posted by 渡月・トワヤ
at 00:42:11 │
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正直言って、怖い。
下手を打てば、すぐ傍には死が控えているようで。
だけれど、ボクは能力者に生まれた。
このチカラは、誰かのために生かしなさい、と神さまが与えてくれたのだろう。
今が、その時…なのか。
逡巡を続けるボクの手を握って、恭一は励ましてくれる。
その穏やかさが、ありがたかった。
繋がれたこの手に、力が少しこめられる。
そうだね。ボクは一人じゃない。
仲間も一緒なんだ。
やれることを、ただ全うしよう。
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posted by 渡月・トワヤ
at 14:52:28 │
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穏やかに晴れた午後。
風はもう、冬のそれみたいにつめたいけれど、柔らかな陽射しの中、手をつないで歩けば、やっぱりとても暖かだ。
今日はいつまでも、こうして二人でゆっくりと歩いていたい気分。
恭一から
「どこか行きたいところはない?」と尋ねられても、
二人で歩いていればそれだけでわりと満足してしまっていたから、
「んー…」とお茶を濁すように鼻で唸って、ヘラヘラ彼を見る。
ボクのその様子に恭一は、しょうがないなあってやさしく微笑いつつ、当て所のない散歩にどこまでも付き合ってくれるんだ。
でも。
まだ傷は痛むかな。
それでなくても、恭一ってば、我慢しちゃいそうな性質だし…
あんまり連れまわすのも良くないか。
「よし、決めた!」
ボクはひらめいて、ちょうど目に留まったケーキショップのカフェコーナーを指差した。
「今日は恭一の快気祝い!おごっちゃるけぇ、あそこ行こ!」
言いながらすでにそちらへ向かって歩き出すボク。
自然、引っ張られる格好の恭一は、些か遠慮する様子を見せる。
「大丈夫、大丈夫。予算は二人で1,000円だから!それ以上は自腹なー♪」
ボクはふふっと笑う。
恭一もそれならば、と納得してくれたらしい。
……まぁ結局は、予算もなにも。
割り勘になっちゃったんだけどね。
posted by 渡月・トワヤ
at 16:35:09 │
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今日は寄り道もそこそこにして早めに部屋へ帰ると、コーヒーを沸かして机に向かった。
普段なら、ここまで優等生なことはしないのだけれど、
今日ばかりは重要なミッションを抱えているのだ。
ボクはかばんから、1冊のバインダーノートを取り出した。
前回のテストが間近に迫ったある日、ようやく、ああ来年は受験なのだ、と気づき、勉強に本腰を入れることにしたボクは、授業で使っていたノートを見返して愕然とした。
メモと呼んでも差し支えないほどの(時折ミミズが這ったような)走り書きの羅列。
センセの板書をそのまま書き写した(らしい)これでは、あまりにひどすぎるし、いったい何のことを言いたいのか、書いた本人にすら、さっぱりわからないときている。これではあんまりだ。
そこで一念発起。
ボクは清書用のノートを準備し、授業の記憶が鮮明なうちに、清書することにしたのだ。
この清書作業、ハマると案外楽しいもので、重要項目ごとにマーカーで色分けしたり、ワンポイントや疑問点に簡単なイラストを添えてみたりした。
そうやって楽しみつつ纏め上げたノートは、前回のテスト時に大いに役立ち、(自分の過去の成績と比べて、だけど)目覚しい点数アップを記録した。
まさに快挙!やればできる子!!
それで味をしめたボクは、今でもノートまとめを欠かさない。
しかし、今日は自分のためではなく、大怪我を負った恭一から預かったノートへの書き写し作業。
他人のノートなどなかなか見る機会には恵まれないから、なんだか緊張してしまう。
けれど、恭一のノートを開いたボクは、少し目を見張って、それから顔を綻ばせた。
ああ、やっぱりね、と嬉しくなったのだ。
……性格、出てんなぁ。
何事もキッチリしていないと落ち着かない彼らしい、整ったノートがそこにはあって。
…でも、待てよ?
ボクはノートのことを頼まれたとき、彼のかばんからこれを取り出したぞ。ってことは、授業の段階ですでにこの完成度なワケ?!
ボクはため息を漏らしつつも素直に「すごいなぁ」と彼を尊敬してしまった。
これだけまとめられるってことは、授業の内容をきちんと理解しているってことだもの。
うん、ボクも負けてらんないや。
(でもボクは、授業のときにそこまで理解できるはずもないので、ノートまとめで盛り返す!)
彼がこのノートを見返すとき、できるだけ違和感を覚えないようにと、彼のノートの取り方と見比べながら、しばらくのあいだ書き写し作業に没頭した。
それはそうと。
今日ほど、幼いころから習字教室に通わされていて良かった、と思ったことはないかもしれない。
posted by 渡月・トワヤ
at 02:22:36 │
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読んだ本、聴いた曲。
その時感じ取ったことを、恭一に話すのが、ボクは好きだ。
彼は、時折相づちを打ちながら、ボクの言葉ひとつひとつをかみ締めるように聞いてくれる。
だから、ボクは安心して(小学生の読書感想文より酷いけど)思いついたままの気持ちを口にすることにしている。
心で感じたなら、心で言葉にする。
語彙が少なくて、ちょっとずつ軌道修正をしたりもするけれど。
感じた温度をそのまま伝えたい。
聞いてほしい。
ボクのこころを。
きっとそれは、彼の思いとは違っていることだろうと思う。
そもそも男と女なのだ。
それだけでもかなりの違いがあるはず。
にもまして、生まれた場所も、育ってきた環境も違うんだから、違って当たり前なのだ。
一緒だって思うときはそりゃ嬉しくなっちゃうけれど、それでも全部が同じなんて。
同性の友だち同士でもキモチワルイしありえない。
だからこそ、ボクらは違っている事柄について時折話し合う。
感じたことや思っていることを差し出し差し出され、まるでプレゼント交換をするように、やり取りする。
恭一の考え方や価値観を自分の中に住まわせることで、ボクは彼の視点と共に物事を見聞きし、多角的に捉えられているように思う。
それはそのまま、自分の人間としての、度量の大きさになるような気がするんだ。
大事なギフト。
これからも、たくさん交換していきたいなあ。
posted by 渡月・トワヤ
at 13:49:40 │
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昼食を済ませると、読みかけの本を開いた。
図書館への返却期日は1週間先だけれど。
このところの知識欲とでもいうのか、早く次を借りて読みたい気分でいっぱいなのだ。
…そもそも、お目当ての本には、未だフラれているし。
一章が終わったところで、ふぅ、と息を吐き出して、顔を上げた。
今日は曇りの天気の所為か、やけに冷え込んでいる。
窓からの明りだけでは部屋の中は充分に明るくならないし、その薄暗さがまた、肌寒さを増長させているようにも感じられる。
ボクはスタンドライトを点けた。
今頃、何をしてるかなぁ。
ボクは恭一を想う。
ボクが想うように、今、彼もまたボクを想ってくれているとしたら。
その幸せな奇跡をボクはなんと呼べばいいんだろうか。
ボクはまた、ページを繰る。しばらく読み耽っていたときに、ふと、指先が冷えていることに気づいた。
…道理で、どうも読みづらかったはずだ。
ほぅと指先に息を吹きかけ、ゆっくりと両のてのひらをこすりあわせた。
秋が終わりを迎え、入れ替わりに冬がくる。
紅葉はますます色を深め、ひらひらと風に散っていく。
これを読み終わったら、散歩に出かけよう。
図書館によって本を探し、スーパーでころんとした小さな焼き芋を二つ買って、恭一に逢いにいこう。