posted by 渡月・トワヤ
at 22:46:39 │
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── ふぅ。
今読み終わったばかりの本を閉じた。
淹れていたお茶は、とうに冷めている。
ボクはそれを飲むのも忘れて、活字を目で追っていたのだった。
主人公の緊張をそのままトレースしたかのような、息をつかせぬスピード感溢れる物語。
ボクは、文字通り息をするのも忘れていたみたいに、今になってようやく大きく息を吐き出し、目頭を軽く指で拭った。
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ハッピーエンドと言うには、あまりにも失ったものが多くて切なくなる。
しかし、それでも明るく溢れる光を、軽やかに吹き抜ける風を、ボクはラストの場面に感じることができた。
ボクはこの物語から「信じることの大切さ」と「生きてこそ」というメッセージを受け取れたように思う。
すっかり冷たくなったお茶を一口含んだ。
喉はすっかり渇いてしまっていたようで、渋みが喉の奥をちくりと刺す。
ふと思い立って、香に火を点け、煙をくゆらせた。
少し、煙が目に滲みる。
ボクは奇しくも、能力者として生を受けた。
この物語の主人公ほど過酷ではないにしろ、やはり「死」というものを身近に感じずにはいられない瞬間は多くって。
だからこそ、より強く「生きたい」と願えるんだと思う。
ボクにはまだ、やりたいことがたくさんある。なりたいものだって、ある。
まだ、こんなトコで、くたばるわけにはいかない。
走れ、走れ、とにかく走り続けろ。
いつか言われたセリフを思い出す。
喉が喘鳴し、膝が折れて、視界が霞んだとしても、
その声に背中を押されるようにして、ボクは前へと進むだろう。
でも、ボクは一人じゃない。
信じられる仲間が居る。
その事実は、何にも替えがたい宝物だ。
posted by 渡月・トワヤ
at 16:00:56 │
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休み時間。
「…ねぇ、今日がケーキの日って、知ってたー?」
クラスメイトとの雑談中に飛び出した話題。
皆が口々に「知らないよねぇ」と言いながら顔を見合わせる。
話題を切り出したそのコは
「いちごが上に乗っかってるからよ」
と人差し指をピンと立てて、えっへんと得意顔。
は?
いちごが上に…?
皆一様に、眉間に皺を寄せつつ首を傾げる。
ボクはというと他聞にもれず、彼女たちと一緒になって首を傾げていた。
苺の帽子をかぶった、ハロウィンの時のまいおを思い出しちゃって、頭の中は満面笑顔の彼に占拠されていたのだ。それ以上の思案が浮かぶ余地が、ボクにはなかった。
「わかんないかなぁ…?」
しょうがないなぁ、とでも言わんばかりにケータイのカレンダーを表示させ、ぐるりとボクらへ見せてきた。そして一瞬の間の後「…あぁ」と納得したようなため息が、じわじわとあちこちから漏れる。
「じゃあ、ケーキの日って毎月あるんだね」
ボクは彼女に問う。
「あ、うん。そうなるね」
このコ、どっかのケーキ屋でバイトでも始めたんだろうか…?
とまれ、彼女のおかげ(?)で頭の中は、スウィーツのことでいっぱい。
今日の放課後は、絶対、恭一とケーキを食べに行こうと心に決めた。
「○○の日」とか、普段はあまり気にしないけれど、ケーキは別腹って言うじゃない。
銀杏並木の下を歩きながら、隣を歩く恭一を見上げ、ボクはにぃっと笑った。
「…というワケで、今日はケーキを食いに行こうと思うんだー」
「……というわけでって」
恭一が苦笑するのも無理はない。休み時間の顛末をまだ話していないのだから。
「ふふっ。今日はケーキの日なんだって。どうしてだか判る?」
「あぁ…それで」
恭一はボクの唐突さに合点がいったようで微笑んだ。
「…でも、それは知らないな……どうしてだろう?」
「いちごが上に乗っかってるからなんだって」
クラスメイトと同じようにヒントを少しずつ。
「……あぁ、なるほど。それは予想できなかったな」
ちょ…、なんでそれで納得できるんだよー!
ボクは思わず、アヒル口。
西日が射し込む、とあるケーキ屋のイートインコーナー。
恭一は、ブラックコーヒーとモンブラン。
ボクはダージリンティといちじくのタルトをチョイス。
席に向かい合って座って、いただきます!
「…あー、そのモンブランも美味そう。一口ちょうだい♪」
言うが早いが、フォークをぷすりと刺し、一口食べた。
恭一は、しょうがないなぁ…と、ボクを見てやさしく笑う。
カップから立ち上る湯気が、ふわりふわりと揺れていた。
posted by 渡月・トワヤ
at 16:27:45 │
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今日の晩飯は何にしようかなぁ。
わりとパスタが多めな、最近のボクの食事。
秋はきのこが美味しいから、それをふんだんに使いつつ、味付けでバリエーションを楽しんでいる。
今日もそんな感じにしちゃおうかな…
などと考え事をしながら、色づく街路樹の並木道を歩いていたとき、視界の端っこからふわふわと白くて小さいものがボクの目の前を横切っていった。
…ん?
わ、ゆきむしだ!
しかもよくよく目を凝らしてみると、飛んでいたのは一匹二匹ではなかった。
こんなに飛んでいるのを見るのは、はじめてだ。
今年は、雪がたくさん降るのかなぁ。
よろよろ、というか
ふらふら、というか。
腹についている綿状のものがいかにも重たそうな飛び方。
そもそも、「ゆきむし」ってネーミングが、すでに愛らしいよね!
ボクは試しに、ちょうど目の前を横切ろうとする一匹へと、両手を差し出してみた。
あたかも、舞い降りる雪に手を差し伸べるように。
ボクのてのひらに囲われて、逃げる素振りでも見せるのかと思いきや、ああこんなところに一休みできる場所ができた、とでも言うように、これ幸いとボクの指先へ止まったのだ。
驚いたのはボクの方。
逃げられるとばかり思っていたのに、あっさり捕まえてしまったのだから。
おいおい、ちょっとは警戒しろよ。
パチンってやられたらおしまいなんだぞ?
その警戒心のなさに、どうしようもないなぁ、なんて若干の庇護欲を掻きたてられつつ。
へぇ。
お腹の下辺りを包むように、何か出てんだなぁ。
あまりに小さすぎて、その白い綿状のものに触れる勇気はさすがになかったけれど、まじまじと観察してしまった。
さて、晩飯は何にしようか。
思考が振り出し地点に戻ったところで、ゆきむしを空へと放つ。
ゆきむしは、上へ下へとふらふらしながら、そのあたりを漂い続けている。
むしの名に影響され、心が冬の支度に取り掛かる。
今日は、シチューにしようかな、あっ煮込みうどんもいいかも。
考えるメニューも、考えるだけでほかほかするようなものに変わっていた。
だってほら。
もうすぐ、冬がはじまるよ。
posted by 渡月・トワヤ
at 12:30:50 │
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「ああ、腹減ったぁ!早く弁当食おうよー」
昼休みを告げるチャイムが鳴るやいなや、ボクは恭一の席まで飛んでいった。
彼の机の上に自分の弁当が入った袋を置くと、ちょうど学食へ行くというクラスメイトが居たので、その子から椅子を拝借し、ガタガタと恭一の机に寄せるとさっさと座って弁当の包みを広げはじめる。
「……此処でいいのかい?」
恭一はそんなボクの様子に、戸惑いを隠せないでいる。
「…うん」
ボクは小さく頷いて「だって、さすがに寒いやろう?」
ここ数日は特に、朝晩の冷え込みを引きずって、日中も気温が上がらないのは本当だ。
だけれど、それだけの理由で、彼が納得してくれないことも、ボクは知ってる。
彼が注意深く、ボクの表情を見つめたままでいるのが、何よりの証拠だ。
今まで、昼休みはもっぱら屋上で過ごしていた。
それがこのボクの(理由が不明な)恥ずかしがりの性格を慮った上でのことだったのだから、そのボクがクラスメイトの前で彼にくっつくようなことをするなど、彼が心配するのは無理からぬことだと、わかっている。
ボクは、深呼吸をひとつし
「だって、恭一のこと好きやし…それを隠す必要とか、ないなって思って」
昼休みの喧騒に乗じ、彼にだけ聞こえるくらいの小さな声でつぶやいた。
やっぱり、顔は赤くなっちゃうけれども、もうこればっかりはしょうがない。
「……うん、ありがとう。トワヤが良いなら、それで良いよ」
そして恭一は同じくらい小さい声で「…僕も好きだよ」と言って、はにかんだ。
…心なしかその笑顔には、嬉しさが滲んでいるように、思えて。
影響を受けやすい、といえばそれまでのこと。
昨夜読んだ本の内容にボクははっとさせられたのだ。
彼を想う気持ちにうそはないから、まっすぐ背筋を伸ばし、自信を持っていいことなんだって。
気づくのに、こんなに時間がかかっちまった。
けれどきっときみは、許してくれるんだろう。
いつも傍で、ボクの思うままにさせてくれ、ボクが回り道をしても気長に待っていてくれて、本当にありがとう。
posted by 渡月・トワヤ
at 16:09:17 │
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とん、と触れた合図で繋ぐ手。
ちらっと交わる視線、自然とこぼれる笑み。
昨夜、意を決して飛び込んだナイトメアビーストの迎撃戦の選抜メンバーからもれたことを告げる帰り道。
「そうか……」
残念だったね、と慰めてくれる恭一も、すでに他の依頼を受けていたから、今回は立候補しなかったそうだ。
「僕らの思いを背負ってくれる彼らのサポートに徹しよう」
一般人がボクらのとばっちりを受けて傷つくのは、絶対に許されないことだもんね。
カラカラ…と乾いた音をたてながら一枚の枯れ葉が、風に流されてボクらを追い越していった。
あれよあれよという間に、冬が来る。
夕闇迫る時間は日ごとに早まり、街路樹も葉をひらひらと散らせ、徐々にその枝を露わにして。
ボクは今日、この秋の初マフラー。
ぐるぐる巻きにしたマフラーに鼻まですっぽり埋めるようにすると、ほわんとしてぬくぬく。
冷たい風もへっちゃらなのだ。
そんなボクを見て恭一は
「なんだか亀みたいだよ」と笑う。
時折吹く風が、まだ梢に残る赤や茶色の葉をカサカサと揺らす。
その音を見上げるボクの目に、薄青の空と赤い葉のコントラストが切り絵のように鮮やかに焼きついた。
「きれいだね」「……ああ」
ボクの言葉につられて見上げた彼も頷いた。
こういう時、ボクはことさら
ああ、このひとのこと、どうしようもなく好きだ、って、想うんだ。