posted by 渡月・トワヤ
at 19:48:08 │
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「カウニストゥーリアンパイヴァー………♪」
ゴキゲンなボクの鼻歌だが、即興すぎて二度と歌えない。
うーん、一期一会の心。
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台風の影響で、ちょっとだけ風が強い雨の日。
別に飛ばされちゃうほどの風でもないとは思ったんだけど、
彼が「一緒に帰ろうぜ」と言ってくれたから、駅で待ち合わせた。
彼からのお誘いは、いつでも心が浮き立つのだ。
並んで歩くと傘を傾げても横に広がっちゃって他の人に迷惑がかかってしまう。
うーん。
ボクは(ちょっと恥ずかしかったけど思い切った)自分の傘をたたんでしまうと
「えい!」と彼の傘に飛び込み、腕にくっついた。
彼はちょっとだけ驚いたように目を瞠り、それから穏やかでやさしい微笑みをくれるのだ。
その笑顔はボクを心から寛がせる。
ボクは胸の内がくすぐったくて「えへへ」と笑った。
それで嬉しくなったボクは、先ほどの即興の鼻歌を歌ったというワケだ。
「それ、何の歌なんだ?」
雨に濡れないように、ボクの肩を抱き寄せながら彼は問う。
「…さぁ?」
ボクはにこっと笑って首をかしげた。
えっ?と軽く驚きながら「なんだそれ」と愉快そうな顔をする彼に
「今なんとなく歌っただけだからさ。二度と同じ歌は歌えないよ」
そうしてボクは、歌詞の意味をこっそりと彼にだけ打ち明けるのだ。
──今振り返れば。
あの春の出来事から始まったのは、自然の営み。
あの出来事は、いわば種蒔きだったのではないだろうか。
蒔かれた種は、土の中で眠りに落ち、
季節は流れ、梅雨の豊かな雨で潤され芽吹いた若葉。
それは夏のまばゆい光を受けてぐんぐん育ち、いつしかとても美しい花を咲かせたんだ。
きっともうすぐ訪れる秋には豊かな実が生るんだろう。
そしてその実は、また新たな花へと繋がっていく。
その自然の流れのなかで辿り着いた、今ボクがいるここはだから、ボクが居て然るべき場所なんだって思う。だって、ボクがこんなにも素直でいられる場所なんて、他の何処を探しても見つかりっこない。
ボクは花のように。
花が風に揺れるように、あるがままを受け止めよう。
ハチミツ色の陽の光をいっぱいにあびて、
あたたかな大地がしっかりと支え、育んでくれるよう。
だからボクはいつも、花のように笑っていられると思うんだ。
posted by 渡月・トワヤ
at 22:44:37 │
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──?
ボクは英語の長文和訳の手を止めて顔を上げ、窓の方へ顔を向けた。
まぁ、見たところでカーテンはひいてあるから、音と気配が感じられるだけなんだけれど。
それでも、ごく小さな雨粒の、かすかな雨の音がした。
大型で強い台風がゆっくりした速度で日本に近づいてきている。
この分だと新学期早々、暴風雨の中通学…ということも十分にありうるわけで。
それが風台風であるのなら、年中風が強く吹いてるようなところで生まれ育ったボクにとっては、けっこう余裕。むしろちょっとワクワクしちゃうんだけどなぁ。(ビョォォ!とかいう風の音に興奮してしまう)
でも、雨が伴うと、もうダメ。
暴風雨の中、傘をささずレインコートを着て歩くのも、そりゃ少しの間は楽しいけれど、長靴の中までズブズブになるのは、気持ちが悪くてガマンできない。
もし仮に学校が夏休み明け初日から休校とかになっちゃったら、課題を(めずらしく全部やり終えたから)めちゃくちゃ肩すかしだ。
そういえば、中学生の時に一度だけ、通学時間と台風の上陸が重なった時があったなぁ。
街路樹が折れる被害が出てしまうほどの猛烈な台風だったけれど、そのときのボクらが知る由もなく。
通学路が一緒の友達と傘をさし、風の音でかき消されるのをいいことに「ぎゃー!」と大声で叫んだり半分ヤケクソで笑ったりしながら通学したのだ。(友達の傘は折れた)
今思えば、ちょっと無茶だったかな。まぁ、無事だったからいいや。
でも、せっかくずぶ濡れになりながら登校したのにクラスメイトの半分以上は登校していないし、担任もなかなか顔を見せないし、そのうち隣のクラスから「今日はどうやら休校だったらしい」という話まで聞こえてくる始末。
雨粒は、ますますはげしく窓に打ちつけられるばかり。
なんだかボクらは世界から取り残されちゃったような所在なげな気持ちになる。
実際、ボクらと外界(大げさ)との連絡手段といえば、携帯電話の所持は校則で禁止されていた手前、職員室前にある公衆電話だけだったし、親に「迎えに来て」と電話をするのも、同級生の手前ちょっと恥ずかしかったりもしたし。
「お前ら、少し風がおさまったら帰ってえぇぞー」
見回りに来た教師もそんなことを言うが、そもそもいつごろ風雨が弱まるのか、ボクらみたいな子どもでは見当もつかないっつーの。
ますますボクらはしょげかえり「帰る?」「どうする?」と互いの顔を見合わせるばかりだった。
でも、こうやって鮮やかに覚えているのは、そこまでだ。
目の前でぱちんとシャボン玉が弾けたみたい。
まるで夢からさめたときのように、その日は結局どうやって家に帰ったのかとか、ちっとも思い出せないでいる。
「臨時休校」って単語はそれだけで浮き足立つには充分だ。
なのに校舎内の雰囲気は、いつもより少ない生徒数が生みだす静かな動揺とそれを悟らせまいとする強情とで、なんだか妙な緊張感が漂っていたし、完全に外界とへだれがシャットアウトされたような感覚。
なんやかんや言っても、ボクらはある意味ハイになっていたのかもしれないな。
雨の音が、間遠になる。
ボクは、ミルクティを一口。
さて、残りの和訳もやってしまわないと、途中でやめたらワケがわかんなくなってしまうな!
もうちょっとだけ、集中集中!
posted by 渡月・トワヤ
at 17:00:06 │
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夕暮れどき。
ボクは気分転換に、散歩に出た。
久しぶりのお天気だったからか、夕方になってもむわっとした昼間の空気が居座ったまま。
ボクは空を見上げる。
青からオレンジの淡いグラデーションの空に、大きな刷毛で白い絵の具をさっと塗ったような巻雲が自由に一面広がっていた。
秋っぽくなってきたよなぁ。
蒸し暑い地上の熱を忘れ、ボクは風になり、上空の乾いた秋の空気を感じたようだった。
あぁ、そうか。
あの雲のひとすじひとすじ。あれはきっと、風の足跡なんだ。
posted by 渡月・トワヤ
at 12:07:36 │
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問題を1問解き終わってボクがカップに手を伸ばすのを待ち、
「…コーヒー、ウマいよ。プロを目指してもいいんじゃないか?」
ボクが淹れたコーヒーを啜ってにっこりと笑いながら彼はそう言った。
今日は、彼が勉強を見てくれているのだ。
「ん~…」
プロ、かぁ。
そうしてボクの記憶に甦ったのは、銀誓館にやってきてすぐ、高1のころに少しだけ在籍した喫茶店(結社)。入団してほどなく学祭があって、ご多分に漏れず、そこでも喫茶店の模擬店をやったこと。
ボクはたしかあの時(ウェイトレスのコスプレは断固として拒否し)バリスタの衣装に嬉々として身を包んで、コーヒーのサービングをしたっけ。
たしかにあれは楽しかった。
だから、そういうのに憧れがないと言ったらウソになるけれど。
「コーヒーは、自分と大事な人のために淹れるので充分、かな」
今は、まだそれでいい。
ボクは将来、本に携わる仕事がしたい。
図書館の司書になるのが一番の目標で、だからその資格取得のために大学へ進学したい。
もし、それが叶わないのであれば、書店の店員。
本に囲まれた仕事は、なんて素敵なのだろうか。
でも、彼のことばで、ボクが描く未来の映像に少し違う色が混じりはじめた。
本に囲まれて。
コーヒーのいい香り。
自分の好きな本を集めて、小さな図書館みたいなカフェ。
白い外壁、テラスに張り出した青とグリーン、白のストライプの庇。
テーブルは2セット、カウンターも4席ぐらいあればいい。
カップボードに並ぶカップが不揃いなのは、お客さんごとのイメージに、ボクがお似合いのをチョイスしたいから。
大きく開いた窓と向かうようにキッチン。
ドアとは反対側の壁には腰までの高さの書架が誂えてあって、きれいな装丁の本は特別にディスプレイしたり。レビューポップを書いてもいいなぁ。
メニューは片手で食べられるような、ホットサンドや、クッキー、スコーンとか。小さいころころっとしたパンを焼くのもいいかもしれない。
本を読みながら(読まなくてもいいけれど)のんびりとした時間が過ごせるように、音楽はごく小さい音で、緩やかなもの。
あ、そうだ。
お客さんが1冊持ってきてくれたら、代わりに気になった本を1冊持って帰ってもいいという仕組みとかって、面白いかも。
「また、いつでもいいから持ってきてね」
なんてボクはカウンターの内側でお客さんに笑いかけたり、本の好きなお客さんと顔なじみになれば、オススメを話し合ったり。
それは、むくむくと真夏の入道雲のように、ボクの頭の中にあふれるイメージ。
きらきらとサンキャッチャーが虹を作るように、光に満ちて明るくて。
うわぁ、それっていいなぁ。素敵だなぁ。
「…おい。カオが緩んでるぜ」
彼はそう言いながら、ボクの頬をツンとつついて忍び笑う。
ボクははっと我に返った。
おっといけない、勉強中だった!
キリっと顔を引き締めるけれど、時すでに遅し。彼はくすくす笑いを続けている。
ボクが「そんなに笑わなくてもいいだろ」と、唇を尖らせねめつけたところで、彼が意に介す様子はない。
まぁ、それは付き合う前から変わらない、要するに"いつもと同じ"ってことなんだけれど。
ボクがムッと膨れているカオですら、ハイハイといなし、楽しんでいるようなフシがある。
あぁ、これだから。
ボクは、あなたには敵わない。
でも、その気持ちは、あのころ感じていた悔しさとは違くて、あの日、変化したことのひとつだ。
「勉強やるときは、集中しような」
ぽん、と頭に載せられた大きなてのひらに、胸がきゅっと締めつけられる。
ボクは、その甘い痛みを包み込むように、ゆっくりと瞬きをした。
ともすれば子ども扱い。
だけれど、それはいつだって傍で守ってくれているという安心感に繋がって、だからボクは彼の前でだけは、いつだって素直でいられる。
「…うん」
ボクは、 すん と肩を落として頷いた。
ちょっと頬が熱いのは、彼がそのてのひらの温かさだけで、ボクの心をすきってきもちでいっぱいにしてしまうからだ。
ボクは自分を落ち着かせるようにカフェオレを一口啜ると、また問題集を解きはじめた。
ツクツクボウシの鳴き声が遠く聞こえてくる。
もう、夏も終わりだね。
posted by 渡月・トワヤ
at 23:59:58 │
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「ぎゃっ!?」
ボクは小さな叫び声を上げた。
たぶんね、毎日の受験勉強で、睡眠不足だったんだよ。
今、ボクは運動不足解消のために北関東セメント工場にいて、ブーメランをガンガン投げている。
風に乗るように空を切って滑走するブーメランが描く弧を眺めていると、スカっとするんだよね。
何度かゴーストとも遭遇しながら、工場内を奥へ奥へと歩いていくと、また新たなゴーストが出現した。
「よし、行くぜ!」
イニシアティブの高さを生かしてボクは、内なる魔力を高めるために前方に魔方陣を描く…つもりが
「科戸の風が清めて──!」
何を、今ボクは何を呼ぼうとしている!?
「えっ?」
「ちょ!?」
「…!?」
自分で自分の科白を理解するより早く、ボクはサイクロンを巻き起こしていたのだった。
暴風が収まると、ボク以外の仲間は、そわそわ…なんだか落ち着かず、妙な空気が流れる。
「…まさかココでサイ・・・・」
いち早くツッコミを入れそうだった仲間の口を「どわっ!」と身体を張って塞いだ。
皆の言いたいことは解ってる、うん。
だからさ、先に目の前のゴースト、やっちまおうぜー!
(※ゴーストをほったらかして、漫才をやってはいけないと思います、ハイ。すみません)