講義終了のチャイムが鳴った。
テキストやノートを机の上で、とんとんと軽く整えてカバンに仕舞っていると、仲良くなった同じ科の子が
「じゃあ、また明日ね」
と手を振って教室を後にする。跳ねるような後姿を少し目で追ったあと、ボクも席を立った。
入学してすぐに彼女はテニスサークルに入ったらしい。
さきほどの跳ねるような足取りが物語るように、ある日のランチでサークルに入ったことを話してきた彼女は、とても楽しいよと言って笑い、ボクに「一緒にやらない?」と誘ってくれたのだ。
けれどボクは曖昧に笑って「考えてみるね」とだけ答え、彼女も「そっか」と頷いて、それ以上を言い募ることはなかった。そういうさっぱりしたところが、彼女を好ましく思う理由のひとつ。
屋外へ一歩踏み出せば、うららかな陽射しからは想像ができないほど風が冷たくて驚いた。まぁ、毎日朝早くに寮を出るボクは、いつも1枚多く羽織っているから、寒くったってへいちゃらなのだし、そもそも冬生まれのボクは、寒さに滅法強いのだけれど。
春とは名ばかりの寒い日は、少し身が竦んでしまうのを自覚する。
道端のツツジはいつの間にか満開で、白やピンクの濃淡が目に鮮やかだ。
空の色はまだ淡く、漂う雲も、綿のようにほわほわと輪郭を曖昧にしている。
ボクは空を見上げ、ふぅと息を吐いた。
正直なところ、サークルって、あんまり興味がない…のかなぁ。
銀誓館の結社で、(能力者同士ゆえの)気心知れた仲間とのんびり談笑しているだけで充分だと思える。
小さいころみたいに旅人の外套を制御できないという負い目なんかはないけれど、やっぱりちょっと警戒してしまうのかもしれない。なんてのは、考えすぎだ。
人が集まるところはキライではない。
笑顔が溢れるような、楽しいことは大好きだ。
けれどボクには、余暇があるのならば他にやりたいことがあった。
一番単純なことを言えば、ただ通学の時間を考えて、サークルなんてやってられっか!ってトコロに落ち着きそうな感じではあるけれどな。
Chilly Spring Weather.
今日みたいな日のことを英語ではこんなふうに言うのだとか。
なんか……生春巻き食べてぇな。スウィートチリソースをつけて、ぱくっと。
思いついて、生唾をごくり飲み込みつつ。
──Chillyで、chilli?
己の思考の単純さに、笑いがこみ上げる。
晩飯の後、何個かこっそり作って、読書のお供として夜食にしようか。
そうだ、そうしよう!
思いついたら、居ても立ってもいられないボクは、買って帰るものを想像しはじめる。
忘れちゃいけないライスペーパー。
具は海老かサーモン(お買い得なほうをチョイスする)、ビーフン、香菜、もやし、きゅうりぐらいで充分だろう。
スウィートチリソースは酢とか砂糖とかを混ぜて作る。ケチャップを少し使ってもいいかもしれないな。調味料類はぜんぶ調理場にあるはずだ。
そんなふうに考えをめぐらせているボクは、気づいてみれば、先ほどの彼女と同じくらい、ぴょんぴょん跳ねるような足取りになっていた。
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