緒戦も緒戦。
彼と合流してすぐなのに、ボクは妖狐の軍勢の前に力尽きた。
──もっと一緒に戦いたかったなァ──・・・
ドクドク、と脈打つような痛みに誘われ遠ざかる意識の淵でそんなことを思っていたのは、ボクの目に彼の背中が映っていたからかもしれない。
その後、ボクが意識を取り戻したのは、琵琶湖にほど近い場所に設営された寮の出張所、簡易ベッドの上だった。
生命賛歌のおかげで、ボクは一命を取り留めた。痛みは間断なく襲ってくるけれど、その痛みはすなわち自分が生きているという確固たる証拠。
けれど生命賛歌がなければ、いまごろ……。その先に続く言葉を頭から追い払う。背筋を冷たいものが走った。
徐々に焦点があう視界に、心配そうにのぞきこむ彼の顔が映った。
あぁ、だいちは無事だったのだな。
ボクはまるで条件反射のようにふっと微笑った。その瞬間、彼は反対にくしゃりと顔をゆがめる。それがまるで泣いてしまいそうに見えたのは、ボクの思い過ごしだろうか?
彼はそろそろとボクを引き寄せると、その腕で柔らかく抱きしめて。
「…守れなくてゴメンな」
と耳元、小さな声で言った。
…そんなこと、気にしなくていいのになぁ。
ボクは彼の想いが嬉しくて、ふぅと息を吐き目を細めた。
ゆっくりと身体を離して再びボクをそっと横たわらせてくれた彼の頬に手を伸ばすと、途端に脳天を突き抜けるような激痛が身体じゅうを支配する。ぐるぐる巻きの包帯の白がやけに目に眩しくて、ボクは顔を顰めた。
それでも。
かまわず彼の頬に手を添えて。
「なんてカオしてんのさ。このケガは別にだいちのせいじゃないんだから、謝ンないでよ」
どう考えたって、ボクが重傷を負ったのは自身の未熟さゆえだ。彼がそのことで自分を責める必要は一切ない。
彼がボクを「守りたい」と想ってくれていて、事実、ボクは彼の傍にいるときだけは、心から安心していられる。だから、そう想ってくれていることはとても嬉しい。
けれども、それとこれとは別問題だ。
ボクは、彼に守られるだけの存在ではいたくなかった。
その背に庇われるのではなく、彼と手を携えて、隣を歩みたいのだ。彼を支えるだけの毅さがほしいのだ。
ボクが不甲斐ないばかりに心配ばかりかけて。そんな顔をさせてしまって、ゴメン。
もっとちゃんとできればよかったね。
なのに、「ゴメン」と謝ることですら、先を越されてしまって。
あなたには本当に敵わないなぁ。
ボクは彼の目を見て、今度はしっかりと微笑んだ。
本当に謝る必要はどこにもないよ。
こうして傍に居てくれる。それだけでちゃんと「守られている」と感じられる。ボクにとってはなによりそれが大事なこと。
だから、ゴメンの代わりに。
「ありがとう。愛してるよ、だいち」
傍に居てくれて、ありがとう。
ボクはもう一度ふっと笑って小さく呟いた。
今回の戦争では、こんなボクにもまだやれることは残ってる。
束の間の休息のために目を閉じたボクの耳に届いた、彼の「愛してる」という言葉。
そっと頭を撫でてくれた手のひらの温かさと彼の心とが、ボクの痛みを間遠にしてくれたように思える。
そしてボクはこの上ない安らぎを感じながら、すぅっと眠りに落ちた。
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