ボクが入団したころと比べるとここもすっかり静かになっちまったけれど、その分本を読むにはうってつけの場所といえる。ひざの上に乗ってくる猫は(重いけれど)あったかいし、なんと言ってもコタツなのだ、疲れればそのままごろんと転寝モードになれるのがいい。
最近ハマっているのは、とあるライトノベル。外伝含め20巻は下らないというシリーズだ。今はその5巻目に突入している。
今までも何度かライトノベルと括られるものを手にとってみたことはあるけれど、誤字脱字が目立っていたり言葉遣いがおかしかったり、そも文章力が拙かったりと散々で、その分類の本に対しては半ば諦めモードのボクだった。しかし今読んでいるこのシリーズは、ラノベだからこそさくっと読める気楽さが逆に良かったようで、ツッコミたいところはまぁあるものの、苦痛を感じるほどのこともなく読み続けている。
主人公が良家のお姫様なのに努力家でオトコマエなところも悪くないし、もうすでに完結しているシリーズなので安心して先へ進めるということも手伝って、図書館で次々と借りてきては読んでいるというワケだ。
黙々とページを繰り活字を追っていたけれど、襖がすっと開いた気配にボクは顔を上げた。
襖から顔だけを覗かせているのはここの団長だった。彼は春だろうが夏だろうが秋だろうが冬だろうが、まぁつまるところ1年中マフラーを巻いている。ちなみに暑くはないらしい。ボクは暑がりだから、ちょっとだけ彼がうらやましかったりもするんだけれど。
「トワヤ、聞いてよ」
うう寒い…と背を丸めていた彼はこたつに入りながら、なんだかヤケに嬉しそうにそう切り出した。
ボクは読みかけのページに栞を挟んで脇に置き「ん、なんだい?」と首を傾げる。みかんの入ったかごをすっと彼の前に押し出したそのとき。
「現代文81、古文・・・・・・」
彼が滔々と喋りだした内容に、ボクは目を白黒させた。現代文や古文それにそれぞれ数字が続いているから、どうやら先に行われた学年末考査の結果らしい。けれど、びっくりしたのが先に立ったのもあってボクはただ「ふん、ふん」と頷くことにのみ終始する始末。まぁ、人のテストの点数を覚えている必要はないのだけれど。
報告し終わった彼は最後に
「なんかすごかったよ!」と満面笑顔で締めくくった。
そうか、すごかったのかぁ…嬉しそうな彼につられてボクは目を細め、初めて「ああ、そういうことか」と合点が行く。
目の前で笑う彼と、約一年前のボクが重なったからだ。
ボクが在学中、特に高校三年生になってからは、恋人をはじめとして、いろんな先輩が勉強を見てくれていた。そのおかげでテストの回を重ねるごとに、返却されるボクの答案用紙には丸が増える。結果として成績は上がり、無事に希望する大学への入学も果たすことができたのだ。
良い点数が取れるたびに「ありがとう!」って笑うボクに「トワヤのがんばりの賜物だよ」と勉強を見てくれた先輩は口をそろえて言ってくれた。でもやっぱり、それはぜんぶ、先輩たちのおかげだってボクは思ってる。
だからボクは、卒業したら恩返しも兼ねて後輩の勉強を見てあげるんだって決めていたんだ。
今回の学年末考査は、ボクが卒業した後で行われたテストだ。
テスト前に「そこに座れ♪」と言って、このコタツで見てあげた勉強。だから彼はボクの、一番弟子ともいえる(?)。
あの時「僕のできなさ加減に呆れたりしないでね…」と勉強を始める前からなんだか懺悔よろしく、しおしおと正座していた彼だったけれど、なんだ、やっぱりやれば出来る子だったってことだよね!
彼の嬉しそうな様子を見ているだけで、ボクもじゅうぶん嬉しかった。
もしかしたら自分が良い点を取れたとき以上の嬉しさかも……。ふと一瞬、そんな考えが浮かんで、しかしすぐに消えた。そのときのボクが(その当時はまだただの先輩だった)恋人に見せたはしゃぎようは、きっと相当なものだったろう・・・。ボクは考えていることがすぐに顔や態度にでる。殊に、嬉しいとか楽しいとか、そういう喜びごとに関しては纏う風の色さえ──見る人が見れば、花が飛んでいるように見えるかもしれない──違っているのだろう。
それを考えれば、団長の喜び方は、まだ可愛げがある。
嬉しそうに笑う団長を見て思う。
ボクも少しは恩返しできたかなぁ。
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