、熱があるんじゃないかと心配した彼は突然、額同士をつけて熱を計った。息がかかってしまうほどの至近距離。
たとえばボクがその行為をするならば、おそらくはとても近しい相手──直接的な言い方をすれば恋人相手など──でないとしようとは思わないだろう。
今、そうしてきた相手は、まさに自分の想い人。
驚いたが、嬉しくないわけはない。
けれど。
彼にとって自分が、そういう風な扱いをしてもらえるだけの価値がある存在だと考えられないのもまた本当だった。彼を想う自分の気持ちには絶対の自信がある反面、自分がそんなふうに人から想われる存在であるという自信は未だに持てないでいる。
彼が見せてくれる好意的な態度や行為を素直に喜んでいいのか。
信じた相手からのしっぺ返しの強烈さと心の傷。
その傷を癒すための時間が、ボクには本当はまだ必要だ。
信じていい、と彼は言った。
出逢った当初から比べれば、彼の人となりはそれなりに理解はしているつもりでいるけれど、さりとて本当に信じきっていいのか、と自問自答を繰り返すボクがいる。
果たして、彼の真意はどこにあるのか。
ボクらの心は、ちゃんと近づいているの?
知りたい。
すごく知りたい。
けれど、
踏み込めば今の関係は壊れてしまうかもしれない。
ならば……、
傍に居させてもらえる、今のままの曖昧な関係で良い。
欲しがるから傷つくのだ。
何も。
何も求めなければいい。
そう、ボクが勝手に好きになり、勝手に不安になっているだけなんだから──。
ほら、現に彼は「それがどうした」と言わんばかりきょとんとしているじゃないか。
その表情に、すとんと迷いが落ちる。
先に好きになったのは、ボク。
彼がボクのことをどの程度で思っているのかはわからないし、それはボクの力ではどうしようもできないことなのだ。
ボクは唇を引き結び、問題集に再度目を落とす。
せめて、問題集を解いているフリでもしていないと不安が頭をもたげてきて、彼に詰め寄ってしまいそうだった。それは、八つ当たりにも近く、みっともないことだと、思った。
ようやく1問解けたころだろうか。
彼が自分の顔をしきりに団扇で扇ぎだした。
エアコンの設定温度は触っていない。不思議に思ったボクはちらりと視線を彼へと寄越す。
なんだか妙に顔が赤いし汗まで滲んできている。
「顔、赤いぞ。夏風邪か?」
ボクは少し笑った。
さっきの不安など冗談にして笑い飛ばしてしまえばいいと思ったのだ。けれど、
「…いや。間近でトワヤを見ているからだと思う」
彼のその一言でボクの"一笑に付す作戦"はあっさりと失敗に終わった。
でもそんな間近で見る羽目になったのは彼がそうしたからだ。いったいどういうつもりなのだろうか。
ボクが彼のことを「好きだ」と言ってしまったあの日、彼もボクのことを好きだと確かに言ってくれた。けれどボクらは未だ恋人同士ではない。その事実は、彼があの日言ってくれた言葉がボクに対する同情心から出ただけなのではないかという疑念を後押しするばかり。
「…それは、自業自得って言うんじゃないのか」
自分が作り上げた不安に耐えられなくてボクは無理に笑った。どうにかして空気を軽くしたかったのだ。けれどこういう時、ボクは決まって下手ばかり打ってしまう。
短いやり取りの後、彼は窓の外に目を遣り、
「…雨が、上がったな」
小さい声でそう言うと、俯いたままのボクの頭に掌をぽんと載せ部屋から出て行った。
「白銀寮・星空の屋上~長い一日/後編~に続く」
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