posted by 渡月・トワヤ
at 15:15:52 │
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学校の屋上で、晴れわたる空を見上げる。
吹きつける風はとても冷たい。
もう、到着した?
それともまだ空の上だろうか。
ボクができることは、ただ只管祈ること。
May you be victorius!
...And smiling to me, again.
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posted by 渡月・トワヤ
at 17:15:37 │
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今日は一日晴れていた。
空気がカラカラに乾燥していたせいで、雲一つない高い空。
風は冷たい。
北海道の方では、もうすでに雪がちらついていると聞いた。
秋が来たと思っていたら、もう冬の足音が聞こえてくるなんて。
陽がすっかり落ちてしまうと、風は一段と冷える。
ブルっと身震いしたボクは上着のポケットに手を突っ込んで足早に歩き続けていた。
吐く息が白くなるのも、時間の問題かな。
ふと顔を上げると、周囲の木立やまだ明りの灯らない民家は影絵のように墨一色で塗り潰されてしまったようだった。その向こうに広がる空は、かろうじてオレンジを残したグラデーション。オレンジと藍の狭間にはぴかっと光る、きら星ひとつ。
ああ、あれはたぶん金星、宵の明星。
星座はあまり詳しくないけれど、冬の夜空は見上げるだけでワクワクできる。
北斗七星に、カシオペアぐらいは解る。
もう少し夜が深まってサソリが眠りにつくころには、オリオン座が静かに顔を出すのだろうことも。
秋から冬は夜が長くなる季節。
空気もピンと張りつめて、満天の星空。その輝きも、ひときわ丁寧に磨かれた宝石のように輝きを増す。
ボクは立ち止まって、空を仰いだ。
月がのぼるのは夜半。
陽が沈み切った空に、星がゆっくりと姿を現しはじめる時間。
イヤホンからは、携帯音楽プレイヤーでランダム再生しているお気に入りの曲が流れてくる。
やわらかい声で綴る、穏やかな愛の歌。
図らずもそれは今日の夕暮れに良く似合っていて、ボクは淡く笑んだ。
あんまりこんなところでぼんやり立っていたら、風邪を引いちまう。
さぁ、寮へ帰ろう。
posted by 渡月・トワヤ
at 22:59:41 │
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「美味い飯を食えば、元気になれるんだぞ」
ボクが物心ついたころから、父はことあるごとにそう言っていたように記憶する。
実際、母の料理はどれも、かなり大雑把な作り方をしていたにも関わらずそこそこに美味しかった(時折ボンヤリしていて鍋を焦がしたりはしていたけれど、それは料理の出来云々とは別次元の話だろう)し、その料理を食べている父が相貌を崩すさまを間近で毎日見ていれば、子供心に「ああ、そういうものなんだ」と納得していた。
確かに、学校でイヤな出来事があっても家族で食卓を囲んで母の料理を食べているうちに、「まぁいいか」なんて思い始めるボクがいて。
そうしていつしか父のその言葉は、渡月家の家訓になっていた。
弟(は単純だからまぁ良いとして、ドライな)妹がどこまで本気でそう思っているかは、知らないけれど。
シルクロードを中心に東へと進路を取っていた作戦「ジハード」は、カンボジアで危機に直面していた。その報せを受けた銀誓館は精鋭部隊を結成し、現地へと向かわせる手はずを整えている。
当然、寮でもその話題でもちきりだった。
皆との雑談の中で、彼もその作戦のひとつに参加するのだと話しているのを耳にしたボクは、今年初めの自身のポーランド遠征、それからボクらが付き合いだしたばかりのころに起こった出来事とをかわるがわる思い出していた。
なんとなく複雑な気持ちになりつつも談笑する皆にまぎれるように笑っていたボクだけれど、思っていることが顔にすぐ出てしまうところはどうしようもないみたいだ。
ちらりと彼がボクに視線をよこし、ボクらは目が合った。
彼が淹れてくれた紅茶の入ったマグを手に、ボクらは並んで彼のベッドに腰掛ける。
手を温めるようにカップを両手で包んで持ち、立ち上る湯気にふぅと息を吹きかけた。ボクは猫舌だから。
「まぁ、だいちなら完膚なきまでにぶっ潰してくるんだろうけど…」
彼のほうを見ずに、ボクはカップの中に視線を落としたまま、
「無茶だけはしないでな。その……頑張ってきて。応援、してるからさ」
カップの中の紅茶に映っていたのは、ちょっとぎこちなく笑うボクの顔だった。
こんな顔してたら、何を考えてるのかなんて、だいちにはすぐにバレてしまうんだろうな。
そんなことを考えていて、ボクは視線を上げられなかった。
「あー……」
ため息のような一言をこぼした彼は紅茶を一口啜ると、
「また心配をかけてしまうけど、できるだけその心配が小さく済むように頑張ってくるよ」
ゆったりと微笑み、カップを持っていないほうの手で、ボクの頭をくしゃっと撫でた。
──なぁんだ。
顔を見られてなくても、バレバレってことか。
核心に触れていなくても見透かされちゃうのは、隠した意味がないってことで、ちょっと恥ずかしかったり悔しかったりもするけれど。
彼の吐き出したため息と少しの間。
それが教えてくれるのは、彼がボクとおんなじようにあの時の出来事を考えているのだろうということ。
こういうとき、ボクらは言葉以上の何かでちゃぁんとつながっているんだなって、実感する。そしてそれが、ボクは単純に嬉しい。
「うん、ありがと」
同じことを思っていても、彼はいつだってボクの半歩先を行って振り返り、ボクに手を差し伸べる。
ボクの心が竦んで立ち止まってしまわないように、その力強くて優しい手をボクの心に添えてくれるみたいに。
そこまで思い至ると、ああやっぱり彼には敵わないなぁなんて思ってしまう。それはボクにとっては決して悪い感情ではないから、半分だけニヤついて、そして半分困ったような変な表情になってしまうのだった。
彼はそんなボクを見てくつくつと笑っている。
そうだね。きっと大丈夫だ。
「だいちが帰ってくるまで、たくさん本を読んで、美味い飯食って待ってることにするよ!」
ボクはにっこりと笑って彼を見つめて言った。
彼が帰ってきたとき、「おかえり!」って笑って出迎えられるように、美味い飯をたくさん食って元気でいなくちゃ。
「おぅ。美味い飯は俺も食うぞ!」
彼も笑った。あぁ、ボクの大好きなだいちの笑顔!
そうだね、一緒に食べよう。
美味いご飯を一緒に食べたら、もっと美味くなるに決まってる。
それは、ボクが保証するから。
だからこれからも、ボクはあなたと一緒にご飯を食べたいなぁって、思うんだ。
posted by 渡月・トワヤ
at 16:58:34 │
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……ふぅぅ
ボクは本を閉じると同時に、大きく息を吐き出した。
今日読み終えた本は、図書館で借りてきた本だった。
元を正せばこの本は、夏休みのはじめぐらいに書店でもらってきた「夏のオススメ100冊」とかなんとか、そういったタイトルの、自社出版物を紹介する小冊子に掲載されていたうちの一冊で、その時ボクは、心動かす『何か』がほしかったんだろう。今読み終えたこの本は「感動」とか「ヒューマンドラマ」とか、確かそんなカテゴライズだったから。
ただ、「心を動かす」ということは、それ自体でかなりのエネルギーを消耗するものだと思う。
ボクはすぐに主人公に感情移入してしまうから、それゆえに「感動作」と銘打っているものには迂闊に手を出さないように心がけている。その物語に臨むときにはこちらにも、受け止められる余力と、振り回される覚悟が必要だと考えているからだ。
そんな感じの出合い。小冊子にしるしをつけていたものの、なんとなくこの本には今日まで手を出せないでいた。
初めて手に取る作家の著書というのも、まぁ、腰が引けた理由のひとつなのは否めないけれど。
先週末のこと。
図書館でふらりと書架を渡り歩いていたときにふと目に留まったタイトルは、あの小冊子でしるしをつけていた本だった。
探すでもなく目に留まったということは今が読み時ということか。これも一期一会だと、その本を他の数冊と一緒に貸出しカウンターに持って行ったのだった。
自室に帰っても、横目で背表紙を眺めながら、他の本ばかりに手を伸ばしていた。
ここまできても踏ん切りをつけられない自分が、ちょっとだけ情けない。
えぇい、ままよ。
ボクはようやく重い腰を上げた。
その作家が好む文体も、ボクにとっては好き嫌いの別れる大事なポイントだ。
いくら評判が良くても、たとえ本当に面白かったとしても、肌に合わないと感じれば読み進めるのはこの上ない苦痛にしかならなくて。ボクの一方的なわがままだけれど、こればっかりはどうしようもない。
だから、初見の作家の本を開くときは、いつもいささか緊張してしまう。
この作家のそれは、大丈夫だった。
いや、むしろ……どうしてこんなにやさしいことばを選べるのか、とボクは早々にその作家の織り成す世界に惹きこまれてしまった。
まだほんの十数ページを読んだだけなのに。
まだ物語は始まったばかりだというのに。
──なんでボクは、涙を流しているのだろうか。
読み進めればますます、驚く。
自分自身の体験と重なるような行。
そのたびにボクの心は大きく揺さぶられ、まるであの時の追体験をしているようだった。
フラッシュバックする記憶。
ボクは思わず目をぎゅっと閉じる。
散らばっていた記憶の一つ一つがちくちくと胸を刺すようで。
でも。
そもそもこれはフィクションだ。
きっと、誰にでも起こりうる出来事で、何も特別なことなんかない。ただ、状況が似ているだけ。
理解っているのに、主人公に対して「そうしてはいけない」と叫んでいる自分。
だってボクは、その不安を、痛みを、知っているから。
ボクは閉じた本を前に、熱を持った瞼をぎゅっとタオルで押さえ、しばらく動けなかった。
やっぱり思っていたとおり、たくさん心を揺さぶられ、振り回された。
おかげでだいぶ体力を持って行かれたけれど、でも読んでよかったと思える。
心を重ねた主人公が希望を抱いたエンディングは、同時にボクの心も軽くした。
それに、こんなにも「好きだ」と思える本に出会えたのが、嬉しかった。
絶望に襲われても、また人は立ち上がれるのだと教えてくれる。
ボクはそうやって、なんらかの希望を見出して生きていく方が好きだから、この物語がそう伝えてきてくれることは、自分の生き方を肯定されているようで、単純に嬉しい。
そしてなにより、随所に盛り込まれた、美味しそうなご飯を食べるシーン!
これは、反則だ。
大事に想う人が「美味しい」と笑ってくれることだけを考えて作ったんだ、とか。
あぁ、ズルいなぁ。
そういうご飯には、元気になる素が詰まってるんだもの。
この作家も、知ってるんだ。
美味しいご飯をちゃんと美味しいと思えるようになったら、人はまた前を向いて生きていけるってことを。
ボクもいつか、誰かを元気にしてあげられるようなごはんを作れるのかな。
…あぁ、たくさん泣いたから、腹が減っちまった。
今日の晩御飯は、なんだろう?
posted by 渡月・トワヤ
at 16:47:51 │
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陽が、落ちるか落ちないかの、黄昏時。
ボクは、ふらりと散歩に出かける。
目の前を、ほわほわ、とたゆたう小さい白。
今年もいつの間にかそんな季節が巡っていた。
ゆきむし。
そっと忍び寄る、冬の気配。