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夜の帳が降りるころ。
夕飯の準備をしていて牛乳を切らしていることに気づいた。
いまさらメニューの変更も面倒だったし、なにより今日はどうしてもクラムチャウダーが食べたかったから、もうどうしようもない、と近所まで買いに出ることにした。
無事に牛乳を手に入れたボクは、買い物袋をぶら下げて家路を急ぐ。
指先は冷たいし、吐く息だってこんなに白いもの。
早く暖かい部屋に戻って、ご飯作って食べたい。
信号待ち。
寒さを紛らわすためにその場で足踏みをしながらふと見上げた空に、絹糸のように細い月が浮かんでいた。
そういえば2日前が確か新月だったはずだから、まさに今日が本当の意味での三日月。
普段目にする、広義の(ボクらがイメージする)ものより実際のそれはかなり細く、ともすればぽっきりと折れてしまいそう。
紫と藍色のグラデーションの空に消え入りそうに浮かぶ白い月は繊細で美しく、ボクは寒さも忘れて見惚れていた。
そうして、ふと、恭一を想う。
今頃、何をしてるのかな…
ボクの右側を、空風が奔りぬける。
彼が今ここに居たら、
一緒にこの月を見上げて、「綺麗だね」って微笑い合う。
それは、なんて素敵なことだろうか。
信号が変わる。
ボクは歩き出しながら、
いつか二人で月を見上げる、そういう風景に出会えたらいいな、と思った。
年をまたいで、昨年末に図書館で借りた小説を読んでいる。
3冊にわたる長編のうちの、ひとまず1巻。
この人の作品の主人公は、淡々とした男性が多いように思う。
今読んでいるこの小説の主人公も、例外ではなく。
ボクは、自分が感情の起伏が激しい分、そうではない人に惹かれやすいのを自覚している。
穏やかな人の傍に居ると、まるで、暖かな陽射しの中で、穏やかな波にゆったりとたゆたうような感覚を覚えるのだ。
しかし。
今回読んでいるこの小説。
好きなタイプだと言える主人公の一人称で書かれているから、好感を抱いて然るべきなのだけれど…実のところ、よくわからないでいる。
そのうち光も見えてくるかもしれない、と8割方読んではみたけれど。
自分の中にあるのが、読む楽しさではなく、むしろ意地に近いものだと気づいて、ボクは本を閉じた。
まぁ、こういうこともあるさ。
身体がまだ、揺れているような気がする。
一晩中バスに揺られていたからか、地面がゆらゆらしているような…
恭一にそういうと、「まだ寝惚けてるんじゃないのか?」とくすくす笑った。
ボクのこと笑ってるけど、恭一こそ、ちゃんと眠れてた?
寝不足でふらふらしそうなのを、ヤセ我慢してんじゃないのかなぁ…
そんな素振り、まったく見せないけれど。