「朝日に誓う」
てのひらにぽってりとした小さな貝殻が、ころんと載っている。
波に洗われた砂浜で朝日に照らされたそれがボクの視界の端に映った。
淡い桜色がとてもきれいで、まるで自分の心が見えたらこんなかもしれないな…と、そう思えてしかたなく、拾って持ち帰ることにしたのだ。
黎明、未だ暗い海。寄せては返す潮騒だけがそこに海があることを伝えてくる。
他愛ない話が途切れ、ボクがコーヒーの入ったステンのマグを手元に引き寄せていると、彼がぐっと寄りかかってきた。
「…だいち?」
どうした?と訊ねようとして、ウトウトしている彼に気づく。
やっぱり、無理させちゃったよな…。
朝日を見に行きたいというボクのワガママに快く応じてくれた彼だけれど、連日仕事が忙しそうだった。今日もきっと、その忙しさの合間を縫うようにして共に過ごす時間を作ってくれたに違いなくて。
そのことを思うと、ボクは感謝の気持ちでいっぱいになる。
彼の身体が冷えてしまわないように、二人でくるまっていたブランケットをもう一度しっかりと襟元で重ねる。普段は見下ろすことなどない彼の、それも無防備な寝顔をここぞとばかりに眺めながら。
規則正しく繰り返される寝息を間近に感じ、結構まつげが長いんだな…などと思いながら、特に何をせずともこうしてただ傍に居るだけで得られる充足感を、ボクはひとり噛みしめた。
ボクと一緒に居たら、だいちも安心できる?
心の中で彼に問いかけた言葉に「ああ」とはにかんで頷いてくれる彼を想像する。もし本当にそうだったら、それはなんて幸せなことなんだろうか…。
思いがけず鼻の奥がツンとしたボクは眠気覚ましのコーヒーを一口、急いで飲み下した。
肩にかかる重さは即ち、幸せの重さ。
朝日を見に来たはずだけれど、このまま夜が明けなくてもいいや、なんて思い始めているボクがいる。自分が彼のために何かできるってことが─それがたとえこうしてただ肩を貸すことだったとしても─ただひたすら嬉しくて、もうじゅうぶん満ち足りていたから。
まあでも結局、同行していた人たちの「もうすぐ夜が明けるよ」という声に本来の目的を思い出し、彼をそっと揺り起こしたけれどね。
少し砂浜を歩き、寄り添って夜明けの見事を眺められたことも、やはりボクにとっては幸せ以外の何物でもなくて。彼にとっても、そうだったら嬉しいと思う。
ボクは今日の日を、二人で眺めた朝日を、きっとこれからもずっと忘れることはないだろう。
朝の光に包まれながら、心に誓ったこと。
ボクはこれから何度でも、その言葉を心のなかで反芻する。
彼の幸せのために。
ひいてはそれが、ボクの幸せなのだから。
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