posted by 渡月・トワヤ
at 20:41:49 │
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JRの改札口。
この駅には、改札口はここしかないので迷う心配もなく。
ボクはひとり、待っていた。
さっきガタンガタンと電車がホームへ滑り込む音が聞こえてきたし、ちらほらと人が改札を抜けてくる。
そろそろ恭一も、あの階段を降りてくるはずだ。
「…あっ、きょういちー!」
鞄を抱えて降りてくる彼を見つけると、ボクは嬉しくなって思わず大声で名前を呼びながら満面笑顔で手を振っていた。
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「ただいまー」
玄関を開け、恭一を促す。
「はぁい。いらっしゃい」
母は台所から出来て、上り框に膝をついて出迎える。
母は誰に対しても、いつもこうなのだ。
「…はじめまして。お邪魔します。」
まさかここで出迎えられるとは思わなかったのだろう、いささか恭一は驚いたようだ。
しかしすぐに礼儀正しく挨拶をする。
「さぁ、そこは寒いでしょう、早く入ってね」
母はにこにことスリッパを手で指し示し、恭一を中へと招き入れる。
ボクと彼が居間へ足を踏み入れると同時に、
「いらっしゃーい!」
先立って彼が来ることを聞いていた弟妹は、元気よく彼を出迎えた。ここでクラッカーが鳴っていれば、さながらパーティの主役登場場面みたいだ。
しかし初対面の者に対するはにかみと、抑えきれない好奇心が表情からは滲み出ていて、姉として少々恥ずかしい。
「…こんにちは。はじめまして」
彼らの勢いに気圧されつつも、年長者の余裕で切り返す恭一。さすがである。
「ってか、ボクへおかえりはないんか?!」
「…あーおかえりー」
「出かけてたんだ?」
二人とも、身内に対しては、なんともおざなりである反抗期。
夕食前。
居間のソファに並んで腰掛けて、両親と向かい合った。
父はなんだか、目のやり場に困るようで、少し居心地が悪そうではある。
「…んと、今、お付き合いしてる神谷恭一くん……で。父と母で…あっちに居るのがおとうt……」
「いや、そこまでは今はえぇ」
さらりとツッコんだ父も何から話すか、しばし逡巡し。
「…まあ、真面目そうな人で安心したよ。」
父は湯呑に手を伸ばし、一口お茶を啜った。ボクは隣に座る恭一をちらりと見る。緊張しているはずなのに、いつもと変わらない表情。
「いずれにしても、トワヤは、決めたら親がどうのこうの言ったところで、頑として譲らんけどな」
父は半ば諦めたように言い、恭一が少し表情を崩す。
対照的に、ボクは異議あり、と言わんばかりに唇を尖がらせた。
「…ただ、まぁ……君らはまだ高校生だ。節度ある付き合いをするように」
その言葉に、恭一がすっと、ひときわ背筋を伸ばして。
「……はい。」
はっきりとした声で明確に返事をする。
ボクの頬に、さっと朱が差して思わず俯いた。
「よし!じゃあ、とりあえず飯にしようか。母さん」
賑々しい夕飯も終わり、ボクらは鎌倉へ帰るために、父の運転する車で家を出た。
「神谷君は能力者、だったね」
車が発進してほどなく、父はそう切り出した。
ボクはシートにもたれ、平静を装って窓の外を流れる景色を見ていた。
「……はい」
シートに投げ出していたボクの手に、ふわりと恭一は手を重ねつつ、静かに返事をする。
その手のぬくもりは、ボクをどこまでも安心させる。
「もう聞いているかもしれないけれど、家は私とトワヤがそうだ。」
父が何を言わんとしているのか、まったく予測できなくて。
重ねられた手の下で己の手を握りしめた。
「…くどいことを言うつもりはない、が……トワヤを頼んだよ」
その言葉に、恭一はボクが握りしめた手を包み込むようにして、ぎゅっと握る。
ボクは車窓から運転席の父へと視線を移す。
「……もちろんです。全力で護ります。」
恭一は、きっぱりと言い切った。
誰かに、大事にされ、護られる、ということ。
自分は庇護されるだけの弱い存在のつもりはない。
自分だって、誰かを大事にし、護る存在で在りたいと思っている。
けれどやはり、恭一から大事にされていると感じられるのは、正直言ってたまらなく嬉しい。
前を向いたままの父の表情は窺い知れない。
ボクは視線を、父から隣に座る恭一に移し、彼はそれに微かに笑って応えてくれた。
父はもう一度だけ
「…頼んだぞ」
つぶやくようにそれだけ言うと、それ以上何も言わなかった。
ボクらももう何も言わず、車内は控えめなラジオの音だけが流れていた。
posted by 渡月・トワヤ
at 18:00:31 │
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…パンパン!
柏手二回。
ごにょごにょと氏神様へのお願いごとを口ごもり、ボクはおみくじを引くために社務所へ向かった。
昨日の夕刻、実家に帰ったボクは、夕食の片付けのために台所へ立った際に、恭一の実家に2日ほど泊まり、両親に会ってきたと、母にだけ話した。もちろん、誤解されるようなことは、一切ないと…公明正大誓えるけれども、あえてそれを言えば、逆に不自然な気がしたので、なんだか事務的な報告になってしまう。
母は、他の家族には、泊まったことは言わずにおいてね、と言う。
まぁ、弟もぼちぼち反抗期らしく、そういうことはデリケートな問題になってくるのかもしれなくて。
「それから、お父さんにも私から話しておくから」
ボクよりよほど父との付き合いが長い母だから。
ボクはただ、小さく「うん」と頷いて、母に従う。
あけましておめでとう、とお年玉をもらい、お節やお雑煮をひとしきりつついた後、お茶を飲みながら面白くもないお正月の特別番組をぼんやりと家族で見ていると、
「ひさしぶりに家族が揃ったのだし、みんなで三社参りに行こう」
と父が切り出し、ボクら一家はそれにならった。
おみくじの結果は、推して知るべし。
まぁ、こういうのは当たるも八卦当たらぬも八卦と言うではないか。
境内で売られていた甘酒を父に買ってもらい、それで暖をとったボクら一家は、その神社を後にした。
どうやら昨夜ボクらが眠った後、母から父へ、ボクが恭一の実家に”立ち寄った”ことがやんわりと伝えられたらしい。
神社から帰って弟や妹が自室へ引っこみ、母は台所で夕飯の支度を始めたころ、父が読みかけの新聞から目を上げずに何気なく(もしくは何気なさを装って)「母さんから聞いたんだが……彼のご両親に会って来たんか?」と問うてきた。
ボクはちょっとだけドキっとして父を振り返る。
見るとはなしに点いたままになっていたテレビの音がなぜだか急に騒々しく感じ、煩わしくなる。ボクはリモコンで電源を切ると「…うん」と頷いて父へ向き直った。
恭一が能力者だと言うことは、帰郷を伝える電話で言っておいたから、今更ではあるけれど。
「……ちゃんと挨拶しときたい、と思って。
ご両親とも、ボクのこと、気に入ってくださったと思う」
そうか…と、何か言いたげではあるけれどそれ以上の言葉を発さずしばらく沈黙が続く。
ボクは思い切って付け加えることにした。
「それから……あちらのお母さんもその、能力者なのだって」
"能力者"という単語に、やはり父は反応した。さっきまでは新聞から目も上げなかったくせに、その時初めてボクを見、そして、ひときわ低い声で、そうか…とだけ呟いた。
「まぁ…どちみち、その…神谷君、だったか。明日来るんだろう?」
父の表情から、その心の内を読むことはかなわなかった。
しかし、名前も、明日来ることも、すでに承知か…!
母の根回しの良さに感謝しつつ、「ん」と頷いた。なんだか気恥ずかしくて、父の顔が良く見れない。
そして、なんとなく、だけれど。
父は明日、彼とボクと3人になりたいんじゃないかと思った。多少、居心地が悪かったとしても、それはいつか誰通もが通る道なのかもしれないし、やはり、あちらのお母さんと同様、能力者の先輩として、ボクらに言いたいこともあるんじゃないか、って思って。
「それでね、その足で一緒に夜行バスであっちへ帰ろうと思っちょるそ。やけぇ……荷物もあるし車で送ってってもらえん?」
にへへっと笑って父を見ると、「…まったく、しょうがないな」とでも言いたげに、父は大げさにため息をつく。
どうやら、ボクのこういうちゃっかりしたトコは、母さんに似ちゃったみたいだ。
posted by 渡月・トワヤ
at 16:59:14 │
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とあるJRの駅の改札。
無事に(というのも変な表現だけれども)冬休みの前半の予定をすませることができたボクは、自身の実家で年を越すため、今ここに居る。
切符を買い、少し離れたところで待つ恭一の姿を見れば、一抹の淋しさを感じずには居られない。
それでもやっぱり、ボクは彼の姿を見ると、心から落ちつくことができるのだ。
「…おまたせ」
「ああ」
買った切符をポケットに入れて、ボクは恭一の手を握る。
家に着くのは夕飯に間に合えばいいから…時間が許す限り、一緒に居たい。
物理的に離れていたって、メールも出来るし、電話だってかけられる。
それはわかっているけれど。
「…昔は物を思わざりけり、かぁ」
「…ん?」
ボクの独り言。なんでもないよとへへへと笑う。
時計を確認。乗ろうと思う電車までは少し時間がある。
「そうだ。折角だし、買い物に行こうよ」
キャリーバッグをコインロッカーに預けて身軽になったボクは、恭一の手を引き地下鉄乗り場へと歩き出した。
地元に居る時にも、この街の名は良く聞いていた。
実際、実家で見ていたテレビの殆どは海峡を越えての電波だったから、この街の知識だけは豊富にあって、行ってみたい場所は多かったりするのだ。
………
楽しい時間は、どうしてここまで速く流れていくんだろう。
あっと言う間に、電車の時間になってしまった。
改札の前で、ぐずぐずと繋いだ手を解けず
「…それじゃあ、また」
「うん」
何度か、同じせりふを繰り返すボクに、恭一は飽くことなく、けれどちょっとくすくす笑いながら付き合ってくれている。
「ほら…もう時間だぞ」
「…判ってるって…ちくしょう。えぇい!」
ボクは意を決して、唇をとがらせて手をほどいた。
また、すぐに逢えるよね。
それに、逢えない時間も、ボクらは二人の時間を共有しているんだよね。
心の中で自分に言い聞かせながらボクは改札をぬけて振り返り、恭一に精いっぱいの笑顔で手を振った。
「良いお年を!」
流れる車窓は、夕暮れの空を映す。
ボクはほおづえをついてその風景を眺め、この3日に起こった出来事を順繰りに思い出す。
すごく緊張してたのは本当だけれど、恭一がずっととなりに居て、両親の前だろうとなんだろうと、手を握ってくれていたから、大丈夫だって、思えた。
そして、堂々と家族に「付き合っている彼女だ」と紹介してもらえたこと、
ボクらのことを認めてもらえたこと。
こんなボクでも……そう言うと恭一はきっと怒るんだろうけれど、やっぱり、こんな髪の毛の色をした女の子が息子の彼女だとすんなり受けいれる大人が一体どれだけ居るのかと、たとえ恭一が「大丈夫だ」と言ってくれたところで不安な気持ちはぬぐえなかったから、本当に嬉しくて。
そしてなによりも、ただ認めてもらえただけでなく、お母さんはボクをとても気に入ってくださったみたいだし…彼の妹の美弥ちゃんも、なんとなく、ボクを慕ってくれている気がした。
恭一はお父さん似なんだなぁ…顔はともかくとして、仕草や雰囲気がそっくりだった。
もっともっと大人になったら、恭一もお父さんみたくなるんだろうか。
やさしくて、おだやかで、あたたかい。
…たしかにあの家族が、恭一そのものなのだ。
嬉しくて、夕焼けがにじんでしまいそうだ。
ボクは注意深く、周囲に悟られないように、窓へと向き直り、しゅんと鼻をすすった。
――ボクが感じたこの喜びを、きみにも感じてもらえたらいいな。
posted by 渡月・トワヤ
at 23:59:32 │
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「それじゃあ、また明日」
いつもと同じおやすみの言葉。
いつもと違うのは、それでもまだ、彼と一つ屋根の下に過ごしている、ということ。
見慣れない廊下を、客間まで歩く。
方向音痴でなくて良かった、と今日ほど思ったことはない。
そんなワケで寝付けるワケもなく、ボクは読書でもしようか、と本を取り出した。まず、小説を取り出したものの、寝付けないようなそわそわした心では、活字はただの文字の羅列みたいで、ちっとも頭に入ってこない。
こりゃあダメだな…、と小説は諦めて、歴史資料的な本を取り出す。
敷かれていた蒲団にごろりと俯せて、本を開いていたとき。
ふすまを遠慮がちにトントンとノックするような音が聞こえてきた。
「…トワヤさん、もう寝ちゃいました?」
ボクは反射的に飛び起きて、布団に正座してしまう。
しかし、あの声は、ご両親の…お母さんのそれではないと気づき、
「あ、いや…寝てないよ」
答えて、少しふすまを開いた。
目の前には、恭一の妹――美弥子ちゃん――が居て。
「何か…用事かな?」
彼女の、ヤケにキラキラした表情に釣られるように微笑み、思わず
「そこ、寒いよね。入るかい?」と問うた言への、
「いいんすかっ?」その即答に、彼女はボクがそう言うのを見越していたのかな、と思わず苦笑い。
「…で、お兄ちゃんとはどこで?」
「…ん?ってえぇ!どこでって…」
ストレートすぎる!
恭一から「いろいろと質問されるかもね」とは言われていたけれど、まさか、この時間にこうやって部屋までやってきて尋ねられるなんてさすがに思わなかったし、これまでも、特に誰かから恭一との馴れ初めを(しかもこんなにズケっと)訊かれたこともなかったので、正直面食らっていた。
「…んと、どこでったって。クラスメイトだよ」
手持ちぶさたで、枕を軽く抱き締めて。
「あ、そうなのかー。で、どうやって付き合いはじめたんすか?」
お母さんの話では、彼女も能力者だと言っていたっけ。
「んー…3ヶ月前の、アリストライアングルがきっかけだよ」
「…へぇ」
ボクは言葉を選びつつ、できるだけ彼女の質問には答えようと思った。
まぁ…ある程度は、オブラートに包みつつ、ね。
彼女は恭一とは、良い意味で正反対な感じだな、と話をしつつ思う。
人なつこくて、にこにこと良く笑う。
どちらかと言うと、ボクに似ているのかもしれないな。
そう思えば、なんだか可愛くも思えてきて。
「…ふ、ふぁぁ」
彼女がこの部屋へ訪れてからとうに1時間は経っていて、さすがに彼女も眠たくなったようだ。
そろそろ帰った方がいいんじゃないのかな、と言うボクの言葉に
「んぅ~……」と生返事をしつつ、うとうとと舟を漕いでいる。
…えぇと、彼女の部屋は聞いてないけど、恭一の部屋のとなりだろうか?
送ってって違ったら、なんかいろいろとマズい気もする…
暫く考えてみたものの、ボクの方も緊張がようやく解けてきたようで、だいぶ眠たくなってきていて、思考がまともに働かない。
しょうがない、か。
彼女に布団をかけてやり、自分も少し離れるように毛布をかぶって丸まった。
女の子同士だし…許せ。
ボクはなんとなく、頭の中で恭一に謝った。
…明日、兄妹ケンカが勃発しないことを祈るのみだ…!
posted by 渡月・トワヤ
at 15:20:50 │
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…緊張しすぎて、記憶が定かでないことは、黙っておこう(苦笑