見上げれば、今にも雪が降ってきそうな曇り空だった。
吹きつけてくる風はとても冷たく乾いていて。
ボクの鼻の頭も耳の先っぽも感覚は遠くなっており、なんだかボクの顔にただくっついているだけみたいに思えた。コートのポケットに突っ込んでいた手で、鼻の頭に触れてみる。やっぱり、本当にくっついている作り物みたいだ。だって、とても冷たくて、氷みたいなんだもの。
──もう3月なのになぁ。
ふぅ、と吐き出す息が目の前で一瞬だけ白く湯気になって、すぐに消えた。
ボクはもう一度、空を仰ぐ。
あ。
ボクの目に入ったのは、張り出した枝にいっぱいの、空へとまっすぐに伸びる大きな蕾。見間違うことなどない、だってそれはボクの大好きな木蓮のものなのだから。
今日は、こんなに寒いのになぁ。
自然はちゃぁんと春の訪れを解っていて、誰に言われるでもなく花を咲かせる準備をしているのだ。
なんだかいろんな気持ちや想いが一気に胸に押し寄せてきてあふれ出しそうで、ボクはあわてた。
喜ばしいのに、
寂しくて、
どこか哀しくて、
でもやっぱり嬉しいような。
こんなとき、どんな顔をしたらいいのだろうと思案に暮れる。
しゅん、と鼻をすすったのは冷えすぎて鼻の感覚がなくなってしまっているからだ。決して泣いてるからじゃない。
誰にするでもなく言い訳をする。どっちみち、ボクの鼻の頭は真っ赤っかだろうけれど。
ボクは目を細めて、蕾がびっしりついた枝をしばらくの間見上げていた。
──来年の木蓮の蕾の季節にも、あるいはボクは。
ボクは頭をぶるぶるっと振る。くだらない考えをふるい落とすように。
もうすぐ、春がやってくるね。
ボクはまたきゅっと口を引き結ぶと、前へ向かって歩き出す。
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