posted by 渡月・トワヤ
at 16:38:14 │
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一日の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
ガタガタと席を立つ同級生に紛れて、ボクは恭一の席まで飛んでいく。
「ねえ、恭一。今日、行きたいトコがあるんだけど、付き合ってくんない?」
恒例の下校デート。
行き先を前もって決めている時もあれば、そうでない時もあり、しかも十中八九、その行き先はボクが行きたい場所。
「ああ、良いよ」
恭一はカバンにテキストやノートを仕舞いながら、今日も優しく目を細めて快諾してくれた。
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JR鎌倉駅から江ノ電に乗った。
電車内は程よく空いていて、ボクらは並んで腰掛ける。
握り合った手は、ふたりの間にそっと隠して。
今日はあいにくの曇り空。
いつもならこの時間は、西日が車内をオレンジに輝かせるのだけれど。
「恭一にも見せたかったなぁ」
そう言ってボクが唇をとんがらせれば、恭一は
「また次があるさ」
と微笑む。
さほどスピードも出ないこの電車がボクはなぜかしら好きだ。
ガタンガタン、と規則正しいレール音に紛れるように、昨日読んだ本のことや、今度行きたい店のこと、もうすぐやってくる冬のイベントのことなど、ぽつりぽつりと言葉を交わし、くすっと笑いあう。
湘南海岸公園で下車し、海までの道を歩く。
海の近くは風が強く吹く。
恭一の髪が風に舞い逆立って、見事なまでにぐしゃぐしゃになった。
ボクはなんだかおかしくて、くふふっと笑う。
恭一も、仕方ない、という風に肩をすくめて、笑った。
大切なのは、ここに在る今、そしてそこから続く、となりにいるやさしいひとと、共に在る未来。
喜びも悲しみも、二人で分かち合いたい。
それを忘れてはいけないと、ボクは海に来たんだ。
この風で、禊をするために。
風はもう冷たくて、でも心はこんなに温かくて。
ねぇ、きみに伝わってるかな?
ボクがこんなに、しあわせを感じていること。
posted by 渡月・トワヤ
at 23:59:59 │
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過去に囚われて動けなくなるなんて、どうかしてる。
今、一番大切にしなくてはいけないものは何か。
普段ならば、考えなくても判ることなのに、ね。
あの時と決定的に違うのは、
きみがいるということ。
ちょっとの間、手を繋いで肩を寄せて、雨やどり。
傘はない、きみがいる。
上がらない雨はないのなら、いっそのこと、
もうちょっとこのまま手を繋いで寄り添いあえる時間を満喫するのも、悪くないよね。
posted by 渡月・トワヤ
at 21:59:59 │
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「トワヤはどう思った?」
読んだ本について、恭一と交わす会話。
それは、恭一がとある事象について、ボクへと意見を求めてきたところから始まる。
恭一とボクでは、それについて正反対の考え方を持っていた。
「実はこの本を読んでそのことを考えていたんだ」
ボクが興味深そうにしていたので、彼はあらすじを語るような無粋なことをせず、タイトルを教えてくれたのだ。
そのタイトルを先日図書館で発見したボクは、さっそく読んでみることにした。
こういうことも、一期一会。
知りえた時がそのタイミング。
「トワヤはどう思った?」
恭一に尋ねられ、ボクは手帳を開いた。
心に留まった言葉や、ちょっとした感想なんかを書き記しておいたページを見るためだ。
ボクの言葉に黙って頷きながら、彼はそれらを取り込んでいくようだ。
実はボクは、自分の考えを話すのはちょっと苦手で緊張する。
自分の信念のようなものは多分持っていると思う。
誰に似たのか、頑固なトコがあるから。
ただ、ディスカッションの場に出ると、自分とは違う意見だったとしても「あぁ、尤もだな」と思えば、ボクはアッサリと意見を変えてしまうこともあるし、だとすると自分の意見など無意味だと思ってしまうから、あえて聞き役に徹し、色んな意見を自分なりに噛み砕いてまとめるということに慣れてしまっていた。
そんなワケで、自分の考えを話している間も、恭一の表情が気になっていた。
論点がズレていないか、意味不明なことを言っていないか。
ヘンなプライドと相まって……正直、こういうことにはまったく自信がない。
ボクが一通り思ったことを話したあとで、恭一はこの本について、興味深い意見を見つけたよ、と
まったく違う視点からの評価を話してくれた。
それにもまた一理あると納得したのは彼もボクも同意見で、片方から物を見るということの危険性を再度思う。
「だとすれば…こういうことなのかもしれないね」
「大切なのは、そういうことなんだろうね」
自分達がそこから導き出した結論に、ボクは満足した。
恭一も同じように思っていてくれていたら嬉しいなぁ…
誰かと本の読後にこういう風に意見を持ち寄って話をすることなど今までなかったけれど。
こういうのって、ちょっといいな。
posted by 渡月・トワヤ
at 09:51:01 │
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「あれー」
コインランドリーに足を踏み入れて、ボクは思わず声を上げる。
隣人がそこに居て、漫画を読みながら、缶コーヒーなど飲んでいるのが見えたからだ。
ボクの声に、彼は顔を上げて、口の端を上げて笑う。
「おぅ、久しぶりやのぅ。まぁ座れや」
自分の腰掛けている横にあった丸椅子をボクへと勧めてくれるのはいいが…ここはキミの部屋かなにかか?と思わず心の中で、ツッコミ。
「まぁ、そう急ぐなよ」
ボクはくつくつ笑い、ランドリーに放り込んだ洗濯物が回り始めたのを確認して、彼の勧める椅子へ腰掛けた。
「久しぶりやねぇ」
ボクの生活サイクルが変化した所為で、顔を合わせる機会がぐんと減った気がする。
「そりゃ…そっちは色々と忙しそうやからのぅ」
ボクの心の内を見透かされたようで、うっと声に詰まった。
「まぁ、景気良ぅやっとんのは、えぇこっちゃ」
彼は嬉しそうに笑う。
「うん、まぁね…」
ボクは頬にさっと朱がさす気がして、思わず手のひらで押さえる。
それからボクは、彼のそんな笑顔に、心の中で「ありがとう」と言う。
そして、これからもきっと彼に対して何度も言うんだと、変な確信があったりも、する。
どんだけ口に出すか、は定かじゃないけどな。
posted by 渡月・トワヤ
at 23:59:59 │
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誕生日おめでとう!
…と言っても、その誕生日は少し前に遡らなければならないのだけれど。
カンちゃんの誕生日が過ぎて、1週間。
最近音沙汰はないし、元気なんだかどうなんだかよく判らないんだけど…
とりあえず彼の誕生日には、彼ん家のポストにプレゼントと手紙を(ぎゅっぎゅっとね!)詰め込んでおいたのだった。
今日になってプレゼントを受け取ったと連絡をもらい、しばらく話をした。
「いつ以来だっけ」
「さぁ?もう覚えちゃいないよ、そんなこと」
前にいつ会ったかなど忘れちゃうぐらいでも、
つい昨日「じゃあねー」と手を振り合ったかのように、こうして笑いあえる。
ボクとカンちゃんには、ブランクなど関係ないのだ。
それぐらいの信頼関係があると、ボクは勝手に思っている。
カンちゃんも同じように思ってくれてたら嬉しいけれど…
彼は自分の手の内をあまり明かさないからな。
まぁ、いずれにしても、ボクと付き合いを続けてくれているのだから、それがすべてなんだと、ボクは勝手に信じている。
話が途切れたところで、
「んじゃ、またね」
と手を振って別れる。
何かあったら、力になるよ。
言葉にはしないけど、多分(やっぱり多分だけど)お互いにそう思っている、はずだ。