フェンリルと聞くとボクは去年の2月に行った、ヴャウォヴィエジャの森のことを自動的に思い出してしまう。
──なにか…
……ボクは頭を振って、その思考を頭から締め出した。終わったことは終わったこと。前を見据えて歩いていこう。
一足先に彼は神戸へと向かった。
「みんなの活路を開いてくるぜ」
なんてことを笑いながら言って。
相変わらずカッコイイけれど、心配してないと言えばうそになる。
JCして日が浅い彼は今、少しだけツイてない。なのに彼は自分の身を呈することを厭わないから。
出来ることなら今すぐ、傍に行きたい。共に闘いたい。
けれどボクは、ボクが決めたやるべきことをやってからじゃないと神戸へは向かえないから。
悶々とする心は、握り飯をじゃんじゃん拵える情熱に昇華する!
梅、おかか、昆布、鮭。
ちゃんとした塩を使った塩むすびも、いくつか。
「おにぎりは愛情で握るの。だから美味しいのよ」って、母も言ってたし。
寮の仲間たちの顔を一人一人思い浮かべながら、米粒をつぶさないほどの力で、きゅっきゅっきゅっ。
しかし数多く作っていると、だんだん飽きてくるので、変わり種も用意することにした。まぁ、ちょっとした遊び心だ。
天ぷらを今から揚げるのはちょいと面倒だしそも冷蔵庫にはエビがなかったので天むすは諦めて、豚の細切れを使った生姜焼きを作って、具にした。
粒山椒がピリっと効いたちりめんも、渋いチョイスだけれど結構美味くてボクは好きだ。
よし、時間だ。
ボクは大皿に握り飯を山ほど盛り付けてラップをかけると、神戸へと向かった。
結果は、ひとまず完全勝利。
逃げたブリュンヒルデの行方や目的は気になるところではあるけれど、欲張らず、ひとつひとつを確実に。
寮に戻ると、先輩が握り飯の山を見つめ、食べたそうにしている。
「たくさん作ったのだし、たぁんとお食べー♪」
ボクは握り飯をふるまいはじめる。
先輩が一つ手に取ると、横からほかの先輩も「豚の生姜焼きのが美味そう!」と手を伸ばしてくれた。ボクは胸がふっと熱くなる。
皆がこうしてまた、ここに集えたことももちろん嬉しかった。
けれどボクは、それよりもっと。
誰かにこうして自分の作ったものを食べてもらうことが本当に好きなんだって思い知る。
美味い飯は元気の素。
それは、決して自分が食べる飯に限ったことじゃないんだなぁ。
自分が作った飯が誰かの笑顔に変わることでもまた、ボクは元気になれるんだ。
だって、美味しいカオって、すっごく幸せそうなカオだもの。
それをボクの作る飯が手助けしているのなら、こんなに満たされることってないよ。
ボクはもう一度、心の中で自分の将来の夢を確認する。
胸にあふれる喜び。
やっぱり、それが天職なのだろうと思う。
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